wakabyの物見遊山

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僕の読書ノート「ミュージック・マガジン 2019年4月号」

2019-04-06 17:08:14 | 書評(アート・音楽)




ミュージック・マガジンの創刊50周年記念号である。
音楽通向けのワールド・ポピュラー・ミュージック総覧的な本誌は、洋楽ロック好きの私には少し指向性が違うので、これまではあまり手に取ることがなかった音楽雑誌なのだが、特集「50年の邦楽アルバム・ベスト100」と特集「細野晴臣」に惹かれて購入した。復刻された創刊号も同封されている。

特集「50年の邦楽アルバム・ベスト100」では、1969年から2018年までの「50年の邦楽」、ポップスの枠にくくられるものすべてが選出対象となり、50人の選者から選ばれたものを集計して選出された。1位から10位までを下記に抜粋する。

1.はっぴいえんど「風街ろまん」
2.シュガー・ベイブ「SONGS」
3.大滝詠一「ロング・バケイション」
4.ゆらゆら帝国「空洞です」
5.イエロー・マジック・オーケストラ「ソリッド・ステイト・サバイバー」
6.フィッシュマンズ「空中キャンプ」
7.ザ・ブルー・ハーツ「THE BLUE HEARTS」
8.細野晴臣「HOSONO HOUSE」
9.荒井由実「ひこうき雲」
10.サディスティック・ミカ・バンド「黒船」

あまりよい邦楽聞きではなかった私でも、10位までのうち5枚はCDを持っていた。だから、ここで選ばれているアルバム群はとても順当だと思うと同時に、未知の世界-とくに、ゆらゆら帝国、フィッシュマンズ-も残されていて老後の楽しみができてよかった。11位以降はさらに未知の世界が大きく広がっている。どれだけ売れたかというよりは、全体的に音楽通のために選ばれたベスト100という趣である。それから、10位までで、少なくとも5枚は細野晴臣が関わっているアルバムである。まさに、この50年の日本のポピュラー・ミュージックを一人で作ってきた人といっても過言ではないだろう。

特集「細野晴臣」では、デビューして今年で50周年となる細野晴臣の1973年の作品「HOSONO HOUSE」とそのリメイク版として今年リリースされた「HOCHONO HOUSE」を中心に、この50年についてインタビューが行われている。この特集に14ページを割いているが、もっと読みたかった。

ニューミュージック・マガジンという名前だった創刊号では、当時の編集長だった中村とうようをはじめ、音楽評論家たちの評論やエッセーが載っているが、寺山修司の「対話としての歌の役割を考えよう」というインタビューが4ページにわたって載っていて、興味深かった。

書評「バンクシー ビジュアルアーカイブ(ザビエル・タピエス)」

2018-12-08 23:16:01 | 書評(アート・音楽)


最近(2018年10月)ニュースで紹介されていたが、サザビーズでのオークションで覆面アーチストであるバンクシーの絵が落札された直後、絵が額縁から下りてきてシュレッダーで半分くらいが縦に裁断されてしまうという事件があった。これはバンクシーが仕掛けたいたずらだったことが本人から表明された。おもしろいことをする現代アーチストがいるものだと思い、興味を持って調べてみたら、バンクシーの正体は、ブリストル出身のマッシブ・アタックというバンドのメンバー、ロバート・デル・ナジャ(3D)である可能性があるということだった。マッシブ・アタックは最近好きでよく聞いているバンドだったので、さらに興味が強くなって、彼のアート作品を見てみたいと思って行き着いたのが本書である。

