萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第44話 山櫻act.4―another,side story「陽はまた昇る」

2012-06-05 23:54:14 | 陽はまた昇るanother,side story
※念のため中盤R18(露骨な表現は有りません)

最高峰に咲く花、永遠の祈り



第44話 山櫻act.4―another,side story「陽はまた昇る」

やさしいルームライトがオレンジ色の光に包んでくれる。
ゆるやかな光のなか抱きしめる恋人の髪には、オレンジ色の光の環が美しい。
光の環を艶めかせながら、端正な白皙の貌は長い睫に涙やどし、縋るよう見つめてくれる。

…きれいな天使が、泣いているね?

ほんとうに英二は、美しい天使みたい?
けれど抱きしめている白いシャツの肩は温かで「人」なのだと伝わってくる。
この温もりに微笑んで周太は、14年前の出逢いに見つめる真実を言葉に変えた。

「光一にとっての俺は『山』と同じなんだよ?…だから光一は、俺には抱きついたりとか、あまりしないんだ…」
「山と、同じ?」

ひとつ瞬いて、涙こぼれた切長い目が不思議そうに周太を見つめている。
これは不思議な話だろう、けれど光一にとってはごく自然で、自分も同じに受けとめている。この想いのまま周太は口にした。

「いつも一緒にいなくて大丈夫なのもね?…『山』や『山の木』で繋がっているって、信じていられるからなんだ。
だから俺のことは14年間待つことが出来たんだ…『山』と同じだから、この気持ちも繋がりも終わらないって、信じられるんだ。
光一にとっての俺は『人間』らしい命の終わりは、無い相手なんだ…だから光一は、俺をずっと好きなんだよ?『山』と同じように、」

悠久に佇む「山」と同じなら、永遠に近く終わり無い想いになる。
これは無窮の想い、そう気が付いたから自分はもう、光一の想いから逃げない。
ただ山がそこにあるように周太が生きて幸せでいればいい、そして時に逢えれば充たされる。
そんな求めない「無償の愛」は山への愛情そのまんま。どこまでも純粋無垢の永遠まばゆい想い。
この存在は「永遠」だからこそ報い求めない「無償の愛」になり、この愛が光一の山に生きる支えになっている。

この恋の不思議さには自分も途惑った。
けれど光一が信じているならば、光一には「真実」の現実なのだろう。
この不思議な山っ子らしい恋は、山っ子を生かす命の一部。だから自分は受けとめたい。
こんなふうに山っ子が自分に恋してくれたから、今の自分が居る。この大切な想いを、周太は婚約者に告げた。

「こんな俺だけどね、光一は大切な『山』を俺のなかに見つけて、心から好きになってくれたんだ。
あのとき…9歳の時、奥多摩で初めて逢った時。光一が俺を『好き』って言ってくれたんだ、それが俺を救ってくれたんだよ?」

このことを今、話しておきたい。
そんな願いと微笑んだ先で、大切なひとは少し微笑んで訊いてくれた。

「あいつが『好き』って言って、周太が救われたの?」
「ん、そう…救われたよ?」

あの時がきっと、自分の「人生」の始まりだった。
この想い伝えておきたくて、周太は大切な婚約者に笑いかけた。

「俺ね?あの頃は他人と話すことが、怖かったんだ…写真で見たと思うけど俺、小さい頃は見た目、女の子みたいだよね。
それで好きなことも、花とか料理でしょ?…だから『男の癖に変だ』って言われることが、小学校に入った頃から増えてきたんだ。
変って言われて、好きな事を否定されるの、すごく哀しくてね…だから俺、両親以外は誰も好きになれなくて。人と話せなくなった、」

いつも「小十郎」だけが友達だった。
学校で表面的に話しても本当は、言いたいことに口噤んでいた。
こんなふうに閉じこもりがちな性質だから、父が亡くなった時には徹底的に孤独へ沈みこんだ。
けれど、こんな性質に風穴を作ってくれた人がいた。その感謝に周太は微笑んだ。

「でもね、光一が『変じゃない、好きだ、』って言ってくれたんだ。それが嬉しかったから、他の人とも話そうって思えたの。
あのとき光一と話して、すごく楽しくて幸せだったから…だから俺は、他人と話すことを諦めるのは勿体無い、って信じられた。
俺にとっての光一は初恋で、恩人なんだよ?だから大切にしたいんだ…光一が居なかったら俺は、きっと本当に孤独なままだったから」

