子供はかまってくれない

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映画「グリーン・ゾーン」:モグラ叩きに必要とされる反射神経が試される

2010年05月30日 18時44分28秒 | 映画(新作レヴュー)
「ジェイソン・ボーン」シリーズの第2作「ボーン・スプレマシー」のアクション・シーンで見せた,超高速ショットつなぎによって一気にブレイクし,その技術を活かして9.11が与えた衝撃を「ユナイテッド93」でスクリーンに再構築して見せたポール・グリーングラス。そんな彼が,マット・(ジェイソン・ボーン)デイモンと三たび組んだこの新作で狙ったのは,虚実の境界を曖昧にすることによって,もはや「歴史」になりつつある真実の重みを確認することだったようだ。

アカデミー賞を攫った「ハート・ロッカー」に続く,イラク戦争を扱った「戦争映画」だが,「ハート・ロッカー」との最も大きな違いは,前者の監督がアメリカ人のキャサリン・ビグローだったことに比べ,本作の監督であるグリーングラスがアイルランド人であることだろう。グリーングラスの足跡を追いかけてきた観客はこの作品を観て,彼がベルリン映画祭で監督賞を受賞した「ブラディ・サンデー」が,北アイルランドの自治を巡って引き起こされたイギリス軍の銃撃事件を扱ったことを思い出したはずだ。
相手国を正しい道に導くとうそぶく大国の高圧的な姿勢と,牛耳られた自分たちの国を自らの力で自立させたいと願う庶民の対決。展開に異なる部分はあるが,作品の底に隠れている基本的な構図は鏡像のようだ。

目にも留まらないスピードで積み重ねられる大量のショットを,巧妙につなぐ技術はより研ぎ澄まされ,観客の瞳孔を超えて直接皮膚を穿つ。ライトの少ない暗い夜に繰り広げられるクライマックスの4者が絡んだ追跡シーンは,誰が誰を狙い,どういう位置関係になっているのかが殆ど分からないにも拘わらず,紡ぎ上げられる緊張感は鋭く重い。

ただ「イラク政府に大量破壊兵器はなかった」という周知の事実を,主人公の活躍を軸にミステリー仕立てで暴いていく本作は,同じく事件の結末が分かっていながら,想像で描いた機中と,事実を再現したと思われる管制塔の描写が鬼気迫る迫力を獲得していた「ユナイテッド93」に比べると,作品の訴求力はやや弱い。
イラクの抵抗勢力同士の確執が少しだけ話のひだを形成してはいるが,アメリカ軍上層部の描写が弱く,主人公は絶対死なないはずだ,という暗黙の約束が思いのほか物語を支配してしまっているために,単純な勧善懲悪に陥っている部分が生まれてしまった。
作品のクオリティは決して低くはないが,グリーングラスに求めるものはもっと大きく高いファンである私は,少しだけ落胆。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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