Since first I saw you fresh, which yet are green. 生まれた望みに、
第85話 春鎮 act.40 another,side story「陽はまた昇る」
はるかな青に雲がゆく、白くて、大地にとける。
「きれい…、」
背なか車の扉あずけた視界、白と青を墨色ふちどる。
黒いシルエット森をえがいて雪を透かす、頬なびく冷気が樹を香る。
もう三月、きっと山の芽吹きも近いのだろう?そんな田園の雪景に呼ばれた。
「湯原くん、ココアあったよ?」
ソプラノ透って目の前、ダークブラウンの缶ひとつ。
見慣れたラベルに懐かしくて、ほっと周太は笑った。
「ありがとう、美代さん…ごめんね、不慣れな運転手って疲れるでしょ?」
雪めぐらす山懐、自動販売機かたわら銀色ふきだまる。
やわらかな白い足跡さくり、明るい瞳が笑った。
「湯原くんこそ疲れたでしょ?レンタカーだし、ひさしぶりの運転おつかれさま、」
大らかな瞳が笑って、こつん、かろやかに缶ぶつけてくれる。
あまい湯気くゆらす乾杯くちつけて、ほろ苦い甘い香にソプラノ笑った。
「でも疲れるより私、びっくりしたよ?教習所の車じゃない運転席が初めてってイキナリ言うんだもん、」
「ん…僕もびっくりした、」
素直な感想うなずいて、日数カウントしたくなる。
運転免許を取得して、それから空いてしまった時間に大きな瞳くるり笑った。
「なんだか湯原くんらしいね?雪道なんてもっと初めてなんでしょ、それでも運転しようってガッツがすごいよ、」
レンタカーの扉に背もたれる隣、ベージュのコートの肩が細い。
華奢な女の子の言葉に白い湯気ごし、困りながら微笑んだ。
「むこうみずって言うんだと思う…こういうの光一にからかわれそうだね?」
「だね、きっと光ちゃん喜んで食いつくよ?」
薔薇色の頬が笑ってくれる、でも左頬は紅い。
まだ腫れたまま彼女は帰る、そんな雪の道に訊かれた。
「一緒に奥多摩まで来ちゃったけど、湯原くんはどうするの?」
朝、葉山の海にいた。
その隣そのままならぶ雪の里、樹の香る風に言った。
「僕も美代さんのお家、一緒していいかな?」
そのとき隣にいたい、今度こそ。
願いに明るい瞳を見つめた。
「僕も一緒に頭下げたいんだ、美代さんが進学を決めたのは僕がきっかけだから、責任から逃げるの嫌なんだ、」
一緒に決めた道、だから一緒に。
こんなふう想える今に夏の記憶こぼれた。
「僕、英二のときは隣にいなかったんだ…ご家族に僕のこと話したとき、」
夏の終わり、あのとき赤かった君の頬。
『母はね、予想通りで、これ、』
君は笑った、あのベンチで。
あれから季節めぐった雪の道、大切な女の子に微笑んだ。
「英二も頬を叩かれたんだ、お母さんに…でも、ほんとうは僕を叩きたかったんだ、」
だから三月の雪の夜、あの掌を避けなかった。
もう一年前になる痛覚そっと頬ふれて、隣に笑いかけた。
「今回も同じだよ、だから僕も一緒に頭下げさせて?美代さんが進学を決めたきっかけは僕だから、」
きっかけは自分、それくらい自覚している。
その記憶に明るい瞳くるり笑った。
「たしかに、きっかけは湯原くんだね?公開講座で青木先生と会わせてくれたトコからだもん、」
三月の終わり、都心に雪が舞った日。
そこから始まった今のかたすみ、白銀の空に微笑んだ。
「だから僕にも見届けさせてほしいんだ、きっかけになれたこと僕は自慢に想ってるから、」
植物が好き、その共通点につながれた。
そうして見つめあう夢の片割れは、明るい瞳くるり笑った。
「自慢に想ってくれるって力でるね、きっと私、父に勝てるよ?」
力が出る、そんなふう自分も役に立つ?
