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書評「心の成長と脳科学(別冊日経サイエンス193)」

2015-09-19 21:32:08 | 書評(脳科学・心理学)


月刊誌「日経サイエンス」に掲載された、子どもの心の成長を神経科学と心理学の両面から取り上げた記事17編を集めた特集号で、2013年8月刊である。2002年6月と若干古い記事もあるが、おおむね現在のこの分野の先端の知見が記載されていると考えていいだろう。今まさに心と脳の発達中の娘(4歳)を持つ父として、活用できることがあったら参考にしたいという思いで読んでみた。

最初の記事は、アリソン・ゴブニックという先日(2015年7月15日)NHK Eテレの「スーパープレゼンテーション」にも出演していた心理学者による「子どもの意外な“脳力”」という解説である。赤ちゃんや幼い子どもは、以前からの考えに反して、実験したり、統計的な分析をしたり、観察した結果を説明するための理論を作り上げたり、あたかも科学者のようなやり方で世界について学んでいるという。幼児期のかなり早くから学習能力を持つようになり、非常に長い期間学習を続けていくのが人間なのである。他には、他人の行動から意図を理解するミラーニューロンの存在、自閉症におけるミラーニューロンの機能不全、父親が高齢になって生まれた子どもで統合失調症や自閉症などの精神疾患になる確率が高まること、児童虐待によって脳が受けるダメージにおいて偏桃体の抑制性神経伝達物質GABAの受容体が変化し興奮を抑えられなくなっている可能性、など興味深い話題が提供されている。

一方、われわれ子を持つ親が子育てをしていくうえで実践できそうなこととして、次のような研究結果が紹介されていた。
・文字や算数を学ぶのに仕掛け絵本とか積木とか道具を使うことは多いが、紙と鉛筆を使って単純に学んだほうがより文字や数字に集中しやすく早く覚えられるという。
・平均的な高校卒業生が所有する語彙数は8万語であり、平均して1年に5000語、1日に約13語の割合で学習することになる。これは学校で教える語彙1000を超えており、児童の語彙の成長を促す最上の方法は子どもにできるだけ多く読書させるということにある。実際に教室外であまり読書をしない子は語彙テストの成績が悪い。
・色や数を示す言葉を覚えることは子どもには難しい。その理由の一つとして言葉の並び順がある。親が子どもに向かって、「名刺-色や数」型の文で語りかける、例えば「あの風船は赤いね」と話しかけることで、子どもは色や数の概念を速やかに理解することを手助けできる。逆に「赤い風船」と言うと、子どもは「赤」が「トム」とか「ヘザー」といった何かの名称であると理解してしまう。色や数の概念を幼いうちに理解した子どもは、就学後の成績が良くなる。
・3歳になる前の子どもがときどきかんしゃくを起こすのは普通のことで、それは徐々に芽生えてきた独立心が感情や言葉の未熟さとぶつかり合うことで起きる。子どもは親に何かを妨害されたと感じた時にかんしゃくを起こすので、親は子どもに対して穏やかに理由を教えてあげる、別のことで気を引く、後で遊んであげるなど魅惑的な交換条件を提示するなど、思いやりのある態度で接することで、自分が怒っていても親に愛されているとわかり、自分の苦悩により理性的に対処できるようになる。しかし逆上するのが頻繁で、異常に攻撃的、自己破壊的な場合は、より深刻な行動上の問題に発展する可能性がある。
・フランスの神経科学者ドゥアンヌが、4~8歳の子どもを対象に算数の能力の向上を目指してNumber Raceという簡単なコンピューターゲームを考案した。このフリーソフトは8つの言語のバージョンがあるが、残念ながら日本語バージョンはないので、英語版をダウンロードして使ってみた。ゲーム中に英語で文字説明やナレーションが入るので、まずは親が子どもに使い方を教えてあげて、ならしながら子どもにやらせてみようと思っている。
・音楽の訓練を受けると、その楽器の演奏能力が高まるだけでなく、注意力、作動記憶、自己コントロール力といった認知スキルを発達させるという研究者もいる。

最後に、キャロル・S・ドゥウェックによる「頭のよい子を育てる秘訣は?」の記事で書かれていることはよく覚えておきたいところだ。多くの人が、成功のカギは優れた知能あるいは才能にあると考えているが、ここ30年の研究から、知能や才能を偏重してそれらが生まれながらに固定されているという考えを持つと、人は失敗に弱くなり、挑戦を恐れ、学ぶ意欲をなくすことがわかってきた。知能や才能よりも努力に重点を置くように促すと、学校や人生で優れた結果を出せるようになる。親や教師は子どもの知能ではなく、努力や粘り強さをほめる、勤勉と向学心を強調する成功談を聞かせる、脳の能力や知能は自分で伸ばすことができると教えることで、明確に成績は伸びていくという。こうした教示法をまとめた対話型コンピュータープログラムBrainologyが開発され提供されているというので確認してみたが、これも残念ながら日本語版は出ていない。
このような考え方はもしかしたらわれわれ大人にもあてはまることなのではないだろうかと思って読んだ。


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