人と「話す」この大切さを教えてくれたのは、山っ子だった。
その山っ子の幸せが今、自分の大切な人と重なることが出来るかもしれない。
そうして重なったなら、どんなに自分は心安らかでいられるだろう?そんな祈り見つめて周太は微笑んだ。

「光一のお蔭で俺は、人と話して人を好きになる事が、出来るんだよ?だからね…光一のこと、英二が好きになるの、当たり前、」
「…周太、」

名前呼んで、驚いたよう切長い目が見つめてくれる。
見つめたまま英二は、素直に想いを口にしてくれた。

「俺…自分でよく、解からないんだ。俺が結婚したいのは周太だけ、それなのに…あいつのこと、放っておけない。
あいつが泣くと、心が痛い。愛してる、って言われると…うれしい、って想う。周太への気持ちと違う、けど、好きだと想う…」

すうっ、と涙が白皙の頬を伝いおちる。
どうしていいのか解らない、そんな途惑いが涙に言葉に零れていく。途惑いに微笑かけて周太は短く訊いた。

「吉村先生は、なんて?」
「…周太、気づいていたんだ、」

すこしきまり悪げに、けれど嬉しそうに笑ってくれる。
解かってくれていて嬉しい、そう微笑んで英二は口を開いてくれた。

「なぜ、あいつが無欲で無垢なのかを教えてくれたよ。あいつが『今』に満足すること、それから…失う痛みを知りすぎていること。
あいつが本当に苦しむことは、俺が離れていくことだから。大切にしたいなら、傍で向き合い続けるしかない、そう言ってくれたよ。
親友のままでも傍にいていい、生きて笑って、想う通りに正直な心のまま隣にいればいい…体の繋がりも同じこと、って肯定してくれた、」

君はどう想う?
そんな問いかけに周太を見つめてくれながら、英二は言葉を続けた。

「親友と恋人と違うとしても、幸せな瞬間を望みたいと想い合えたなら、もう心は重なっている。
お互いの体温に幸せを見つめたいと想い合った瞬間に、心は繋がる…誇りと命をザイルに託し合う、この絆を結んだ君たちなら。
そんなふうに先生、俺に話してくれた…ぜんぶ一個も否定しないで、俺のことも国村のことも、受けとめて、先生は笑ってくれたよ?」

やっぱり吉村医師は受けとめてくれた。
あのひとなら必ず大丈夫と信頼できる、こんな存在がいてくれるから大丈夫と想えてしまう。
きっと英二は光一のことも誤らない、ふたり向き合うことが出来るはず。この確信の背中押すよう周太は微笑んだ。

「俺を幸せにしてくれるみたいに、光一のこと、温めてね?…きっとね、英二にしか出来ないことだよ?」

言葉に、切長い目が途惑い残したまま見つめてくれる。
こんなふうに途方にくれた英二は初めてだな?なんだか可愛い、周太はそっと白皙の額にキスふれて、また言葉を続けた。

「どんなこともね、英二にしか出来ないことを、一生懸命したら良いよ?そのために生まれてきた、って、俺は想う。
俺、父が亡くなって、心が壊れかけたよね?それでも生きられたのは、父の軌跡を追うために生きよう、って思えたからなんだ。
父の子供は俺だけ、俺にしか出来ない。だから俺は、哀しくても辛くても生きようって思えた…そう頑張ってきた今は、幸せなんだ、」

ただ、これしかないと思った。
あの14年前の春の日、父を失い、記憶も想いも消えていくなか「父の軌跡を追う」しかないと思った。
これは自分だけにしか出来ないことだと、ただ見つめ歩いてきた。それは義務ばかりで、冷たい孤独の道でもあった。
けれどこの道程にこそ、温かな想いと人と沢山出会い、今、自分の心は充ちている。この幸せに周太は微笑んだ。

「自分にしか出来ないこと、頑張ってきたらね?英二に逢えて、光一ともまた逢えた。そして美代さんに会えたよ。
美代さんと植物学を話せて、青木先生にも会えて…夢が、見つかるかもしれないとこまで来た。生きていて良かった、今そう想える。
きっとね…自分にしか出来ないこと一生懸命していたら、人生の贈り物みたいなことに会えるよ?だから英二も今、向き合ってほしい、」