「ほんと…?」
「ホントに力でるよ、ありがとう、」
薔薇色の頬ふわり笑ってくれる、左頬は紅いままで。
まだ腫れたままの笑顔、それでも彼女は大らかに笑った。
「ほんと力でるんだよ、だからね、あの歌姫みたいになってほしくないの、」
歌姫、ほら?扉をひらく言葉だ。
「だから僕、美代さんの進学のことから逃げたくないんだ…英二からも、」
あの歌姫のようには逃げたくない。
そうして辿りついた山里の雪、純白まばゆい道に訊かれた。
「ね、湯原くん?今日、もしかしてって想うから登山ジャケット着てきたの?」
そういうことなんでしょう?
そう笑ってくれる瞳まっすぐ温かで、素直こぼれた。
「だといいなって想って…連絡もできないけど、」
変えられてしまった携帯電話、もう連絡先すべて消えた。
それでも繋ぎたかった願い声にした。
「今のスマホ、おばあさまが買い替えてくれたんだけど…英二の番号だけ消えたの、だから友達に聴こうと想ったんだけど…」
登山ウェアのポケット探って、スマートフォンとりだす。
まだ馴染まない薄い感触ふれて、ひらいた受信箱に訊かれた。
「その友達から返信ないの?」
「うん…山にいるのかもしれない、けど…救助隊員だから、」
答える心臓くっと軋む、絞めつけられる。
どうして返信ないのだろう?ちいさな不安に澄んだ声が言った。
「ね、新着メールの確認してみたら?」
「え…?」
どういう意味?
わからなくて見つめた真中、明るい瞳が笑った。
「あのね、奥多摩って山がちでしょ?それで電波うまく入らないコト多いの、山にいる友達なら受信も送信もタイムラグあるかも?」
ソプラノ明るく響いて、ちいさな指ひとつ画面ふれる。
とん、かすかな音に画面ひらいてスマートフォン震えた。
「あ、」
受信ランプ瞬く、表示きりかわる。
その諦めきれない願いに大きな瞳くるり、彼女が笑った。
「ね、クサレエンのほんとの意味って知ってる?」
(to be continued)
harushizume―周太24歳3月下旬
第85話 春鎮 act.40 another,side story「陽はまた昇る」
はるかな青に雲がゆく、白くて、大地にとける。
「きれい…、」
背なか車の扉あずけた視界、白と青を墨色ふちどる。
黒いシルエット森をえがいて雪を透かす、頬なびく冷気が樹を香る。
もう三月、きっと山の芽吹きも近いのだろう?そんな田園の雪景に呼ばれた。
「湯原くん、ココアあったよ?」
ソプラノ透って目の前、ダークブラウンの缶ひとつ。
見慣れたラベルに懐かしくて、ほっと周太は笑った。
「ありがとう、美代さん…ごめんね、不慣れな運転手って疲れるでしょ?」
雪めぐらす山懐、自動販売機かたわら銀色ふきだまる。
やわらかな白い足跡さくり、明るい瞳が笑った。
「湯原くんこそ疲れたでしょ?レンタカーだし、ひさしぶりの運転おつかれさま、」
大らかな瞳が笑って、こつん、かろやかに缶ぶつけてくれる。
あまい湯気くゆらす乾杯くちつけて、ほろ苦い甘い香にソプラノ笑った。
「でも疲れるより私、びっくりしたよ?教習所の車じゃない運転席が初めてってイキナリ言うんだもん、」
「ん…僕もびっくりした、」
素直な感想うなずいて、日数カウントしたくなる。
運転免許を取得して、それから空いてしまった時間に大きな瞳くるり笑った。
「なんだか湯原くんらしいね?雪道なんてもっと初めてなんでしょ、それでも運転しようってガッツがすごいよ、」
レンタカーの扉に背もたれる隣、ベージュのコートの肩が細い。
華奢な女の子の言葉に白い湯気ごし、困りながら微笑んだ。
「むこうみずって言うんだと思う…こういうの光一にからかわれそうだね?」
「だね、きっと光ちゃん喜んで食いつくよ?」
薔薇色の頬が笑ってくれる、でも左頬は紅い。
