劇中で「ワインスタインは彼を嫌っているスコセッシと打ち合わせだ」という内容の台詞が出てくる。暴力を人間の性のひとつとして描いた巨匠が,果たして「ギャング・オブ・ニューヨーク」や「アビエイター」で組んだ大物プロデューサーの何を嫌ったのか。「ハーヴェイ・シザーハンズ」とも呼ばれた身勝手な編集癖だったのか。本作で間接的に描かれているワインスタインの醜悪な人間性に対する本能的な嫌悪感だったのか。映画の筋に . . . 本文を読む
ラストシーンで映画の歴史を形作ってきた名監督の名前が列挙される。ベルイマンやキューブリックなど世界中のあらゆる映画監督が挙げるであろう名匠が居並ぶ中,日本の映画監督として黒澤,小津と並んで「砂の女」や「他人の顔」を撮った勅使河原宏の名前が出てくる。世界に名を知られた日本人監督ということであれば老舗の映画祭で名を馳せた今村やフランソワ・トリュフォーも絶賛したという山中,更には再評価が進んでいる成瀬ら . . . 本文を読む
1970年代にハリウッドに起こったブームのひとつに「パニック映画」というジャンルがあった。「タワーリング・インフェルノ」や「ポセイドン・アドベンチャー」などは大仕掛けのセット撮影に加え,大スターの共演も話題を呼んで興行的にも好成績を上げた。そんな勢いを駆って作られた中には,ロサンゼルス地震を扱ったその名もずばり「大地震」という,身も蓋もない題名の作品もあった。「センサラウンド方式」と名付けられた極 . . . 本文を読む
ケイコ(岸井ゆきの)がトレーナーとパンチのコンビネーションを練習するシーンに圧倒される。トレーナーが順々に繰り出すパンチの種類と身体の動き=スウェーを無言で教えながら,徐々に二人のやり取りのスピードが上がっていく。それはやがてパンチの練習という枠を越えて,コミュニケーションに昇華していくダンスの様相を呈していく。フィルムで撮影された画面が持つ独特の「粒」感が,ケイコが発する汗を受けて温度と艶を増し . . . 本文を読む
今更ながらアニメーション作品が席巻する日本の興行事情を実感することとなった1年だった。全てのスクリーンに対するアニメ作品の占拠率がどのくらいなのかは分からないが,シネコンのロビーを埋め尽くす若い観客が,目当てのアニメ作品(プラス「トップガン マーヴェリック」も)の開場を告げるアナウンスと共に一斉に入り口へと移動していく光景は,社会がCOVID-19禍から脱出しつつあることを象徴するひとつと言えるも . . . 本文を読む
アメリカの音楽チャートで新しいアルバムの曲が1位から10位までを独占するという偉業を成し遂げたテイラー・スウィフトの歌声がエンド・ロールに流れてきて,改めて全世界で1,500万部が売れたというベストセラーの原作(私は未読)の浸透度と影響の強さを思い知らされた。ただ8月に公開されたアメリカでの興行収入は,ベストテンから陥落した9月上旬時点で1億ドルには達していなかったことから類推すると,小説を読んだ . . . 本文を読む
冒頭,怯える馬の群れを正面から捉えたショットは,正真正銘「ホラー映画」のものだ。それに続く羊小屋の中で一匹の羊が通路に放り出されるショットと共に,観客に「何者か」の存在を見せずに,得体の知れない威圧感を与える,という点では「モンスター映画」としてもパーフェクトな導入部から,A24作品「LAMB/ラム」は始まる。ひと昔前に「アイスランドの有名人(グループ)と言えば,ビョーク,シガー・ロス,グジョンセ . . . 本文を読む
