孤独ふたり、

secret talk75 安穏act.12 ―dead of night
掌のなかチケットひとかけ、青く木洩陽そめる。
仰いだ梢から緑ひらめく、光のかけら碧く蒼い。
都心のまんなか森の底、レザーソールに土と草が香る。
この感覚は少し似ている、ただ一度で惹きこまれた場所だ。
「湯原、」
呼びかけて唇が薫る、ほろ苦い甘い深い匂い。
この香を知ってしまった記憶と黒目がちの瞳が見あげた。
「なに…宮田?」
ゆるやかに瞳を透かす前髪、クセっ毛ゆるく木洩陽きらめく。
こんなふう見あげられた瞬間に英二は訊いた。
「足はもう大丈夫?」
「なんともない、」
かすかに肯いた額、クセっ毛やわらかに艶ゆれる。
あわい風さざなみ蒼い光、公園のかたすみ君が言った。
「あのとき…ありがとう、」
くぐもるような小さな声、でも聴こえる。
この話し方すら嬉しくて笑いかけた。
「山岳訓練のあれは俺こそ感謝するとこだろ、湯原こそ入園料ありがとな?」
新宿の森ふかい公苑、緑の門くぐる毎週の習慣。
そのチケット買って渡してくれる人は瞳そっと逸らした。
「ラーメンのお礼だ…今日は2杯もらったし、」
「俺も食いたかったからいいよ、でも湯原があんなに食うの珍しいな?」
言いながら小柄なスーツ姿を見つめてしまう。
肩幅も広くはない、なにより腰かなり細いほうだ?
―元が華奢なんだろうな湯原は、筋肉カッコいい体してるけど、
警察学校の日々、寮の風呂で毎日いつも見慣れた体。
でも正直に厳密に言えば「見慣れた」は嘘かもしれない?
―だって「慣れて」なんかいないよな俺、本当はもっと…見たいとか?
もっと見たい、君のこと。
こんなこと想ったことなかった、誰にも。
つきあった彼女たち誰にも感じなかった、でも今こんなに願っている。
君のこと見ていたい、もっと知りたい触れたい、だからこそ全部きれいに隠して歩く。
―俺が何考えてるか知ったら湯原、もう一緒に歩いてくれないかもな?
週末、ふたり並んで歩く。
そんな外泊日いつも幸せで、そんな本音に自分で途惑う。
けれど毎週末そうしたくて毎回ラーメンをおごって、そのたび君がこのチケット買ってくれる。
―こういう習慣を暗黙の了解っていうのかな…約束みたいな、
約束、君と。
そうだったらいい、そんなこと願っている。
ふたり君と約束いくつ結べるだろう?そんなこと願ってしまう道、いつものベンチに微笑んだ。
「座るか、」
「ん、」
クセっ毛ゆれて蒼いろ艶めく。
黒髪やわらかな横顔むこう見て、その視線に英二は笑った。
「今日は俺に買わせて?泊めてもらう礼には少ないけど、」
だから座って待っててよ?
笑いかけて軽く駆けて、すぐ自販機に硬貨いれる。
ごとん、ごとり、重たい金属音ふたつ聴いて取りだして、冷たい感触とふりむいた。
―きれいだな、
あわい緑の光きらめく樹影、黒髪やさしい繊細おだやかに浮かぶ。
えりもとネクタイ硬いスーツ姿で、それなのに優しい静謐おだやかに燈る。
都心のまんなか緑の底、今、すこし遠い横顔まぶしい。
―こんなに綺麗に見えるって、俺…恋、なのかな、
唯ひとり、ただ見つめてしまう。
こんなこと知らない。
「は…」
ため息ひとつ笑って缶ふたつ、右手ひとつに掴み歩きだす。
冷感じわり指から沁みる、この指に君の手つかめたらどんなだろう?