どうか向き合って、超えてほしい。
ここを越えたらきっと、あなたはまた1つ輝けるから。その願いに周太は笑いかけた。

「光一のこと、一生懸命に向き合って?これはね、きっと英二にしか出来ないことだから。
英二にしか見つめられないから…大切な想いはね、そのとき伝えないと、後悔するから。いまの一瞬は、2度と戻らないでしょ?
だから、きちんと言ってあげて。大切にしてあげて?いつも後悔しないように、英二の笑顔がきれいに幸せでいるように…向き合って?」

いま向き合っている切長い目が、静かに見つめてくれる。
いまベッドに抱き合って見つめ合う、愛するひとは真直ぐ見つめて目にも想い伝えてくれる。
けれど愛している ― そんな瞳に映した想いが言葉になってこぼれた。

「周太、はっきり訊くよ?それは、お互い望んだら、国村のこと抱いてほしいって意味?」

君を愛しながら、もう1人を愛するの?
そんなふうに瞳が尋ねてくれる、この瞳へと周太は率直に微笑んだ。

「ん、そうだね…本気なら、そうしてほしいな?」

もし光一と英二の触れ合いが遊びだったら、泣いて怒る。
もし一方の無理強いならば、命懸けでも止めたいと願う。
けれど本気の想いなら、見守りたい言祝ぎたい、どうか真剣に向き合ってほしい。それがきっと、大切な2人を守ることになるから。

「英二の笑顔をずっと、俺は見ていたい。きれいに笑っていてほしい、心からの幸せに笑って、生きていてほしいんだ
心からのとおりに言葉も、想いも、笑顔も…だから、正直なままに光一にも接して?それで、もし俺が拗ねたら、ご機嫌とって?」

ご機嫌とってね?
おねだりに周太は、心から笑んで明るく微笑んだ。

「もし俺が拗ねたら、いっぱいワガママ聴いて甘やかして、宥めてね?英二…愛してるなら言うこと聴いて?
心のまま正直に生きて、英二にしか出来ないことをして?そうして、きれいな幸せな笑顔を、俺に見せて?…ね、言うこと聴いて?」

きれいな笑顔を見ていたい。
この願いは変わらない想い、枯れることない花のよう祈りは続く。
いつか気がついた時には願っていた。確かなのは「初めて」の夜、この祈りの為に自分は身を委ねたということ。
この想いは何があっても変わらない、たとえ帰ってこられなくなっても祈りだけは続いていく。
だから今、もうひとつの「唯ひとり」への想いにも、この祈りを託してしまいたい。

「ね、英二?今も、きれいな笑顔を見せてほしいな。どうしたら、見せてくれるの?…愛してるなら、教えて?」

愛情を盾に、ねだってみせる。
こんなふうに願われること、このひとは好きなはず。そんな想いと見つめた先で、幸せな笑顔が咲いてくれた。

「周太、俺の笑顔を、願ってくれるんだ?…それだけで幸せになれるよ、俺は、」
「ほんとう?でも、もっと幸せになってほしいな、ね、英二?」

笑いかけて、キスをする。
ふれた唇に温もり感じて、そっと離れて笑いかけて。
それからまた静かに唇を重ねて、周太は深いキスを恋人にした。

「…ん、」

吐息が唇のはざま零れ落ちる。
深いキスに想いを口移しに伝えて、安心してと想い呼びかける。
愛している、なにがあっても変わらない、いつだって自分が受けとめる。
もう自分の心には1本の木がひろやかに梢ひろげて、想いの懐を作ってくれた。だから受けとめていける。
英二の想いも光一の想いも、そして美代がひそやかに抱いている英二への想いも。
こんなふうに幾つもの想いを、大切な相手の心ごと抱いて、今、自分は温かい。