NETFLIXオリジナル作品「ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから」は,複数のマイノリティ要素を背負いながらも,懸命に前を向いて歩み続ける少女の姿を描いて,小品ながら強い光を放つ秀作だった。監督のアリス・ウーがデビュー作「Saving Face」から同作の制作まで16年間というインターバルを要した,という事実からは,監督本人が主人公と同様にアメリカ映画界において苦難の道程を歩んできたのであろう . . . 本文を読む
「あなたのブツが,ここに」
TVドラマ界においても,3年近く続いているCOVID-19禍の社会を俯瞰的に捉えたものが,ぽつぽつと出始めている。キャバクラをクビになったシングルマザーの女性が,生活の糧を求めて宅配ドライバーとして走り出す姿を描いたNHKの夜ドラである本作は,そんな時代の波を捉えつつ働くことの意味を問うた秀作だ。
COVID-19禍でキャバクラの職を失ったシングルマザー役の仁村紗和は, . . . 本文を読む
「魔法のリノベ」
ほぼどのシーズンにも,と言っても過言ではないくらい多く見かける「漫画」が原作の当作。SDGsという追い風もあって,言葉自体も一般化しつつあるリノベーションという仕事を中央に据え,昨今退潮傾向にあるTVドラマ界にあって比較的高打率を保っている波瑠を,脚本の上田誠をはじめとするヨーロッパ企画勢が盛り立てるというフレームは,時宜にかなった良い選択だった。舞台となる「まるふく工務店」のア . . . 本文を読む
「石子と羽男-そんなことで訴えます?-」
プロデューサー新井順子&演出塚原あゆ子(プラス山本剛義)という,野木亜紀子脚本の傑作群を生み出してきた「テレビドラマ界のスライ&ロビー」と私が勝手に呼んでいる鉄板コンビが手掛けた弁護士ドラマは,期待を裏切らない出来だった。有村架純という脂の乗った芸達者が中村倫也を引っ張り,雑然としたマチベン事務所に「私,失敗するかもしれませんので。というか,もう何度も司法 . . . 本文を読む
さかなクンの人生を脚色して映画化した本作に,当のさかなクンが出演している。勿論,本人役ではないが,主人公のミー坊(のん)の人生に大きな影響を与えるキャラクターとして,重要な役割を果たしている。役者として演技をしている訳ではないところがミソなのだが,映画を観ていて「こんな感じの人,昔いたなぁ」と思い出していた。社会的な信用度という点で少々問題ありと評価されがちな「不思議な人」が,実は世の中の健全度や . . . 本文を読む
編集者スティーヴン・ジェイ=シュナイダーがまとめた「死ぬまでに観たい1001本」は,時代が進むに合わせて改訂版が出ており,その度に新しい映画が追加されると同時に,新作映画の追加本数だけ古い映画が削除されているようだ。際限なく作品数を増やすよりも「1001本」という,どうして決めたのかは分からないけれども,それなりに意味のありそうな数字に拘る態度は,映画というジャンルのガイドブックに相応しい行為のよ . . . 本文を読む
地上波NHKでも放送していたが,どうやら試合をより面白く,分かり易く見せるための仕掛けが盛り沢山だった上に,しゃべり出したら止まらない「自分ファースト&視聴者セカンド」の中村憲剛氏の解説ということで,ちゃんと試合が入ってこなかった,というコメントがネット上に溢れていた。スコアレスドローという結果だけを観れば,悪天候に悩まされた凡戦,という評価があってもおかしくない試合だったが,NHK視聴者には「お . . . 本文を読む
福森の2年振りとなる直接FKによる先制点。チームの実質的なエースである小柏の今季初得点を含む4点を奪って,なおかつクリーンシート。今季初の連勝。試合数は違えど,降格圏の16位とは勝ち点で6点のアヘッド。
結果だけ見れば文句なしの快勝といえる試合だが,不安は募る。横浜,川崎,広島等の上位チームとの対戦を多く残す日程においても安全圏とは言えない上に,何より監督の采配に疑問ばかりが残るからだ。
ここま . . . 本文を読む