「湯原、どっちがいい?」
たどり着いたベンチ、君にさしだす。
掌のなか冷たい一つ、すこし小さな手が受けとめた。
「ありがと…」
そっと語尾かすれて長い睫ふせる。
うつむけた黒髪うなじ生えぎわ、薄紅あわく映えた。
※校正中
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英二23歳side story追伸@第6話 木洩日

secret talk75 安穏act.12 ―dead of night
掌のなかチケットひとかけ、青く木洩陽そめる。
仰いだ梢から緑ひらめく、光のかけら碧く蒼い。
都心のまんなか森の底、レザーソールに土と草が香る。
この感覚は少し似ている、ただ一度で惹きこまれた場所だ。
「湯原、」
呼びかけて唇が薫る、ほろ苦い甘い深い匂い。
この香を知ってしまった記憶と黒目がちの瞳が見あげた。
「なに…宮田?」
ゆるやかに瞳を透かす前髪、クセっ毛ゆるく木洩陽きらめく。
こんなふう見あげられた瞬間に英二は訊いた。
「足はもう大丈夫?」
「なんともない、」
かすかに肯いた額、クセっ毛やわらかに艶ゆれる。
あわい風さざなみ蒼い光、公園のかたすみ君が言った。
「あのとき…ありがとう、」
くぐもるような小さな声、でも聴こえる。
この話し方すら嬉しくて笑いかけた。
「山岳訓練のあれは俺こそ感謝するとこだろ、湯原こそ入園料ありがとな?」
新宿の森ふかい公苑、緑の門くぐる毎週の習慣。
そのチケット買って渡してくれる人は瞳そっと逸らした。
「ラーメンのお礼だ…今日は2杯もらったし、」
「俺も食いたかったからいいよ、でも湯原があんなに食うの珍しいな?」
言いながら小柄なスーツ姿を見つめてしまう。
肩幅も広くはない、なにより腰かなり細いほうだ?
―元が華奢なんだろうな湯原は、筋肉カッコいい体してるけど、
警察学校の日々、寮の風呂で毎日いつも見慣れた体。
でも正直に厳密に言えば「見慣れた」は嘘かもしれない?
―だって「慣れて」なんかいないよな俺、本当はもっと…見たいとか?
もっと見たい、君のこと。
こんなこと想ったことなかった、誰にも。
つきあった彼女たち誰にも感じなかった、でも今こんなに願っている。
君のこと見ていたい、もっと知りたい触れたい、だからこそ全部きれいに隠して歩く。
―俺が何考えてるか知ったら湯原、もう一緒に歩いてくれないかもな?
週末、ふたり並んで歩く。
そんな外泊日いつも幸せで、そんな本音に自分で途惑う。
けれど毎週末そうしたくて毎回ラーメンをおごって、そのたび君がこのチケット買ってくれる。
―こういう習慣を暗黙の了解っていうのかな…約束みたいな、
約束、君と。
そうだったらいい、そんなこと願っている。
ふたり君と約束いくつ結べるだろう?そんなこと願ってしまう道、いつものベンチに微笑んだ。
「座るか、」
「ん、」
クセっ毛ゆれて蒼いろ艶めく。
黒髪やわらかな横顔むこう見て、その視線に英二は笑った。
「今日は俺に買わせて?泊めてもらう礼には少ないけど、」
だから座って待っててよ?
笑いかけて軽く駆けて、すぐ自販機に硬貨いれる。
ごとん、ごとり、重たい金属音ふたつ聴いて取りだして、冷たい感触とふりむいた。
―きれいだな、
あわい緑の光きらめく樹影、黒髪やさしい繊細おだやかに浮かぶ。
えりもとネクタイ硬いスーツ姿で、それなのに優しい静謐おだやかに燈る。
都心のまんなか緑の底、今、すこし遠い横顔まぶしい。
―こんなに綺麗に見えるって、俺…恋、なのかな、
唯ひとり、ただ見つめてしまう。
こんなこと知らない。
「は…」
ため息ひとつ笑って缶ふたつ、右手ひとつに掴み歩きだす。
冷感じわり指から沁みる、この指に君の手つかめたらどんなだろう?
「湯原、どっちがいい?」
たどり着いたベンチ、君にさしだす。
掌のなか冷たい一つ、すこし小さな手が受けとめた。
「ありがと…」
そっと語尾かすれて長い睫ふせる。
うつむけた黒髪うなじ生えぎわ、薄紅あわく映えた。
※校正中
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