萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第85話 春鎮 act.41 another,side story「陽はまた昇る」

2017-11-10 23:50:31 | 陽はまた昇るanother,side story
To me, fair frend, 美しいひとへ、
harushizume―周太24歳3月下旬


第85話 春鎮 act.41 another,side story「陽はまた昇る」

小雪ふる門、常緑の葉も白くなる。

こまやかな銀色かすかな風、どこか深く水が香る。
深々、音もない白銀しずかな里にソプラノ朗らかに笑った。

「着いたとたん降りだしたね、露払いかな?」

ぱたん、

運転扉をとじて施錠して、ふりむいて明眸が笑う。
もう決意している、そんな眼ざしに周太は微笑んだ。

「それって美代さん、お相撲の露払い?」
「そう、今から勝負だもん。湯原くんはさしずめ行司役だね?」

きれいな明るい瞳くるり笑ってくれる。
まだ左頬は紅い、それでも楽しそうな唇が言った。

「露払いって元の意味はね、神さまが通る場所の露を払い落とすことなんだ。この雪、勝利の女神だといいなあ、」

澄んだソプラノが小雪うたう。
雪空あおぐ瞳きれいに明るくて、記憶の詞ふれる。

To me, fair frend, you never can be old,
For as you were when first your eye I eyed,
Such seems your beauty still.

遠い幸せの時間、父がくちずさんだ異国の詩。
あの詞が今この山里に映る、雪ふる横顔の瞳まんなかに。

「ん…きっと女神さまだと想うな、」

声にして首すじ熱そっと伝う、だって誰のこと?

―こんなに大事なんだ、もう…それなのに僕はまだ、

大切だ、けれど忘れられない声がある。
もういちど逢えるだろうか?想いに隣が微笑んだ。

「湯原くんにも勝利の女神だよ、きっと、宮田くんにもね?」

おおらかな瞳きれいに笑ってくれる、ほら、こんなだから慕わしい。
いつのまにか超えた想いの相手に笑いかけた。

「ありがとう…きれいだね、」

きれいだ、ほんとうに。

きれいで明るい大きな瞳、この眼ざし大好きだ。
だから願いごと叶ってほしい、そんな雪の門前、常緑のむこう屋根も白い。
あの玄関くぐればそうだ、友人の言葉どおりだろうか?

『あのなあ周太、今、小嶌さんち行くと選択肢が無くなるんじゃね?』

チタンフレームの眼鏡ごし、聡い瞳が言ったこと。
昨夜に話した時間めぐりだす「選択肢」ここは分岐点だ、あのメールもその証拠。

……
subject:帰ってきて?
本   文:責任について話しましょう、お父さんと待っています。
……

あのメール、彼女の母は何を願い昨夜、あの一文を選んだのだろう?
どんな貌で文字打ったのだろう、その指は震えたろうか、それとも?

そんなこと昨夜からずっと考えている。
考えても定まらない、それでも今どうしても支えたくて傍にいる。

―僕こそ責められるかもしれない、でも支えたいんだ…それくらい、だいすきなんだ、

雪の門前ふたり佇んで、隣の横顔ただ眺めている。
その肩はベージュのコート透かして華奢で、けれど逞しい意志あふれている。
その強靭まで幾度いくつも震えた肩、泣いた瞳、そうして腫れた頬のまま彼女は笑った。

「ちょっと手強いかもしれないけど、でもゼッタイに、無事無傷で湯原くんは帰すからね?」

ああほんと、彼女は男前だ?