無許可で建築物の壁に絵を描いたものをグラフィティというらしい。本書には、グラフィティ作家としては著名な現代アーチストの域に達したバンクシーの代表的な作品が、時系列で、描かれた場所、バンクシー本人の言葉や関連するコメント等の説明付きで紹介されている。彼の作品は、政治的であったり、社会状況を風刺するようなメッセージが込められている。絵を見ても意味がすぐにはわからなくても、説明を読むとそのあたりの文脈がわかるようになっているのが親切である。さて、彼の絵を見てみるとストリートで描かれた落書きにしては、クオリティーが高すぎる。これはステンシルという技法が用いられていることによるようだ。つまり、あらかじめ型紙を作っておいて、現場ではそれを壁に当ててスプレーで色を塗るだけで済む。そのため、時間をかけて精巧な型紙を準備することができる。また、現場で絵を描く時間を短くすることができるので、警察に捕まるリスクも減る。モノクロのステンシルにシンプルな彩色をしている作品がほとんどである。
どの絵も味があっていいなと思わせるが、この本の難点を一つだけ挙げさせてもらうと、版が小さくて17.2×13.4cmしかないことである。この大きさでは、ストリートに描かれたグラフィティの迫力がなかなか伝わりにくい。値段(定価\1,800)を倍にしてもいいので、本の大きさをこの2~4倍にしてもらえればとてもよかったのにと思う。


バンクシーが手掛けたCDジャケットとして唯一?であるブラーのシンク・タンク。

バンクシーの正体ではないかと言われているロバート・デル・ナジャのいるマッシブ・アタックは、イギリスの歌姫たちをフィーチャーした作品が多いことも特徴だ。ここでは、エリザベス・フレイザーをボーカリストとして迎えた曲の一つを紹介したい。
Massive Attack - Teardrop


書評「サウンドアンドヴィジョン きれい(鋤田正義)」

2018-07-08 16:14:13 | 書評(アート・音楽)


鋤田正義はデヴィッド・ボウイの数多くの写真を手掛けたことで有名だ。鋤田の写真展はいくつか開催されていたがついぞ見に行けなかったので、本書を入手出来てよかった。本書は、2012年に開催された二つの写真展、「鋤田正義展 SOUND&VISION」(東京都写真美術館)と「鋤田正義写真展 きれい」(パルコミュージアム)の図録のようである。前者は回顧展であり、原点としてのモノクローム写真、ファッション写真、ミュージシャンの写真、映画のスチール写真、最近の風景写真と、バラエティーに富んでいる。後者はミュージシャンの写真が中心である。とくに1970~80年代、ニューウェーブの時代のイギリスや日本のミュージシャンの写真は豊富であり、見ていてなつかしい。
印象的な写真としては、坂本龍一が娘の坂本美雨を抱きしめて幸せそうに見える写真や、腕にサクランボの刺青をしている若かったときの小泉今日子の引き込まれそうな美しさ、などいろいろあった。本書を一言で言えば、見られることを意識して撮られた絵になる写真たちである。

書評「even the ghost of the past 過去の幽霊でさえも(Marcel Dzama マルセル・ザマ)」

2018-03-31 07:55:06 | 書評(アート・音楽)


2016年に横浜美術館で開催された「村上隆のスーパーフラット・コレクション」に展示されていた作品を見て、ずっと気になっていた作家がマルセル・ザマである。作風は、一見コミカルでポップな感じがするのだが、よく見ると不気味さがあり、シュールレアリズムのポップ的展開と言ったらなんとなくわかっていただけるだろうか。不気味さはあるが、あくまでドライで、陰鬱な感じがしないところが絶妙である。


