君くるむ、

神無月朔日、紅菊―noble
雫やわらかに花ひかる、そんな朝を写して。
しゅっ、
かすかな筆音に色が奔る。
紙すべらす色まばゆく重ならす、濃淡に浮かびだす。
淡く濃く色ゆうるり浮いて現われる、陰翳の筆先に妻が呼んだ。
「まあ…いい柄ですねえ、」
「そうかい?」
かたん、筆を置いて紙面ながめる。
描き出した五彩ふかく浮かぶ花、その色に皺の口もと微笑んだ。
「ほんとに、いい柄…位高い花のまんま、愛らしい、」
畳の机上、ひろげた五彩に声がふる。
見つめる図案に香ひとつ、かすかな秋に微笑んだ。
「小菊が似合うと思ってな、どうだろう?」
誰に、なんて言わない。
それでも伝わる相手は澄んだ香に微笑んだ。
「ええ、よく似合うでしょうねえ…好きな花だもの、」
好きな花、だから祝い贈りたい。
そんな一輪ごと籠めた願い笑いかけた。
「法曹家には高潔が大事だとか、あれはよく言ってるな?」
「ほんと、よく言っていますよねえ?司法試験合格のおまじないかもしれませんねえ、あの子流の、」
微笑ことこと優しい声、朝の澄明しずかに透る。
この声ずっと聴いた日々の今、祈る想い声にした。
「高潔さと、長寿の花でもあるだろう?いいと思ってな、」
高潔さ、それは本人が願い選んだ道。
それ以上に祈りたい本音、寄り添う瞳が微笑んだ。
「ええ…あの子はきっと長生きしてくれます、そうでしょう?」
「ああ、そうだな、」
うなずいて、机上の花が露たたえる。
この光を染め上げたい、その想い声にした。
「おまえにも菊は似合う、」
この花、着せたいのは一人じゃない。
その願いに澄んだ瞳ゆっくり微笑んだ。
「まあ…私の長寿も願ってくれるんですか?」
「あたりまえだ、」
答えて、ほら耳元なんだか熱い。
こんな齢になっても自分は自分だ?照れ性分と口ひらいた。
「母親代わりをキレイにしてやれば、成人式の写真もカッコつくだろう?」
つい投げつける口調、それでも想い言葉に変わる。
きっと耳もう真っ赤だろう、そんな性分に困るまま訊かれた。
「まあ…私の着物まで作ってくださるの、あなた?」
「そろいの図柄も悪くない、」
即答つっけんどん、我ながら呆れたくなる。
こんなふうにしか言えない自分、その妻が笑ってくれた。
「二十歳と古希でおそろいなんて、あの子は嫌がらないかしら?」
孫と祖母、その年齢差に長い睫やわらかに笑う。
その耳元かきあげる髪は銀色ひそんで、そんな歳月に微笑んだ。
「そんな浅はかな娘には育っとらん、あれは思慮深い、」
「そうですねえ、」
銀色かくした黒髪やわらかに笑顔こぼす。
半世紀より見慣れた瞳は朗らかで、その幸せに立ちあがった。
「仮仕立て始めるぞ、成人式に間に合わん、」

第7回 ライフ ブログトーナメント
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10月1日誕生花キク(赤)

神無月朔日、紅菊―noble
雫やわらかに花ひかる、そんな朝を写して。
しゅっ、
かすかな筆音に色が奔る。
紙すべらす色まばゆく重ならす、濃淡に浮かびだす。
淡く濃く色ゆうるり浮いて現われる、陰翳の筆先に妻が呼んだ。
「まあ…いい柄ですねえ、」
「そうかい?」
かたん、筆を置いて紙面ながめる。
描き出した五彩ふかく浮かぶ花、その色に皺の口もと微笑んだ。
「ほんとに、いい柄…位高い花のまんま、愛らしい、」
畳の机上、ひろげた五彩に声がふる。
見つめる図案に香ひとつ、かすかな秋に微笑んだ。
「小菊が似合うと思ってな、どうだろう?」
誰に、なんて言わない。
それでも伝わる相手は澄んだ香に微笑んだ。
「ええ、よく似合うでしょうねえ…好きな花だもの、」
好きな花、だから祝い贈りたい。
そんな一輪ごと籠めた願い笑いかけた。
「法曹家には高潔が大事だとか、あれはよく言ってるな?」
「ほんと、よく言っていますよねえ?司法試験合格のおまじないかもしれませんねえ、あの子流の、」
微笑ことこと優しい声、朝の澄明しずかに透る。
この声ずっと聴いた日々の今、祈る想い声にした。
「高潔さと、長寿の花でもあるだろう?いいと思ってな、」
高潔さ、それは本人が願い選んだ道。
それ以上に祈りたい本音、寄り添う瞳が微笑んだ。
「ええ…あの子はきっと長生きしてくれます、そうでしょう?」
「ああ、そうだな、」
うなずいて、机上の花が露たたえる。
この光を染め上げたい、その想い声にした。
「おまえにも菊は似合う、」
この花、着せたいのは一人じゃない。
その願いに澄んだ瞳ゆっくり微笑んだ。
「まあ…私の長寿も願ってくれるんですか?」
「あたりまえだ、」
答えて、ほら耳元なんだか熱い。
こんな齢になっても自分は自分だ?照れ性分と口ひらいた。
「母親代わりをキレイにしてやれば、成人式の写真もカッコつくだろう?」
つい投げつける口調、それでも想い言葉に変わる。
きっと耳もう真っ赤だろう、そんな性分に困るまま訊かれた。
「まあ…私の着物まで作ってくださるの、あなた?」
「そろいの図柄も悪くない、」
即答つっけんどん、我ながら呆れたくなる。
こんなふうにしか言えない自分、その妻が笑ってくれた。
「二十歳と古希でおそろいなんて、あの子は嫌がらないかしら?」
孫と祖母、その年齢差に長い睫やわらかに笑う。
その耳元かきあげる髪は銀色ひそんで、そんな歳月に微笑んだ。
「そんな浅はかな娘には育っとらん、あれは思慮深い、」
「そうですねえ、」
銀色かくした黒髪やわらかに笑顔こぼす。
半世紀より見慣れた瞳は朗らかで、その幸せに立ちあがった。
「仮仕立て始めるぞ、成人式に間に合わん、」

菊:キク、花言葉「高貴、高尚、高潔」紅菊「真の愛、あなたを愛しています」
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