「ふっ…、」

ほら噴出してしまう、だって想い出してしまった。
つい可笑しくて笑った隣、大きな瞳くるり笑った。

「あははっ、なんでここで笑っちゃうの?」
「だって美代さん、あの…ラーメン屋のおやじさんのことばおもいだしちゃって僕、」

笑いながら声にして、ほら?共通の時間つながっている。
共にした記憶の温もりにソプラノ共鳴した。

「ね、おしぼりで顔拭いちゃったときのこと言ってる?オトコマエナネエサンダナアって言われた時?」
「ふふっ、それ…あははっ、」

再現ものまね可笑しい、笑ってしまう。
こんな時なのに二人ころころ笑いだして、その背後から呼ばれた。

「なんだね、ソンナに大笑いしちゃってさ?小嶌のおっちゃん聞こえてんだろねえ、だまーってさ?」

さくりっ、さく、雪ふむ足音にふりかえる。
純白やわらかに舞う空の下、よく知っている声が笑った。

「ただいま美代、御岳にようこそ周太?」

長身のダークスーツ姿、その瞳からり底ぬけに明るく笑う。
差した傘とボストンバッグ携える幼馴染にソプラノ笑った。

「おかえりなさい光ちゃん、助太刀に来てくれたの?」
「退職して帰ってきたダケだね、俺んちは隣だろ?」

黒目きれいな瞳が笑ってくれる、この笑顔にも逢いたかった。
だしぬけの再会に立ち尽くす雪の里、雪白まぶしい笑顔が言った。

「さて周太、美代にくっついて来ちまったみたいだけどさ?小嶌のおっちゃんは末っ子溺愛マンだよ、ロックオンされたらコワイけど?」

きれいな笑顔まっすぐ言ってくれる。
あいかわらず率直な幼馴染に呼吸ひとつ、白い吐息に笑った。

「美代さんの手伝いがしたいんだ、一緒に勉強する約束だから…もう嘘つきたくないんだ、誰にも、」

大風呂敷、なんて言われそう?
そんな覚悟もしてきた山里の門前、怜悧な瞳が笑った。

「なるほどね?じゃあ俺はイイ拾いもんしたみたいだね、」

深いテノール笑って、白い指まっすぐ隣家を指す。
見覚えのある門前から一台タクシー去って、マフラー姿ふりむいた。

「…え?」

なぜここにいるのだろう、このひとが?

「ね…なんで?」

ほら隣も驚いている、それはそうだろう?
ならんで見つめる雪の道端、登山靴かろやかに学者が笑った。

「御嶽駅もちょっと変わったなあ、何年ぶりか数えちまったよ?」

(to be continued)
【引用詩文:William Shakespeare「Shakespeare's Sonnet 104」】

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山岳点景:木洩陽の秋、柑子色

2017-11-10 08:20:23 | 写真:山岳点景
柑子色、橙色、黄金、金茶色、秋の陽×黄葉えがく染める色事典。


撮影地:美し森山@山梨県北杜市八ヶ岳下部2016.10

美し森は標高1,542メートル、牛首山へ向かうルートは足場イマイチもあるので冬装備×登山靴きちんとお出かけください。
○11月以降かなり冷え込みます、冬期は巨大な霜柱がベンチをひっくり返す零下の世界です。
○冬期はトイレ使用不可になります、使用できる場所を確認の上お出かけください。
○巨大な霜柱を普通の靴で踏みぬくと危険です、登山靴で足もとシッカリがおススメ。
○寒冷期の木道は凍結しやすい→滑って転倒も多いです、特に降雪×気温低下後は軽アイゼンあると安心だと思います
※但し木道むきだしの個所はアイゼンで踏まないでください、木道を傷つける+アイゼンの刃をひっかけ転倒します。
○野性獣の生息地です、クマ鈴や話し声で動物たちに通行予告しながら歩いてください※遭遇時の対処は専門書で要チェック。
※森へ踏みこむと熊の爪痕や鹿の群れをよく見ます、秋は冬ごもりの餌探しで活動も活発なので遭遇はホント要注意で。
※美し森売店より奥は登山道、特に美し森ロッジ分岐→牛首山・赤岳への道は浮石×藪漕ぎ×露岩の道が続くため登山装備ないと冗談ヌキで危険です。
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