子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「花芯」:この時代に一般映画に「裸」で切り込む覚悟

2016年08月20日 23時19分58秒 | 映画(新作レヴュー)
市川由衣が「海を感じる時」で脱ぐと聞いた時,真っ先に思ったのが「いつの小説だったっけ?」ということだった。原作者の中沢けいは1959年生まれで,確か大学生作家のデビュー作と騒がれた記憶があるから,あれから優に35年は経っているはず。このタイミングで映画化を考え,更に主演に「NANA2」で躓いてから鳴かず飛ばずと言っても良い状態だった市川を据える。企画のタイムリー度合いという尺度で見ると,非常に判定が難しい作品だったことは間違いない。しかし脚本に荒井晴彦を据えた作品は,至極まっとうに淫靡な青春映画になっていた。そのメガホンを取った安藤尋が,今度は村川絵梨という,これまた微妙なポジションにいる美人女優を主演に迎えて瀬戸内寂聴の原作を映画化した。これはもうかつての「日活ロマンポルノ文芸大作」路線の後継者としての名乗りをあげたに等しい。確信犯だ。

本作での村川絵梨は,「文芸大作」路線の主演ということで,残念ながら,かつ当然のことながら,宮下順子級の艶技の域までは到達していない。しかし役柄自体が夫に愛情を抱けず,その上司に恋をする女ということで,やや紋切り型の「女の情念」発散タイプながら,次第に自分の感情に気付いていく過程の陰影はよく出ていて,何より非常に美しい。「脱ぐ」という決断が,役者としての引き出しを増やす結果につながったことは間違いないだろう。

だが,相手となる男二人(林遣都と安藤政信)に求められた,「女に組み敷かれる情けない男」という日活ロマンポルノでは定番と言っても過言ではなかったキャラクターの造形が不充分だ。そこに同じようなタイプのクールな相貌を二つ並べてしまっては,村川が迷い込む迷路の険しさが立体化されるはずもない。いっそのこと安藤政信の役に,どう見てもこれなら夫(林遣都)を選ぶのが妥当でしょう,と思わせるような役者を当てはめた方が,メロドラマとしてのエネルギーは高まったはず。

だが,この作品に村川の妹と林との絡みを入れた上で,画学生とのエピソードを中心に15分刈り込んだとしたら,文字通り「日活ロマンポルノ文芸大作」になる。
今年の秋に本格復活するらしい本家のラインナップに,是非安藤監督を!
★★★
(★★★★★が最高)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。