…今が、幸せだ、

心からの幸福が自分を微笑ませてくれる。
この微笑んでいく心から周太は、婚約者の瞳見つめて笑いかけた。

「英二、約束して?ふたりとも、一緒に帰ってきてね?待ってるから…愛してるなら、言うこと聴いて?」
「ふたりとも、」

言葉、繰り返して切長い目が微笑んだ。
きっと英二には意味が解かったのだろうな?想いと一緒に周太は微笑んだ。

「そう、光一も一緒に帰ってきてね?ふたりで無事に、俺のところに帰ってきて?…ごはん作ってあげるから、ね?」
「周太、」

名前呼んで、きれいな笑顔咲かせて長い腕が抱きしめてくれる。
おだやかな温もり包まれて微笑んだ周太に、きれいな低い声が問いかけた。

「ありがとう、周太。俺、ちゃんと正直に向き合うな?でも、教えてほしいんだけど、」
「ん、…なに?」

微笑んで問いかけた周太の唇に、キスふれて英二が笑ってくれる。
キスが嬉しくて笑った周太に、おだやかな笑顔の婚約者は言ってくれた。

「俺の婚約者は周太だけだよ。だから、ふたりきりの時間は大事にしたい。ベッドでふたり過ごす時間も、俺は大切にしたい。
だから教えてほしい、俺が国村と夜を過ごしても、周太は俺とベッドを一緒にしてくれる?今まで通り、俺に抱かれてくれるの?」

こんな質問恥ずかしい。
けれど大事なことだから、きちんと答えておきたい。
首筋から頬へと熱かけ昇るのを感じながら、周太は唇をひらいた。

「さっき言ったでしょ?拗ねたら、いっぱいワガママ聴いて甘やかして、宥めてね、って。ちゃんと聞いてなかったの?恋の奴隷の癖に、」

わざと最後はつっけんどんに言って、くるり寝返り打って周太はそっぽを向いた。
ほら、こんなにワガママなんだから?それでも構わないんでしょ?
そんな態度で枕に顔うずめた周太を、温かい腕が抱きしめた。

「ごめん、お願いだから機嫌なおして?周太、愛してるから…今夜も、君を抱かせて、」

抱きしめてくれる腕が動いて、コットンパンツのウェストに手が掛けられる。
長い指が、ウェストのボタンを外していく。
そのままファスナー降ろされる感触に、思わず声がこぼれた。

「…あ、」

これから始まる恋人の時間への緊張と、歓びに心が掴まれる。
かすかな吐息が首筋にふれる、その温もりに枕を抱いた腕がゆるめられた。

「周太、…俺に、命令して?」

きれいな低い声が、あまやかに薫り醸す。
惹きつけられる声に少しだけ振向くと、優しいキスが唇ふれて微笑んだ。

「お願い、周太?恋の奴隷に、今夜を命令してよ?…こっち、向いて?」

きれいな微笑が見つめて「おねだり」を求めてくれる。
求めながら長い指が衿元のボタンに掛けられる、そして1つボタンが外された。

「あ、」

思わずこぼれた声に、切長い目が瞳のぞきこんでくる。
瞳で心からめとりながら、きれいな笑顔が周太にねだった。

「命令して?…今夜、ずっと愛し合いたい、って…気持ちよくして、って言ってよ、周太?好きなだけして、って赦してよ?」
「ん、…」

ちいさく頷いて、でも声が詰まってしまいそう。
だってこんなに艶やかな笑顔で見つめられて、なんだか緊張してしまう。
けれど今、言ってあげられなかったら、きっと英二は拒絶されたと思いこんでしまう。
小さく息吸って周太は、きれいに微笑んで命令と赦しを告げた。

「愛しあいたい、気持ちよくして?英二が好きなだけして?…愛してるなら、言うこと聴いて?」

告げた言葉に、きれいな笑顔が咲いてくれた。
笑顔のまま幸せな想いの声が、周太に告げて微笑んだ。

「はい、言うこと聴きます。ね、周太?どこをしてとか、いっぱいワガママ言ってよ?」

そんなこと難関すぎて困る。
そんなこと恥ずかしい、でも何か言わないといけない?頬熱くなるままに周太は、小さな声でねだった。

「ん、あの…英二のなかに、したい…な、」
「うん、してほしいよ?周太、…」

キスで唇ふさがれて、熱い吐息が口移しされていく。
長い指がシャツのボタンを外し、肩から素肌が露にされて、腰からも衣擦れの音が下げられていく。
首筋にキスがふれて、肩に腕にキスがおりて、胸へ腰へと素肌に熱い花びらが咲いていく。

「…あっ、」

思わずこぼれだす吐息に、花びら刻む唇が微笑んだ。

「周太、感じてくれてる?…かわいい、俺の恋のご主人さま、」

微笑みかけながら長い指は素肌ふれて、周太の体に感覚を与えてくれる。
ふれられる熱に体ふるえて、与えられる感覚に心ごと浚われてしまいそう。
こぼれていく吐息を聴きながらシーツを握りしめた時、長い指が体の中心に絡みついた。