まだ腫れたまま彼女は帰る、そんな雪の道に訊かれた。
「一緒に奥多摩まで来ちゃったけど、湯原くんはどうするの?」
朝、葉山の海にいた。
その隣そのままならぶ雪の里、樹の香る風に言った。
「僕も美代さんのお家、一緒していいかな?」
そのとき隣にいたい、今度こそ。
願いに明るい瞳を見つめた。
「僕も一緒に頭下げたいんだ、美代さんが進学を決めたのは僕がきっかけだから、責任から逃げるの嫌なんだ、」
一緒に決めた道、だから一緒に。
こんなふう想える今に夏の記憶こぼれた。
「僕、英二のときは隣にいなかったんだ…ご家族に僕のこと話したとき、」
夏の終わり、あのとき赤かった君の頬。
『母はね、予想通りで、これ、』
君は笑った、あのベンチで。
あれから季節めぐった雪の道、大切な女の子に微笑んだ。
「英二も頬を叩かれたんだ、お母さんに…でも、ほんとうは僕を叩きたかったんだ、」
だから三月の雪の夜、あの掌を避けなかった。
もう一年前になる痛覚そっと頬ふれて、隣に笑いかけた。
「今回も同じだよ、だから僕も一緒に頭下げさせて?美代さんが進学を決めたきっかけは僕だから、」
きっかけは自分、それくらい自覚している。
その記憶に明るい瞳くるり笑った。
「たしかに、きっかけは湯原くんだね?公開講座で青木先生と会わせてくれたトコからだもん、」
三月の終わり、都心に雪が舞った日。
そこから始まった今のかたすみ、白銀の空に微笑んだ。
「だから僕にも見届けさせてほしいんだ、きっかけになれたこと僕は自慢に想ってるから、」
植物が好き、その共通点につながれた。
そうして見つめあう夢の片割れは、明るい瞳くるり笑った。
「自慢に想ってくれるって力でるね、きっと私、父に勝てるよ?」
力が出る、そんなふう自分も役に立つ?
「ほんと…?」
「ホントに力でるよ、ありがとう、」
薔薇色の頬ふわり笑ってくれる、左頬は紅いままで。
まだ腫れたままの笑顔、それでも彼女は大らかに笑った。
「ほんと力でるんだよ、だからね、あの歌姫みたいになってほしくないの、」
歌姫、ほら?扉をひらく言葉だ。
「だから僕、美代さんの進学のことから逃げたくないんだ…英二からも、」
あの歌姫のようには逃げたくない。
そうして辿りついた山里の雪、純白まばゆい道に訊かれた。
「ね、湯原くん?今日、もしかしてって想うから登山ジャケット着てきたの?」
そういうことなんでしょう?
そう笑ってくれる瞳まっすぐ温かで、素直こぼれた。
「だといいなって想って…連絡もできないけど、」
変えられてしまった携帯電話、もう連絡先すべて消えた。
それでも繋ぎたかった願い声にした。
「今のスマホ、おばあさまが買い替えてくれたんだけど…英二の番号だけ消えたの、だから友達に聴こうと想ったんだけど…」
登山ウェアのポケット探って、スマートフォンとりだす。
まだ馴染まない薄い感触ふれて、ひらいた受信箱に訊かれた。
「その友達から返信ないの?」
「うん…山にいるのかもしれない、けど…救助隊員だから、」
答える心臓くっと軋む、絞めつけられる。
どうして返信ないのだろう?ちいさな不安に澄んだ声が言った。
「ね、新着メールの確認してみたら?」
「え…?」
どういう意味?
わからなくて見つめた真中、明るい瞳が笑った。
「あのね、奥多摩って山がちでしょ?それで電波うまく入らないコト多いの、山にいる友達なら受信も送信もタイムラグあるかも?」
ソプラノ明るく響いて、ちいさな指ひとつ画面ふれる。
とん、かすかな音に画面ひらいてスマートフォン震えた。
「あ、」
受信ランプ瞬く、表示きりかわる。
その諦めきれない願いに大きな瞳くるり、彼女が笑った。
「ね、クサレエンのほんとの意味って知ってる?」
(to be continued)