「村上隆のスーパーフラット・コレクション」で展示されていた「First Born (第一子、2007)」。本書にも掲載されている作品。

本書は2009年に出版された洋書で、DVD付きである。Amazonに掲載されていた英文の紹介文を下記の通り和訳してみた。

『マルセル・ザマの新たな作品を展示する、デヴィッド・ツヴィルナーでの彼の5回目の個展「even the ghost of the past(過去の幽霊でさえも)」のときに本書は出版された。ザマはアート、文学、インディーミュージック・シーンでの人気作家であり、マニラ紙に書いたペンと水彩による比喩的な構成でよく知られている。抑えた茶色、灰色、緑、黄色、赤からなる特徴的なパレットから生み出されたザマのドローイングには、ヒト、動物、そして雑種からなる様々な出演者たちが住んでいる。近年ザマは、様々なメディアを使った作品を制作するようになった。彼のいちばん新しい展覧会は、ギャラリーをドローイング、衣装、立体模型、映画からなるイマジネーションの劇場へと変換した。このカタログには、映画製作者のスパイク・ジョーンズによるインタビューも含まれている。コレクターズ・アイテムとすることを目的に、Even the Ghost of the Pastは二つの巻を一冊にまとめたユニークな形式になっている。本書はこの作家との共同作業によってデザインされ、表紙画として特別にドローイングが制作され、オリジナルの短編映画のDVDが付録された。マルセル・ザマは1974年にカナダ・ウィニペグで生まれ、現在はニューヨークに在住して制作を行っている。1996年以降、彼は広く北アメリカやヨーロッパで出展してきた。多くの個展、グループ展に加え、彼はニューヨークタイムズ誌、インタビュー誌、モノポール誌、アートレビュー誌への掲載に寄与してきた。』

また、この本に収録されたインタビューや解説を読んでみると、失読症だった子供時代に絵を描くことは自らの治療になったこと、政治的な動機で作品が作られていることもあること、それぞれのキャラクター(登場人物や動物)にはなんらかの意味があることなどが書かれている。そして、ザマは20世紀初頭のダダイズム、とくにマルセル・デュシャンやフランシス・ピカビアの影響を受けているということだ。


ザマ作品を元に作られたN.A.S.A.というアーチストのミュージック・ビデオ。
N.A.S.A. "The People Tree" (feat. David Byrne, Chali 2na, Gift Of Gab, & Z-Trip)


書評「めくるめく現代アート(筧菜奈子)」

2017-10-21 17:20:56 | 書評(アート・音楽)


現代アートはわかりにくいというイメージがある。つまり、見た目から受ける印象の裏側にそれぞれいろんなコンセプトやらメッセージやらが込められていて、それを知らないと十分理解できなくなっているからである。それをくつがえしてくれたのが
「村上隆のスーパーフラット・コレクション」展で、現代アートを、作品が最も高額で取引されるダミアン(本書ではデミアンと表記)・ハーストから無名の作家までフラットに並べて好き勝手に見てくださいというものだった。そこでは、コンセプトもへったくれもなくて、それぞれの作品を自分の感性で「いい、おもしろい」とか「よくない、つまらない」とか感じていればよかったとのだと理解している。そうはいっても、現代アートについてある程度の知識があれば、いままで何とも思わなかった作品にも関心が向かうのかもしれない。それはそれで自分の芸術体験を豊かにしてくれるのに違いない。そんな現代アートについての最低限の知識をコンパクトにまとめてくれたのが本書である。

前半では、40人の代表的な現代アートのアーティストを、それぞれ見開き2ページで紹介してくれる。後半では、現代アートについてのキーワードを38個取り上げて説明している。いずれもたくさんの自筆のイラストを使ってわかりやすくしている。この著者はまだ大学院に在学中だが、才能とアクティビティがある人のようだ。紹介されている40人のアーティストのうち、名前を知っていたのは3分の1くらいか。ヨーゼフ・ボイスやナム・ジュン・パイクのように名前はよく見るけど、どんな作品を作っていたのか知らなかった人もいる。ジェームズ・タレルやアニッシュ・カプーアのように金沢21世紀美術館で作品は見ていたけれど、そんなに高名な作家だとこの本で初めて知った人もいる。この40名以外にも、多くの作家がキーワード説明のところに出てくるので、作家名で引ける索引を最後に付けてほしかった。


現代アートとポップミュージックとの関係は深い。例を挙げれば、オノ・ヨーコの元夫がジョン・レノンであったり、マシュー・バーニーの元妻がビョークであったり。ダミアン・ハーストはブリットポップとのつながりが深くて自分でもバンドFat Lesをやっていたが、音楽的にはいまいちだった。ここではダミアン・ハーストが監督したブラーのPVを紹介したい。ただのおバカなPVにしか見えないが...
Blur - Country House