既に次の公開作である「ヒミズ」と,ここまで大切に育ててきた女優神楽坂恵との婚約に話題が集中している感のある園子温だが,完成後じっくりとお披露目の時を待っていた「恋の罪」が遂に公開された。公開後1週間を経た場内には,でんでんの怪演が光った前作の「冷たい熱帯魚」の時にはあまり見かけなかった女性客の姿が,ずいぶんと目に付いた。徹底的なシゴキで女優を開眼させてきたと言われる園子温が,新たなターゲットに選んだ水野美紀の体当たり演技に関する話題が,各方面で露出していることの影響はかなり大きいようだ。近年めっきりと少なくなったR-18指定作品でも,しっかりとした作品を作れば客は呼べる,という見本になって欲しいと願いながら観始めたまでは良かったのだが…。
渋谷円山町で起きた東京電力OL殺人事件にインスパイアされた,園ワールド全開の愛欲犯罪ドラマの体裁は整っていた。禁欲的なのに歪な性癖が明らかな作家(津田寛治)の貞淑な妻(神楽坂)が,AVにスカウトされたことをきっかけに,次第に弾けていく第1章の展開は極めて通俗的だが,逆にそのありきたりぶりは,これから展開されるであろう「振り切れた女たち」が惹起する事件のイントロに相応しい,静かな不気味さを湛えているように見えた。特に水野美紀がいきなり全開で走り出す冒頭から,「冷たい熱帯魚」の死体処理現場を想起させる殺人事件現場の描写まで,画面の各所から滲み出す「過剰さ」は,期待通りの熱を帯びているように感じられた。
ただ1点,殺人現場に残された「城」という楷書体の落書きを除いては。
だが大学教員の冨樫真が出てきて田村隆一の詩がフィーチャーされる辺りから,ヒロインたちが「堕ちていく」姿が,どんどんと観念的になっていく。いきなり「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」と言われても,冒頭の「城」がどうやらカフカの「城」らしいと示唆されても,言葉では表現しきれないものを映像として提示する「映画」を,その根城たる「城」に見にやって来た観客は,そこで立ちすくみ,やがて欲望の迷宮たる円山町から放り出されることになってしまうのだ。
人間の猟奇的な暗黒面を描く際に欠かせない「怖くて,笑わずにはいられない」シークエンスが,冨樫の母親(大方斐紗子)を交えたお茶の場面以外ほとんどないことが,この意欲作の陥った落とし穴の象徴かもしれない。
実の娘を通じて死んだ夫を憎み抜く大方の,凄みと恐ろしさとユーモアが混在した実にユニークなキャラクターが,ほとんど物語に参加できないまま幕引きだけを担わされる水野を圧倒してしまうのは,何とも皮肉だ。
★★
(★★★★★が最高)
渋谷円山町で起きた東京電力OL殺人事件にインスパイアされた,園ワールド全開の愛欲犯罪ドラマの体裁は整っていた。禁欲的なのに歪な性癖が明らかな作家(津田寛治)の貞淑な妻(神楽坂)が,AVにスカウトされたことをきっかけに,次第に弾けていく第1章の展開は極めて通俗的だが,逆にそのありきたりぶりは,これから展開されるであろう「振り切れた女たち」が惹起する事件のイントロに相応しい,静かな不気味さを湛えているように見えた。特に水野美紀がいきなり全開で走り出す冒頭から,「冷たい熱帯魚」の死体処理現場を想起させる殺人事件現場の描写まで,画面の各所から滲み出す「過剰さ」は,期待通りの熱を帯びているように感じられた。
ただ1点,殺人現場に残された「城」という楷書体の落書きを除いては。
だが大学教員の冨樫真が出てきて田村隆一の詩がフィーチャーされる辺りから,ヒロインたちが「堕ちていく」姿が,どんどんと観念的になっていく。いきなり「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」と言われても,冒頭の「城」がどうやらカフカの「城」らしいと示唆されても,言葉では表現しきれないものを映像として提示する「映画」を,その根城たる「城」に見にやって来た観客は,そこで立ちすくみ,やがて欲望の迷宮たる円山町から放り出されることになってしまうのだ。
人間の猟奇的な暗黒面を描く際に欠かせない「怖くて,笑わずにはいられない」シークエンスが,冨樫の母親(大方斐紗子)を交えたお茶の場面以外ほとんどないことが,この意欲作の陥った落とし穴の象徴かもしれない。
実の娘を通じて死んだ夫を憎み抜く大方の,凄みと恐ろしさとユーモアが混在した実にユニークなキャラクターが,ほとんど物語に参加できないまま幕引きだけを担わされる水野を圧倒してしまうのは,何とも皮肉だ。
★★
(★★★★★が最高)