「…っ、」

思わず息を呑んだ感覚に、熱い吐息が吹きかけられる。
その吐息のままに指はなれて唇と舌が絡まりついた。

「あぁっ、」

よせられる感覚に声がこぼれだす。
なんだかわからなくなってしまう、こんなふうに熱となめらかさに包まれて頭が変になる。
この今が苦しい甘さに充たされて、体の中心へと感覚があつめられ犯され、愛されていく。
こんなこと7か月前まで自分は、何も知らなかった。けれど今この瞬間に心ごと体は浚われている。

「周太、気持ちよかった?…」

ようやく解放した唇が、嫣然と微笑んで周太に笑いかける。
あの唇に今されていたことが恥ずかしい、けれど幸せがくすぐったい。
この含羞と幸福に熱くなる頬と頭で、ぼんやりと涙目のまま恋人に微笑んだ。

「ん、…きもちよかった、」
「よかった、」

微笑んで、ベッドサイドのペットボトルに長い腕を伸ばす。
水ひとくち飲んで置くと、こちらを見つめながら長い指を着ているシャツにかけた。
すぐにボタンが外されて、潔く白皙の肩から白いシャツがすべり落ちていく。
露わになった素肌が覆い被さって、長い脚が動く気配にベッドから、2つのコットンパンツが床に落とされた、

「周太、…きれいだ、肌が桜色になってる、」

素肌を重ねながら、端正な貌が幸せに笑ってくれる。
さっき水を飲んだばかりの唇が濡れて、ほのかな灯に艶めくのが綺麗で見惚れてしまう。
きれいだな?ぼんやりと涙目で見つめていると、長い指が周太の体の中心に絡まれた。

「…あっ、」

思わずこぼれた声のむこう、長い指は周太の敏感な所に薄いものを被せていく。
そのまま滑らかな感触を塗られ包まれて、周太は思わず声をあげた。

「やっ、あ、…ん、」
「可愛いね、周太は…大人になったのに、こんなに敏感で、可愛い、」

囁く恋人は幸せに微笑んで、やさしい瞳が見つめてくれる。
こんなに優しげな笑顔なのに、長い指は容赦ない感覚に追い詰めるよう施していく。
あまい切ない感覚に責められながら見上げた周太に、きれいな切長い目が嫣然と微笑んだ。

「そんな目、されると…困るよ、周太。好きになり過ぎて、歯止め効かなくなるから…っ、」

微笑む言葉と一緒に白皙の腰が降ろされて、快楽の始まりが口づけた。

「あ…っ、ああっ、」

こぼれた声に白皙の腰が深められ、敏感なところへ熱が絡まりつく。
この感覚に意識ごと呑みこまれてしまう、どうなるのか怖い想いこみあげて、けれど止めてほしくない。
混乱するまま周太は、見おろしてくる恋人の瞳を見あげた。

「え、いじ…あ、っ、…ん、」
「周太?…気持ちいいんだね、うれし、…っ、よ、」

名前呼んで見つめてくれる瞳も、切なげに濡れている。
こうして見つめ合いながらも、深められ呑まれていく感覚に周太は悶えた。

「…っ、ああっ、ああ、や、ぁ…っ、」

ぐっと深まる感覚が奔って、全てが熱に呑みこまれる。
締めつけ絡みつく熱の感覚に言葉奪われる、ただ瞳から涙こぼれてしまう。
すべて浚いこまれるまま見つめた先で、切なげな美しい笑顔が周太に微笑んだ。

「周太、…全部、入ったよ?ね…気持ちいい、だろ?」
「ん、はい…、あ、っ、」

答えたままに、ゆっくり熱が動き出す。
すりあげられ蠢く感覚が熱のまま呑みこんでくる、この感覚に浚われて声があがった。

「あ、えい、じっ、…や、…っあ、」
「かわいい、周太、こんなに感じて…あ、いま周太、大きくなったろ?」
「っう…っ、わかんな…しらない、ああっだめ、へんになっちゃう、や、…」

