春になると会いたくなる花があります。
静かな山間にある民家の庭先に咲く白木蓮の花。
ハクモクレンを愛する人は多いようで、 あちこちで見かけますが、これほどの大木を他で見たことはありません。
遠くに見える白い花の正体を知りたくて、知らない道を当てずっぽうに登っていったのはもう4,5年前。そのころは道が狭く、この木のそばに近寄ることは出来ませんでしたが、今では舗装された広い道がついて、民家のすぐ横に車を停めることができます。
木を撮ろうとするとどうしても家が写ってしまいますので、道ばたに車を停め、中からこっそりとカメラを構えていたら・・・・・
家の方から中年の女性が一輪車を押して出てきました。
やった! お願いして堂々と撮らせてもらおうと車から出ようとしたら、
「どうぞ、中へ入って撮ってください。 ここから(田んぼの中)でもいいし、あちらの庭からでもいいですよ。」
なんと、お願いするより先にあちらの方から声をかけてくれました。
カメラを構えていたの、みつかったらしい・・・・・
「ありがとうございます。 おうちも一緒に写るので遠慮してたんですよ、」とわたし。
「いいえ、かまいませんよ。 なんか、道からよく見えるそうで、遠くの人がわざわざ来て写真を撮っていかれますよ。」と、その女性。
「家の方はおばあさんの家じゃけど、今入院していて留守ですから、庭の方へ入ってもいいですよ。」
柔らかく優しい声でした。
お言葉に甘えて、庭先から見上げました。
少々盛りを過ぎていましたが、この花の数!
ハクモクレンは、枝が垂れ下がるように伸びるけれど、花はすっくと首をもたげて上向きに咲いています。この花の付き方が好き。
木の真下に立つと、花はドーム状に広がって、丸い広々とした空間ができていました。 密に咲いた花が、折からの小雨をさえぎってくれました。
木蓮の花を裏側から見るのもなかなかおもしろいものです。
「ちょっと遅かったですねえ。今日の雨で散ってしまうでしょうねえ。」「来年はもっと早うにおいでてください。」
枝はかなり下まで伸びていますので、楚々とした花を間近に見られるのも魅力です。
このおうちにはサンシュユもあって、春になるとまずそれが咲き、 ついでピンクのこぶし、そして木蓮が咲くのだと説明してくれました。
こぶしはそばに物置を建てたため、だいぶ枝を落としたんだとか。 木蓮ほどの巨木ではありませんが、これも見事な大きさの木でした。
向こうに見えるのは?
どうもトサミズキらしいですね。
どの木も亡くなったおじいさんが植えたので、お嫁さんにあたるその人はこれらの木をいつ頃植えたのか、知らないと言っておりました。
そして木蓮の花が終わると、向こうのお寺の桜が咲き、次いで神社のなんとかツツジが咲くのだそうです。
静かな山間で、花の季節を心待ちにしていたおじいさんの心情がしのばれました。
花に会いに行って、心優しい人と出会いました。