Have from the forests shook three summers’pride, 熱の時は過ぎて、
harushizume―周太24歳3月下旬
第85話 春鎮 act.50 another,side story「陽はまた昇る」
ただ微笑んで時が過ぎる、雪ふる待ち人おとずれる。
「ほら周太?美代のほっぺた真赤だね、」
テノールほがらかな雪の門、銀色に薄紅が駆けてくる。
だいぶ過ぎてしまった真昼の雪里、澄んだ声あざやいだ。
「おまたせ湯原くんごめんねっ…光ちゃんもごめんね?」
息せき切って彼女が笑う、まだ少女の貌だ。
けれど同じ齢で、齢よりずっと肚太い瞳に笑いかけた。
「僕こそ謝らなくちゃ美代さん、お手伝いなにも出来なくて僕…ごめんね、」
笑いかけながら不甲斐ない。
だって自分は男で、この女の子の勇気どれだけ持つのだろう?
“責任転嫁なんてしたくありません”
そんなふう彼女は言った、たった30分前に。
そんな唇は小さくて薄紅やさしくて、そして勁い。
「湯原くんが謝ることないでしょ?いっぱい手伝ってくれたのに?」
ほら優しい唇が自分を見あげる。
いつもの大きな目まっすぐ自分を映して明るんだ。
「ここで生きたいから美代さんは大学に行くんですって言ってくれたでしょ?おかげでね、ほら?」
ソプラノやわらかに澄んで小さな掌だしてくれる。
紅色の透ける指ほどけて、古い鍵ひとつ光った。
「ウチの鍵よ?ね、」
春の雪まばゆい鍵、古い光にぶく優しい。
幾世代も使いこんだ、そんな温もり笑った。
「大学に行くなら家に帰れないはずだったから鍵を返したの、だけどまた私にくれたの。父は黙りこくってたけど、」
くすんだ光あわい鍵、銀色ひとひら融ける。
ただ古い鍵ひとつ、けれど籠められる願い温かい。
「ふうん、あの小嶌のおっちゃんがねえ?美代もヤルんだね、」
「私もやるときはやるの、光ちゃんだってそうでしょ?」
赤い頬きらきら白い息、女の子が笑う。
三月も冬きらめく庭で山っ子の瞳にやり笑った。
「そりゃね?で、」
雪白の顎かたむけて目線、女の子の左肩ながめる。
明るいクセ聡い眼じろり、登山ジャケット青い腕組み訊いた。
「美代、荷物ってソレだけかね?」
ベージュのコートの左肩、ボストンバッグひとつ。
それから昨日からの鞄たずさえた笑顔は口ひらいた。
「ダンボール2つ送ったよ、元から片づけておいたの。結果どうでも自立するつもりだったから、」
ほら、こんなに潔いんだ?
『大学を諦めたら後悔だらけの言訳オバサンになっちゃいます、そんな恥ずかしい人生は嫌です。責任転嫁なんてしたくありません、』
隣家の座敷で聴いた言葉、そのままに彼女は決めていた。
この強靭は自分にあるだろうか?自問ふる雪に幼馴染が笑う。
「美代らしいね、で?東大センセイはドウしたね?」
「田嶋先生なら宅急便に一緒してくれたあと、お父さんと昼酒はじめちゃったよ。山で話してたみたい、」
「へえ?あのセンセイなかなかやるねえ、」
会話の横顔ふたつ、銀色の雪に明るい。
違う顔立ちのくせどこか似ている、そんな二人に言葉が響く。
“ザイルのが生きる自由ってカンジ”
幼馴染の声は優しかった、いつもどおり明るくて、でも穿たれる。
ほんとうは最初から解っていたこと、それなのに?
―僕と英二は違うんだ…自由も、生きる場所も、
あなたと僕は違う、何も繋がりなんてない。
そんなこと最初から解っていた。
今この目の前の二人みたいにもなれない、こんな明るい穏やかな信頼関係じゃない。
あなたと自分なにも繋がりなんてない、なにも生みだせない、それなのに高熱の夢で自分は誰を呼んだ?
“鎖縁”
あなたと自分にあるもの、それがこの言葉だろうか?
それを前は大切に想っていた、でも大切にすべきものだろうか?
『鎖のご縁ってのも堅く切れませんってカンジでイイケドさ、ザイルのが生きる自由ってカンジ』
幼馴染が言ったことは、あなたも同じだろう。
だって同じ山の世界に生きている、だから願い声にした。
「光一、美代さん…僕、いきたいとこあるんだ、」
※校正中
(to be continued)