解からない、怖い。
これは3月の初めてから幾度めかになる、それなのに変になりそうで怖くなる。
どうしたらいいの?困惑のまま与えられる感覚に涙こぼれていると、きれいな低い声が微笑んだ。

「変じゃないから周太…体の力抜いて?…っ、…ね…周太も、してよ?」
「あ、…な、にするの?…ん、っ、」

なにをこんなときすればいいの?
解からなくて見つめた先で、端正な切ない微笑が見つめて、ねだってくれた。

「周太も、ね…うごかして?俺にしてほしいな…こんなふうに、…っ、」

そっと長い腕が周太の腰を抱きあげて、突き上げるよう白皙の腰に引き寄せた。

「ああっ、あ…っ」

引き上げられた動きに感覚がほとばしる。
言いようのない触感に涙がこぼれだす、けれど見あげた恋人は幸せに微笑んだ。

「…周太…今の、俺、すごく気持ちよかった…ね、いまの嫌だった?」

幸せに笑ってくれるのなら、してあげたい。
ただそれだけ思いながら周太は、ぼんやりしたまま微笑んで腰を突き上げた。

「あっ、…しゅ、うた、」

白皙の喉が逸れるよう悶えて、体ふるわせてくれる。
こんな切ない声をあげてくれるのが嬉しくて、感覚に呑まれながらも周太は腰を動かした。

「…はあ…っ、しゅう、た、っ…かわいい、ね、」

切ない声こぼれていく。
白皙の肌が微かに上気するよう紅さして、艶やかな声と一緒に白い腰が動かされる。
その動きに呑まれて涙あふれて、周太の唇からも声がこぼれおちた。

「ん、っ、…あ、えいじ…だめ、あ、…」

感覚が全身を覆いだす。感覚に浸食されて動きが麻痺する、もう動けなくなってしまう。
ただ与えられる感覚の底に沈められて、自分の体がもうわからない。
そんな周太の体を抱きしめて、白皙の腕が腰を引き寄せた。

「しゅうた…ね、いっしょに気持ちよくなってよ…ほら、」

ぐっと腰が引きよせられて、敏感な感覚に覆いつくされる。
もう、熱に包まれる所しか感覚がなくて、意識も朧になりかける。それでも周太は恋人を抱きしめて、微笑んだ。

「ん、いっしょ…に……あっ!」

途端、大きなふるえが体の芯を貫いて、奔りだす。

「あ、ああっ、」

体貫く感覚に声があがる、体が反って撓んでいく。
瞬間、大きく撓んだ体を白皙の腕が抱きしめて、ふれる肌のはざま熱があふれた。

「…っ、しゅうた…」

名前呼ぶ声が、切なく甘い。
甘い声が唇ふれて、キスが甘さを口移し封じ込める。
唇からキス籠められる想いのまま、ふれあう腰に胸にあまい熱が絡みついていく。
素肌を熱に覆われるなか、静かに唇キス離れて吐息がこぼれた。

「…は、ぁ…」

大きな吐息と、涙がこぼれていく。
力の抜けた体の素肌に熱滴るのを感じながら、ゆるやかに周太は瞳を閉じた。

「周太、ごめん…ね?」

きれいな低い声が囁いて、そっとキスしてくれる。
どうして謝るの?そっと睫ひらいて見つめた向こう、端正な切長い目が困ったよう微笑んだ。

「俺、いま、しちゃった…ごめん、周太?このまま風呂、連れていくから赦して?」
「え…?…ああっ、」

訊き返した途端、敏感な部分が解放される感覚に声こぼれてしまう。
こんな声をあげてばかりで恥ずかしい、思わず目を瞑った周太を頼もしい腕が抱きあげた。
こんな、いつもの「お姫さま抱っこ」に抱えられるのも今、気恥ずかしい。
もう色々恥ずかしくて、顔を両掌で隠した周太に大好きな声が微笑んだ。

「周太、そんなに恥ずかしがらないで?俺の方が今、ちょっと恥ずかしいんだから、」
「…え?」

意外な言葉に、運ばれていく腕のなか周太は掌をさげて瞳を開いた。
そして視界に映った自分の体と、恋人の体に周太は目を丸くした。

「あ、…」

このじょうたいってつまりそういうこと?

