「グエムル 漢江の怪物」や「母なる証明」などの秀作によって,現在アジアNO.1の俊英と呼んでも過言ではないポジションを獲得したポン・ジュノの新作「パラサイト 半地下の家族」は,昨年のカンヌで見事に韓国映画として初めてとなるパルム・ドールを獲得した。隣国の日本ではそれから半年以上が経過し北米での記録的なヒットの報を耳にした後,満を持しての堂々たる「正月映画」としての拡大公開となったが,ポン・ジュノというこれまで映画ファンの間でだけ通用したブランド・バリューを遥かに超える話題をまとって,週末動員は第5位という記録的な興行となった。
カンヌにおける受賞は前年の是枝作品「万引き家族」に続くアジア勢の快挙だったが,この2作は格差社会に鋭い視点を向けたという点で共通点を持ちながらも,作品のフレームはかなり異なる。あえて従来型のホームドラマの変形として新しい家族のあり方を問うた是枝作品に比べて,家族の形態は古典的なものとしつつも,サヴァイヴァルするために貧しい一家が生みだした狡知が招いた騒動を,コメディ,スリラー,アクションといった見世物としての映画が取り得る形態を総動員して描いた本作の新鮮な面白さは別格だ。
ポン作品に欠かせない名優ソン・ガンホが物語の中心にいるように見えるが,全体を俯瞰して見るとパラサイト組が二組総勢6名,寄生される側の家族4名,総勢10名による集団劇といっても差し支えはないだろう。
吉本新喜劇の寸劇の連鎖みたいな導入部から始まって,シリアスかつ血みどろの惨劇が用意されているクライマックスまで,文字通り息をもつかせぬ展開は,オリジナル脚本の見事な勝利だ。
その脚本を形にした10名の俳優全員に拍手を送りたいが,特に物語を引っ張るのはパラサイト組の娘を演じたパク・ソダムだ。太々しい態度で見るからに怪しい美術教育理論だけを武器に富裕家族に取り込む姿が,富裕家族の基盤の脆さを炙り出して,物語のイグニッションの役割を果たしている。
そして何より主な舞台となる富裕家族の家と,それとはすべての面で対照的なパラサイト家族の半地下の家の造形が見事だ。「グエムル」を筆頭にポン作品の美術の仕事はどれも素晴らしかったが,本作での美術はサスペンス劇の舞台となる広い居間から,地下に降りていく出口を含む壁面,そして核シェルターを兼ねた地下室,更に便器が最も高い場所にある半地下の家まで,リアリティーと象徴性が高い次元で融合した,まさに「台詞なき登場人物」とも言える存在にまで高められている。
「臭い」を格差社会のメタファーとして活かした脚本と,それを画面に結実させたすべてのスタッフとキャストに敬意を表したくなるポン・ジュノの(これまでのところの)最高傑作であることは間違いない。
★★★★★
(★★★★★が最高)
カンヌにおける受賞は前年の是枝作品「万引き家族」に続くアジア勢の快挙だったが,この2作は格差社会に鋭い視点を向けたという点で共通点を持ちながらも,作品のフレームはかなり異なる。あえて従来型のホームドラマの変形として新しい家族のあり方を問うた是枝作品に比べて,家族の形態は古典的なものとしつつも,サヴァイヴァルするために貧しい一家が生みだした狡知が招いた騒動を,コメディ,スリラー,アクションといった見世物としての映画が取り得る形態を総動員して描いた本作の新鮮な面白さは別格だ。
ポン作品に欠かせない名優ソン・ガンホが物語の中心にいるように見えるが,全体を俯瞰して見るとパラサイト組が二組総勢6名,寄生される側の家族4名,総勢10名による集団劇といっても差し支えはないだろう。
吉本新喜劇の寸劇の連鎖みたいな導入部から始まって,シリアスかつ血みどろの惨劇が用意されているクライマックスまで,文字通り息をもつかせぬ展開は,オリジナル脚本の見事な勝利だ。
その脚本を形にした10名の俳優全員に拍手を送りたいが,特に物語を引っ張るのはパラサイト組の娘を演じたパク・ソダムだ。太々しい態度で見るからに怪しい美術教育理論だけを武器に富裕家族に取り込む姿が,富裕家族の基盤の脆さを炙り出して,物語のイグニッションの役割を果たしている。
そして何より主な舞台となる富裕家族の家と,それとはすべての面で対照的なパラサイト家族の半地下の家の造形が見事だ。「グエムル」を筆頭にポン作品の美術の仕事はどれも素晴らしかったが,本作での美術はサスペンス劇の舞台となる広い居間から,地下に降りていく出口を含む壁面,そして核シェルターを兼ねた地下室,更に便器が最も高い場所にある半地下の家まで,リアリティーと象徴性が高い次元で融合した,まさに「台詞なき登場人物」とも言える存在にまで高められている。
「臭い」を格差社会のメタファーとして活かした脚本と,それを画面に結実させたすべてのスタッフとキャストに敬意を表したくなるポン・ジュノの(これまでのところの)最高傑作であることは間違いない。
★★★★★
(★★★★★が最高)