萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

P.S 雪郷山籠―P.S ext.side story「陽はまた昇る」

2014-09-03 01:15:05 | 陽はまた昇るP.S
雪の記憶に
side story第78話「冬暁act.2」黒木サイド



P.S 雪郷山籠―P.S ext.side story「陽はまた昇る」

雪、白い空から降ってくる。

真白おおらかな空から雪ふってくる、これは空の欠片だ。
ひらひら雪舞うごと背中じわり冷えてゆく、もう凍えてしまうかもしれない。
それでも見あげる白銀から視線が離れない、そんな視界すぐ気がつかされて要は寝返りうった。

―まずい俺すぐ起きろ、起き上がれ夢だ、

すぐ起きろ起きあがれ、そう自分に命じても目覚めない。
こんなこと困ってしまう、だってこの夢は次の展開がマズイと知っている。

―お願いだから俺起きろってば、ぜっ、たいにマズイダメだ、

ひたすら念じても目覚めない雪空は白銀まばゆい。
この空になればもうじき現れてしまう、ほら、子供の自分が雪の河原に起きあがる。

―…落っこちたんだ俺、

子供の自分が思案して雪の河原から尾根を見あげる。
こうなったらもう次のシーン出てしまう、それは4ヶ月前まで幸せだった。
けれど今は困る、だって次に出てくる貌は今もう毎日見ていて、だから止めたい願いに呼ばれた。

「黒木さん?」

ほら、自分を呼んでいる。

「宮田です、有休の申請書を持ってきたので開けて下さい、」

ノック2回、そして綺麗な低い声が呼びかける。
この音と声に睫ゆっくり上げられて視界は披く、そして見あげた天井に要は笑った。

「は…ぇーぅ、」

セーフ、って言ったつもりが声やっぱり出ない。

こんなに酷い風邪は久しぶりだ、あのとき以来だろう?
あの雪から今ちょうど23年が経つ、けれど雪山に見あげた笑顔は忘れられない。

『あ、泣いてないね?泣かないのカッコいいわ、』

やわらかに澄んだ声で笑って白い手さしのべてくれた。
長い黒髪ゆれて雪風に舞う、あの雪白まばゆい笑顔は人だった、たぶん。

―人間にしては神々しかったよな、雪女っていうより女神で、

遠い雪山の記憶なぞりながらベッドから立ち上がる。
くらり、体傾きかけて熱の度合い自覚させられる、たぶん38度を下がらない。
こんな高熱も23年ぶりで懐かしいと思ってしまう、そんな意識何だか可笑しいまま扉開いた。

かちり、かたん、

開かれた廊下に白皙の笑顔がこちら見る。
この笑顔に今も救われてしまった、そう納得するから素直に言った。

「…ぅぁん、」

すまん、すら今は言えないんだ?

こんな自分の声帯が物珍しい、だって23年ぶりだ。
そんな思案の真中で端正な笑顔が書類封筒とコンビニ袋を示し笑いかけた。

「ほんと声が出ませんね?申請書の提出も俺が行きます、引継ぎも伺いたいのでお邪魔して良いですか?」

言われた言葉に首傾げさせられる、だって今日この男は休みだろう?
いつも憶える同僚たちの予定表たどり訊いてみた。

「ん…ぃぁた、ぁぅぃぁぉ?」

宮田、休みだろ?
そう尋ねたつもりが声やはり言葉にならない。
それでも同僚で後輩はレポート用紙を見せ応えてくれた。

「休みですけど、国村さんに引継ぎのメモ入れてから出ます。そんな顔と声じゃ黒木さんも小隊長の前に行けないでしょう?うつしたら大変だし、」

だから今その名前を言うなって?

「ぃぁたっ、んぁぉとぅぅぁぇぁぃぁぉっ…ぅごほっ、ごほほんっ!」

宮田、そんなことするわけないだろう?

そう言ったのにやっぱり言葉にならず咳だけ音になる、こんな不自由は困ってしまう。
これでは誤解おかしなことになる、もう誤解されているかもしれない?ただ困惑と高熱の混乱に端正な笑顔は言った。

「そんなことするわけ無くても風邪はうつりますよ?インフルエンザかもしれないですしね、とりあえず部屋に入りますよ?」

綺麗な笑顔が部屋に踏みこんでくる、その空気どこか貫禄が厚い。
まだ24歳で自分より6歳下、それなのに老練だと想わせる男が微笑んだ。

「黒木さん本が好きなんですね、似合います、」

なんで似合うんだろう?
そう訊きたい相手は端正な切長の瞳を書棚へなぞらせる。
穏やかな眼差しは本が好きそうで、また少し親近感を見つめた前に有給休暇の申請書とレポート用紙さし出してくれた。

「欠勤ではなく有休でと国村さんから伝言です、差入はスポーツドリンクが国村さんからで食糧は浦部さんと高田さんからです、岡田さんも昼に来ます。
あと診察室は行かれましたか?インフルエンザなら5日間は自室待機ですから届を出します、解熱しても2日はダメです、ウィルスの排出期間はNGですよ?」

説明しながらペットボトル窓際に並べてくれる。
こうすればガラスを透かす外気に冷たさを保ちやすい、そんな気遣いに渡されたレポート用紙へペン走らせた。

“ 急性扁桃腺炎だ、薬もらって来た、今日明日寝れば治る、 ”

朝一で診察室に行ったきた、だから心配はいらない。
そう伝えたメモに綺麗な低い声は笑って釘刺してくれた。

「扁桃腺炎なら2日で大体治るでしょうね、でも薬や治療を途中で辞めると慢性化しますよ?無理せず体を休めて下さいね、」

今やっぱり見透かされたろうか?
そんなお見通しは多分「同類」だからだろう、そんな堅物は止め言ってくれた。

「今日は俺も休みで不在です、もし無理して業務に就けば部屋に運びこんで看病するのは国村さんでしょうね?小隊長の責任とか言って、」

だからその名前だされると熱高くなるのに?
こんな繰り返しに気づかされる、この男は結構Sだ。

―こいつ俺が「あのひと」に意識してんの解かって言ってんだよな、でも半分は誤解だってば、

ほんと誤解されている、そう訊くことも誤解また生みそうだ?
まず説明して解ってもらえる自信が無い、だから口噤んだまま引継ぎ事項にペン走らせる。

だって女神に逢った、なんてこの優秀堅物な実務男には笑われるだけだ?



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2 コメント

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Unknown (茶好)
2014-09-04 23:46:20
こんばんわ。
黒木サイドのお話ありがとうございます。

黒木には憧れの人?がいるんですね。
憧れの人に似ている同性と毎日顔合わせるのは確かに変な気分になりますね(笑)
返信する
茶好さんへ ()
2014-09-05 12:12:50
こんにちは、レス遅くなってすみません、
黒木サイド楽しんで頂けましたか?黒木の憧れ人?はそのうち正体が解かるかもしれません、笑
返信する

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