意外なことに驚いてしまう、だっていつも自分ばかりがそうだから。
いつも自分ばかりが英二にされるまま何度もして、英二は最後の時だけしかしない。
それなのに今は英二もそうだったということ?ふたりの体へ絡んだものに、周太は唇をひらいた。

「あの、えいじ?これって…あの…、」

なんて訊いたらいいのだろう?
途惑うまま言葉が途切れてしまった周太に、切長い目が気恥ずかしげに微笑んだ。

「うん。周太にしてもらうの気持ちよくて、俺、いっちゃった、」

そんなふうに言われるとほんとうに恥ずかしいから?
こんな想い恥ずかしすぎて言葉にも出てくれない、こんなの罰ゲームみたい。
だって自分がこの美しいひとに、なんて?

「はい、周太。ここ、座って?」

浴室の扉開いて、浴槽の中に降ろしてくれる。
明るいライトに端正な肢体が照らされて、白皙にうかびあがる様に見惚れてしまう。
やさしい湯がふりそそぎ始めると、湯に濡れる唇にキスがふれた。

「周太、愛してる…俺の初体験、あげたよ?」

切長い目が見つめて、視線でも想い告げてくれる。
幸せだよ?そんな眼差と見つめながら、きれいな低い声が幸せに微笑んだ。

「俺、してもらうの初めてだし…されて気持ちよくなったの、初めてだから。周太が初めてで、周太だけだから、」

英二の体の「初めて」を周太に贈ってくれた。
もう3月に英二の「初めて」をもらったのに、またくれたの?こんな「初めて」が面映ゆくて周太は羞んだ。

「ん、…そうなの?」
「そうだよ、周太。俺、されるのは周太だけだよ。俺の処女は君だけのもの、婚約者で、未来の妻だから」

恥ずかしい言葉に真赤になってしまう、ほら、もう逆上せそう。
けれど、大切なことを英二は言おうとしてくれている。ほっと1つ呼吸して心を落着けると、周太は微笑んだ。

「されるのは俺だけなの?…光一には、させてあげないの?」

自分に気を遣わなくても良いのに?
そう見つめたけれど、婚約者は切長い目を笑ませて穏やかに微笑んだ。

「うん、妻にしかさせない。周太だけにしてほしい、それに線引きが欲しいんだ。結婚するのは、簡単な事じゃないから、」

言いながら温かい湯のなかで、石鹸を泡立て周太の肌を洗ってくれる。
こんなことも気恥ずかしくて幸せで、そして今を誠実に話そうとしてくれる婚約者が嬉しい。
嬉しい想いのまま周太は微笑んで訊いた。

「ん、そうだね…でも、アンザイレンパートナーも、簡単な事じゃないでしょう?光一にも特別が、ある?」

いつも真直ぐで、大人になっても純粋無垢なままの初恋相手。
あの山っ子に相応しい愛し方を、きっと英二なら見つけているだろうな?
そんな想いに見つめた先で、洗い終えた体をシャワーで流すと婚約者は栓を閉めた。

「うん、…あるよ、」

答えて切なげな微笑が周太を見つめてくれる。
バスタオルで体包んでくれながら、きれいな切長い目が周太を見つめた。

「ほんとうは俺、周太を連れていきたい、雪の最高峰に…すごく、きれいな世界なんだ、」

見つめたままバスタオルごと周太を抱きあげて、唇のキスに切長い目は微笑んだ。
浴室の扉開いたむこう、ほの明るい部屋におりて英二はベッドへと運んでくれる。
バスタオル外して、白いリネンに包みこむと白皙の腕は優しく周太を抱きしめた。

「ごめん、周太…俺は、周太には行けない世界に、立ち続けることを夢にしてる。こんな生き方で、ごめん、」
「そんなこと、謝らないで?」

微笑んで見上げた先、切長い目が哀しそうに微笑んでくれる。
そんな顔しないでいいのに?きれいに笑って周太は婚約者にキスをした。

「ね、英二?…俺に行けない所でも、英二のお蔭で心は連れて行ってもらってるよ?…そうでしょう?」
「うん、そうだよ。いつも俺、周太のこと考えてる、」

切長い目が微笑んでくれる。
この笑顔を曇りなくさせることが自分の望み、この望む通りに周太は微笑んだ。

「俺は、英二の夢に一緒に立てない…でも光一なら、英二の夢の隣に立てる。それが俺、嬉しいんだよ?」
「周太、」

切長い目が大きくなって、周太を真直ぐ見つめてくれる。
この想い受けとめて自分の想いも伝えたい、周太は真直ぐ見つめて笑いかけた。

「最高峰は寒くて、命が生きられない場所だよね?でも光一がいたら、英二と温め合えるでしょ?そうしたら無事に帰ってこられるね、」

もし、ひとりなら挫けそうでも。
きっと、ふたりなら励まし合って温め合える。そうして世界中のいろんな場所に行ける。
もし世界中に行ってくれるなら、きっと、自分がどこに居ても見られるはず。この望みに周太は微笑んだ。

