ただ追いかけて、
secret talk34 謝罪 ―dead of night
緑の夢を見た。
「正夢だといいな?」
声にして願ってしまう、そこへ立ちたくて。
緑あざやかな稜線の道、青空はるか登ってゆく木洩陽。
こんな夢を見たのは時計のせいかもしれない?左腕に英二は笑った。
「なあ、俺の最初のクライマーウォッチ?卒配から活躍したいだろ、」
言葉に出して鼓動ふくらむ。
左腕しめる紺青色のベルト誇らしい、文字盤デジタル表示が時を刻む。
初めて腕にした登山用腕時計はすこし重たくて、この重みに卒業配置から叶えたい。
『青梅署だと…山岳救助隊を兼務する駐在員だな…原則は経験者しか配属されない、』
昨日、新宿の街中で君が言ってくれた。
あの言葉どおり現実は甘くない、だからこそ誇らしかった。
厳しいからこそ叶えたいと願って、その本当の理由をいつか君に告げたい。
「叶ったら…言えるかな俺?」
言えたらいい、あの黒目がちの瞳まっすぐ見つめて。
今も鼓動ひそやかに息づく熱、この想いは伝えられない、でも言えることがある。
“男が男を片想い”
そんなこと告げても迷惑なだけ、それくらい解っている。
けれど夢を見る始まりをくれた真実を告げたい、どうしても。
「湯原がいなかったら俺、ダメになってたよ?」
クライマーウォッチに告げて願いたい、どうか山に配属されたらいい。
そこで自分だけの道に立つ、そこから君を援けられるなら幸せだと想える。
そんな願い文字盤ながめながら昨夜は眠って、だから実家でも寛げたのかもしれない。
―実家でも寛げるなんて変なんだろうな、普通はさ?
自分で自分にツッコみたくなる、もう気づいてしまった。
一見は「普通のサラリーマン家庭」だけど本当は違う、もう昔からずっと。
そんな全て逃げていたかった、でも今は認めるしかない。この時計を昨日一緒に見てくれた人は違っていたから。
『母に夕食の支度したいから…ごめん宮田、』
昨日、新宿の午後にそう言われた。
あんな言葉どこを探しても自分にはない、だから逢いたくなる?
「夕飯も一緒したかったな…」
願いまたベッドに座りこむ。
まだ部屋着のまま陽があわい、きっと5時半くらいだろう。
ブラインド零れる光ながめて、携帯電話つかみ立ちあがった。
シャッ、
潔い音にブラインド上がる、庭木が光る。
山じゃない現実ひろがる住宅街の朝、それでも朝陽は昇る。
ガラスひらいて晩夏の風やわらかい、淡い空の青に携帯電話ひらいて時刻に笑った。
「非常識だよな?」
電子文字5:30、予想通りの時刻に動けない。
初めての電話いきなりこんな時間、それも「無断」の番号だ?
あまりに非常識すぎるだろう、こんなことなら昨夜やっぱり電話したら良かった。
―姉ちゃんにあんな質問したから架け辛くなったよなあ、なにやってんだろ俺?
電話かけるのに緊張したことある?
そう問いかけたのは自分、初めてに途惑うから。
この緊張とためらいの原因ただ向きあいたかった、あの姉なら答えなにかくれると想った。
この家で唯ひとり肚底から信頼できる相手、そんな姉は解答さらり笑った。
『特に、片想いの相手に架けるときじゃない?』
あんなこと言われて「電話するから部屋を出て」とは言えない。
―言えない、なんて思うあたり俺もう出来あがってるってことだよな?
片想い、そのとおりだ。
そのとおりだから電話ひとつ架けられなかった。
でも、片想いだからこそ約束したくて、捉まえたくて携帯電話のボタン押した。
“電話帳”
表示に操作して名前を探す。
まだグループ分けされていない名前、そのデータに苦笑した。
「でも…怒られるか?」
電話帳の名前に番号にほろ苦い、これは「無断」だったから。
―また湯原が無防備だったから、つい、
心裡の言訳に警察学校の部屋がなつかしい。
附属寮の狭いそっけない自室、でもそこは傍にいたい空気がある。
その空気の真中ふれていたくて毎晩いつも隣室に座りこんで、そうして眠りこんだチャンスに「無断」した。
―俺といて寝ちゃうくらい信頼してくれてるんだからさ、赤外線受信くらい…って普通ダメだよな?
きっと呆れられるだろう?
