子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ルーム ROOM」:『トゥルーマン・ショー』その後

2016年05月08日 12時16分47秒 | 映画(新作レヴュー)
「FRANKーフランクー」で,外界と接触する際に巨大な被り物を必要とする青年の孤独を描いたレニー・アブラハムソンが次に取り組んだのは,外界の存在そのものを知らない子供と彼を愛する若い母親の姿だった。
「ルーム ROOM」が提示する,一目で測ることの出来ない,世界が持つ広い振幅を前におののく親子が,やがて手を携えて世界に立ち向かっていく姿は,「ベビーカー論争」や「幼稚園建設反対運動」に象徴されるような,偏狭な声に身を竦めざるをえない日本の親子の背中を押してくれる,希望とエネルギーに満ちている。

映画は背景の説明抜きに,若い母親と5歳になる男の子が監禁されているらしい狭い部屋の中の日常生活を描くところから始まる。子供に言葉を教え,限られたスペースを最大限に活用して身体を動かすことを教え込む母親(ブリー・ラーソン)はとても若く,限られた食材で料理を工夫する技にも長けているように見えるが,この歳になるまで子供に母乳を与え続ける姿は,観客に強い違和感を与える。
やがて,母親は17歳の時に男に拉致され,暴力によって身体を奪われ,男の子ジャックはその男との間に産まれた子供であることが判明する。母親は子供の成長を見て,監禁から7年を経て初めて,危険を冒してでも子供をこの部屋から脱出させることを決意する。

このスリリングな脱出劇までの展開は,ラーソンが同作に出演していたローラ・リニーに面影が重なるところがあることを別にしても,ジム・キャリーとピーター・ウィアーが組んだ佳作「トゥルーマン・ショー」を想起させる。(その大きさは大分異なるけれども)限られた空間で生きてきた人間が,遂に「リアル・ワールド」のチケットを手にして真の人生を歩み始める,という筋書きにおいて。
しかし「ルーム」における本当の物語は,ここから始まる。
雑菌が空中を浮遊し,TVのワイドショーのキャスターは同情を装いながら母親を責め,実の父親までが被害者である娘の出産を認められない中,ついに母親は監禁されていた時以上の絶望の淵に追いやられる。
そんな時に聡明なジャックが愛する母親へ向けて送ったメッセージとプレゼントには,暴力や運命には決して屈しない,という人間の強い意志と尊厳が凝縮されている。

ジャックが汚れた天窓のガラスを通さずに,トラックの荷台から初めて見上げた空の途方もない拡がりから受けた感銘を推進力に繰り広げられる118分間の物語。ラーソンのオスカー戴冠は,ジャックの髪が持つパワーのお陰だけではない。
★★★★
(★★★★★が最高)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。