「英二には夢に生きていてほしい、光一にも。きれいな幸せな、大切な笑顔を、ずっと見ていたいんだ。
だから、最高峰に登っていてほしい。きっと最高峰なら、どこからでも見られるから…ふたり一緒なら、きっと最高峰でも無事だよ?
だからね、ふたり援けあって温め合って、最高峰に登り続けてほしいんだ、そして笑顔を俺に見せて?誰より幸せに輝く笑顔を、ね?」

切長い目が真直ぐ見つめて聴いてくれている。
こんな真直ぐ見つめてくれる、実直で熱情的な眼差しが自分は好きで、この眼差しのままの心を愛している。
どうかこの願い、この人の心に深く刻まれてほしい。その願い見つめて周太はきれいに笑った。

「最高の笑顔を俺に見せて?いちばん空に近い、最高峰から俺に笑顔を見せて?ずっと最高峰から俺に、想いを届けて?
お願い英二、愛しているなら言うこと聴いて?なにがあっても、最高峰で幸せに笑って、俺の大好きな笑顔を、俺に見せていて?」

“約束する「あなたを愛していると最高峰から永遠に告げていく」すべてに負けない心を信じてほしい”

婚約の花束に告げてくれた、英二のメッセージ。
あの花束に籠められていた純白輝く花「オーニソガラムMt.フジ」花言葉は純粋、そして最高峰の名前を冠している。
この花示す最高峰に英二と光一は明日の夜から登りに行く、冬富士と呼ばれ「魔の山」と言われる生命ない世界に立ちに行く。
いま明日へと見送る想いは不安と心配がある、けれど、ふたり温め合えるなら無事に帰って来られるだろう。
そしてこの「明日」は今回で終わらない、ずっと永遠に近く続くこと。だからこそ、願いたい。

どうか、ふたり愛し合い温め合って、どんな最高峰も超えてほしい。
そして、もし自分がいつか、帰られない「明日」を迎えたとしても、きれいな笑顔は永遠でいてほしい。
この愛する想いが枯れない花でいるように、どうか、きれいな笑顔も枯れない花でいてほしい。

「お願い英二、約束して。最高の笑顔を、最高峰で見せて?最高峰のキスで温めて見つめあって、ふたり無事に帰ってきて?」

これは想いの真実、どうか無事に帰ってきてほしい。
もし自分が居なくなっても、ふたり愛しあい温めあえたら大丈夫。そうして笑顔のまま生きて、幸せでいて?
この枯れない想いに見つめる真中で、きれいな幸せな笑顔が咲いてくれた。

「うん、周太。約束する、俺…最高峰で、あいつと向き合うよ。ありがとう、周太…言ってくれて、」

切長い目から涙、こぼれる。
涙つたう端正な笑顔は、きれいな低い声で微笑んだ。

「光一にも特別なことある?って周太、訊いてくれた…あの答えは今、周太が言ったことだよ…最高峰でキス、することだ」

ほら、答えがちゃんと同じだった。
こんな同じも嬉しい、嬉しい想いに周太は微笑んだ。

「ん、同じ考えだったね?よかった、…ふうふならおなじ考えしたいから、ね、」

夫婦なら、この言葉に幸せが温かい。
温かで幸せで微笑んだ周太を、大好きな腕が抱きしめて唇にキスふれた。

「周太、愛してる。俺は、君への想いから、今の場所に辿り着いたんだ。君は俺の全て、伴侶にしたいのは君だけ。愛してる君を…」

想い告げた唇がキスふれて、静かな嗚咽がこぼれだす。
ほの明るいビジネスホテルの一室で、涙あふれる聲が静謐の底に響いてく。
いま抱きしめている人は自分の懐で泣いてくれる、この涙は真摯な愛だからこそ、温かい。




(to be continued)

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