「結末はどんどんひとに喋ってください」
というキャッチコピーで公開されたのは映画「ファール・プレイ」。
1978年製作で監督がコリン・ヒギンズ、主演はゴールディ・ホーンとチェビー・チェイスだった。
テレビのCMで流されたそのキャッチコピーにキャッチされた高校生だった私は公開初日に今はなき梅田東映劇場に足を運びこの映画を鑑賞した。
それほど話題性もなく、この年が空前のSFブームで同じ時期にスピルバーグの「未知との遭遇」が大ヒットしていたにも関わらず、この地味っぽい映画の客席はほぼ満席。
CMのキャッチがかなりの効果を出した映画だったのでのではなかったのかと今になって思い出すのだ。
映画そのものはヒッチコックのサスペンステイストを持った秀逸なコメディで、以後私は現在に至るまで映画はコメディが最もお気に入りのジャンルである。
ところで「結末を人にしゃべる」というのは「口コミ」を広めることであることは今でならよく分かる。
インターネットの無かった1978年。口コミをどうやってマーケティングに利用するのか。
多くのクリエイターやマーケターは頭を悩ましたことだろう。
本当に面白いもの、そうでないもの。口コミを通じてできるだけポジティブな情報を親しい人のネットワークを通じて伝えていくことのいかに難しかったことか。
もちろん口コミ成功の大きな事例が当時は存在した。
前年の1977年に公開された「スター・ウォーズ」がそれで、全米でたった50館の映画館で公開されたB級SFと思われていた作品は見た人の度肝を抜いて口コミで広がり、ついには歴代ナンバーワンのヒットに繋がった。
そういう時代だったからこういうコピーも生まれたのかもしれない。
この口コミの影響は現在、フェイスブック、ツイッター、ブログなどを通じて絶大なチカラを持っている。
とりわけSNSでは知らない人ではなく、自分の知っている親しい人からの情報なので信頼性が高く(信頼性の低い人の情報は情報の信頼性も低いことに注意が必要だ)、しかもインターネットがあるので伝達が早い。
こういう時代では真実を曲げると、その曲げた部分が露骨に見えてくるので、たとえば広告で製品のいいところだけをPRしてもSNSを使って「実はこの製品は.......」とあっという間にネガティブな情報を拡散されてしまう。
「ウソはつけない」時代になってきてる。
そういう新しい時代のマーケティングへの考え方について書かれたのがイタマール・サイモンソン、エマニュエル・ローゼン共著「ウソはバレる」(ダイヤモンド社 千葉敏生訳)。
インターネットを通じて流れるクチコミ情報が既存のマーケティング戦略を大きく覆し、テレビCMや雑誌広告で編み出してきた手法が通用しない時代になっていることに気がついている人はまだまだ少ないという。
もしあなたがカメラを買おうとする。
従来であれば、雑誌の批評やテレビCM、メーカーの知名度、カタログ表記などを吟味して製品を選んでいただろう。
しかし本書は言うのだ。
今なら雑誌やテレビCMも参考にするが、最も情報としてチェックされるのはアマゾン・ドット・コムのレビューであり、星の数であり、価格調査サイトの口コミであり、SNSを通じた知人の評価だ。
これがもし1978年ならこういう情報を入手するのはほとんど不可能で、どうしてもという場合は週末の居酒屋で酒を飲みながら話題として引っ張りだすか、数人もいないだろう同じ趣味を持つ友人に恥を忍んで相談する、というぐらいしか方法はなかった。
口コミ情報を入手するには手間もかかるし時間もかかる。
いろいろ聞いて回った頃には購買欲も冷めているかもしれない。
しかし、今はインターネットで簡単迅速に調べることができるのだ。
メーカーや映画会社が広告する情報に人は安易に騙されない。
「ウソはバレる」
極めて重要な社会変革かもしれない。
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