上方落語の長編「地獄八景亡者の戯れ」はあの世を舞台にしたファンタジー落語。
全部を演じれば一時間以上もかかることもある大作で、これまで多くの噺家さんがチェレンジしてきた演目だ。
長編だけに前編後編と分割されることも少なくなく、また長いだけに最後まで弛れずに演じ続けなければならない難しいネタでもある。
だから演じるのは大抵大ベテランの噺家さんで、間違っても大学の落研演者が演じるネタでは決して無い。
私はこのネタ、桂枝雀版と桂米朝版のLPを持っているのだが、かの桂枝雀が演じてさえ、終盤の一部が若干弛れているほど、難しいネタでもある。
そこへいくと流石に人間国宝「桂米朝」の地獄八景亡者の戯れは弛れさせず、奇をてらわず、最初から最後まで観客を魅了してやまないものがあるのだ。
ところが、このネタ。
生で聞くことはもうほとんど不可能。
桂枝雀は亡くなってから久いし、米朝さんとて車椅子の人。
先日、毎日放送ラジオにゲストで登場してきた米朝さんの話は、何を言っているのかさっぱりわからないくらい老いていた。
ファンとしてはかなりショックだ。
パーソナリティの近藤光史が、
「ね、米朝師匠、そうでしょ」
と話しかけても、
「ん ........ (ピチャピチャと入れ歯の口を動かす音).....それはやね .......ん」
というような調子。
「その頃は、師匠が中心になってされていたんですよね。」
と再び話しかけても、
「(ピチャピチャと入れ歯の口を動かす音).........まあね.......あの時分は......どやったかな」
以降、近藤光史が質問しては師匠の代わりに、
「.......ということだったんですね」と一人でいう始末。
師匠はというと、
「そうやね」
と口を挟むぐらい。
まるで落語の世界なのであった。
こうなると米朝さんの生の地獄八景はもとより、百年後、七度狐、帯久なんかも聞くのは無理。
かなり残念だ、と思っていたら昨日のニュース。
なんでも世界的に有名なアンドロイド科学者・大阪大学の石黒浩教授が桂米朝のアンドロイドを開発し、大阪梅田の産経ブリーゼブリーゼで発表会をしたのだという。
もともと不気味の壁を克服したアンドロイドを生み出す先生だけに米朝師匠のアンドロイドも精密の極み。
動き、表情、語りは米朝師匠そのものなのだという。
会見に出席した米朝さん、息子の小米朝もとい米団治も感激の様子。
このアンドロイドは8月1日から一般にもお披露目ということだが、是非とも桂枝雀や桂吉朝といった「もう会えない、生で聞けない噺家さん」をアンドロイド化していただき、落語会を開いていただきたいと思う私なのであった。
ああ、いつの日かもう一度、生で「お日いさんが........かー!」を見てみたい!
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