<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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昨年度の最大のヒット映画といえばアニメ映画の「君の名は。」。
その「君の名は。」を先週の日曜日に鑑賞してきた。
何を今更、というなかれ。
我が家で「君の名は。」を見てみたいと盛んに訴えていた高校生の娘が受験勉強から解放されたため、やっとのことで家族で観に行くことができたのだ。

この映画はそもそも昨年8月26日に公開された映画なのに未だにロードショー公開が続いている化物作品だ。
誰がこの映画のヒットを予感していたであろう。
期待感の無いまま大ヒットしたその理由を私は知りたい。
それが映画を見た最大の理由であった。
何の、どんなところが人々の心を惹きつけるのか。
なにしろこの映画は配給会社でさえヒットするとは期待していなかったに違いない。
というのも夏休みも終わりという8月末に公開されたところが「期待外」というところをはっきりと表しているからだ。

これは配給会社が必ずしもヒットを予見することができないという実例で、そんな作品の有名な例に「スター・ウォーズ」がある。
かの歴史的大ヒット作品も初公開の1977年はわずか50館での公開だった。
全米で50館なので配給元の20世紀フォックスはまったく期待していたとは思えない。
「監督はほとんど新人だし、出演者もスター俳優がいないし、玩具がビュンビュン飛んでいるだけの、こんな映画ヒットするわけがない」という判断だったようだ。
しかも当のルーカス本人がコケるのを恐れて公開日はハワイへトンズラしていたという伝説のある映画である。
「君の名は。」まさしく、そういう配給会社が期待していなかった映画なのだ。

娘の受験が終わるまでこの映画は見ないという約束があったため、事前にこの映画の情報を仕入れることを私は控えていた。
物語はもちろんのこと、評判、や出演している声優の名前さえ調べることはなかった。
ただ、なんでヒットしているのか。
それが気になって仕方なかった。

楽しみにしていた娘も、公開された頃、つまり受験シーズンが激化する直前に見に行った友達の評価を聞いていただけなので事前知識は殆どなかったのだ。
ただ主人公の男女の心と体が入れ替わる映画、ということだけを知っていたに過ぎない。
私はこのことから大林宣彦監督、小林聡美、尾美としのり主演の「転校生」の焼き直しではあるまいか、とも想像していた。
ところが全く違う映画だった。

ロードショー公開されて半年以上が経過。
私達親子が訪れた映画館は驚いたことに未だ客席が三分の一以上埋まっていたのだ。
これは凄い。
私はどういう映画が始まるのか久しぶりにワクワクして本編が始まるのを待っていた。

結論から言って、見終わった後の感想は、
「何か判然としないが、心の底に何かがある、いたたまれない気持ち」
が蘇ってきたということだった。
蘇って来た、ということは以前に体験したことのある感覚ということなのだが、その感覚とは阪神大震災が発生した直後からの数年間感じ続けたあの、
「いたたまれない気持ち」
と同じなのであった。

映画が公開されて半年以上も経過するのでストーリーを知っているひとも多いことと思う。
この映画は、
「あの時、あのことに注意をしていれば、あの大災害でも死なずに済んだかも知れない」
という、あの気持を思いださせるものがある。
後悔とはまた違った、坑がうことのできない運命を、受け入れがたいと感じる「あの感覚」とでも言うのだろうか。
複雑な感情だ。
そう、この映画は単にエンタテーメントとしての物語ではなく、日本人の多くが過去20年間に遭遇した2つの巨大災害をフラッシュバックする映画だったのだ。

この映画を見終わって数日間、あの感覚がなかなか消えず、
「どうしてそういう感覚を持ってしまったのか。確かめるためにもう一度見てみたい」
と思うようになっていた。

もしかするとこの映画のロングランはそういうところに人々を惹きつけて止まないという理由のひとつがあるのではないか。
考えれば考えるほど、この映画が生み出すあの感覚が魔力のように私の心を包み込んでくるのだ。


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