そんなこと解っていたけれど、それでも声に繋がりたかった。
「一緒に買いに行ってくれたし…最近ずっと飯も一緒だし、隣だし、」
言訳つらねて番号ただ見つめる。
こんなこと他の誰にもしたことない、それでも今は既遂だ。
―もう勝手したことは変わらないんだよな、だったら、
勝手に「無断」でした、それなら理由はある。
これこそ身勝手だろう?自嘲に笑ってメールボタン押した。
T o :湯原周太
subject:宮田です
本 文:アドレス勝手にごめん、理由を話させてほしい。新宿駅南口改札11:30、待ってる。
読み直して送信ボタンに指ためらう。
電子文字の時間6:08、もう君なら起きている時間。
けれど鼓動だけ聞こえだす、速まる響き指先まで浸しだす。
「俺…やっぱそうか、」
そうして初めて知らされる、最初のメールも指は硬い。
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英二side story追伸@第5話 道刻
secret talk34 謝罪 ―dead of night
緑の夢を見た。
「正夢だといいな?」
声にして願ってしまう、そこへ立ちたくて。
緑あざやかな稜線の道、青空はるか登ってゆく木洩陽。
こんな夢を見たのは時計のせいかもしれない?左腕に英二は笑った。
「なあ、俺の最初のクライマーウォッチ?卒配から活躍したいだろ、」
言葉に出して鼓動ふくらむ。
左腕しめる紺青色のベルト誇らしい、文字盤デジタル表示が時を刻む。
初めて腕にした登山用腕時計はすこし重たくて、この重みに卒業配置から叶えたい。
『青梅署だと…山岳救助隊を兼務する駐在員だな…原則は経験者しか配属されない、』
昨日、新宿の街中で君が言ってくれた。
あの言葉どおり現実は甘くない、だからこそ誇らしかった。
厳しいからこそ叶えたいと願って、その本当の理由をいつか君に告げたい。
「叶ったら…言えるかな俺?」
言えたらいい、あの黒目がちの瞳まっすぐ見つめて。
今も鼓動ひそやかに息づく熱、この想いは伝えられない、でも言えることがある。
“男が男を片想い”
そんなこと告げても迷惑なだけ、それくらい解っている。
けれど夢を見る始まりをくれた真実を告げたい、どうしても。
「湯原がいなかったら俺、ダメになってたよ?」
クライマーウォッチに告げて願いたい、どうか山に配属されたらいい。
そこで自分だけの道に立つ、そこから君を援けられるなら幸せだと想える。
そんな願い文字盤ながめながら昨夜は眠って、だから実家でも寛げたのかもしれない。
―実家でも寛げるなんて変なんだろうな、普通はさ?
自分で自分にツッコみたくなる、もう気づいてしまった。
一見は「普通のサラリーマン家庭」だけど本当は違う、もう昔からずっと。
そんな全て逃げていたかった、でも今は認めるしかない。この時計を昨日一緒に見てくれた人は違っていたから。
『母に夕食の支度したいから…ごめん宮田、』
昨日、新宿の午後にそう言われた。
あんな言葉どこを探しても自分にはない、だから逢いたくなる?
「夕飯も一緒したかったな…」
願いまたベッドに座りこむ。
まだ部屋着のまま陽があわい、きっと5時半くらいだろう。
ブラインド零れる光ながめて、携帯電話つかみ立ちあがった。
シャッ、
潔い音にブラインド上がる、庭木が光る。
山じゃない現実ひろがる住宅街の朝、それでも朝陽は昇る。
ガラスひらいて晩夏の風やわらかい、淡い空の青に携帯電話ひらいて時刻に笑った。
「非常識だよな?」
電子文字5:30、予想通りの時刻に動けない。
初めての電話いきなりこんな時間、それも「無断」の番号だ?
あまりに非常識すぎるだろう、こんなことなら昨夜やっぱり電話したら良かった。
―姉ちゃんにあんな質問したから架け辛くなったよなあ、なにやってんだろ俺?
電話かけるのに緊張したことある?
そう問いかけたのは自分、初めてに途惑うから。
この緊張とためらいの原因ただ向きあいたかった、あの姉なら答えなにかくれると想った。
この家で唯ひとり肚底から信頼できる相手、そんな姉は解答さらり笑った。
『特に、片想いの相手に架けるときじゃない?』
あんなこと言われて「電話するから部屋を出て」とは言えない。
―言えない、なんて思うあたり俺もう出来あがってるってことだよな?
片想い、そのとおりだ。
そのとおりだから電話ひとつ架けられなかった。
でも、片想いだからこそ約束したくて、捉まえたくて携帯電話のボタン押した。
“電話帳”
表示に操作して名前を探す。
まだグループ分けされていない名前、そのデータに苦笑した。
「でも…怒られるか?」
電話帳の名前に番号にほろ苦い、これは「無断」だったから。
―また湯原が無防備だったから、つい、
心裡の言訳に警察学校の部屋がなつかしい。
附属寮の狭いそっけない自室、でもそこは傍にいたい空気がある。
その空気の真中ふれていたくて毎晩いつも隣室に座りこんで、そうして眠りこんだチャンスに「無断」した。
―俺といて寝ちゃうくらい信頼してくれてるんだからさ、赤外線受信くらい…って普通ダメだよな?
きっと呆れられるだろう?
そんなこと解っていたけれど、それでも声に繋がりたかった。
「一緒に買いに行ってくれたし…最近ずっと飯も一緒だし、隣だし、」
言訳つらねて番号ただ見つめる。
こんなこと他の誰にもしたことない、それでも今は既遂だ。
―もう勝手したことは変わらないんだよな、だったら、
勝手に「無断」でした、それなら理由はある。
これこそ身勝手だろう?自嘲に笑ってメールボタン押した。
T o :湯原周太
subject:宮田です
本 文:アドレス勝手にごめん、理由を話させてほしい。新宿駅南口改札11:30、待ってる。
読み直して送信ボタンに指ためらう。
電子文字の時間6:08、もう君なら起きている時間。
けれど鼓動だけ聞こえだす、速まる響き指先まで浸しだす。
「俺…やっぱそうか、」
そうして初めて知らされる、最初のメールも指は硬い。
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