子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ピザボーイ 史上最凶のご注文」:誰も死なない,みんな真剣,というコメディの鉄則を遵守した佳作

2012年01月21日 11時22分27秒 | 映画(新作レヴュー)
主人公(ジェシー・アイゼンバーグ)が電話で注文を受けてから30分以内にピザを届けるため(原題は「30:minutes or less」),交通法規を無視して車を飛ばす巻頭のシーンは,明らかにルーベン・フライシャーの前作「ゾンビランド」のイントロを想起させる。
このリズムに乗れなかった人は,おそらくは「ゾンビランド」の時と同様に,「この上なく,くだらない」という評価を下す可能性が高いだろう。
一方で,冒頭で主人公とその相棒(アジズ・アンサリ)が繰り広げる,小学校2年生並みの口喧嘩と取っ組み合いに,タランティーノ作品にも通じるお遊び精神を感じ取った人は,緩い緊張感と馬鹿馬鹿しい笑いに満ちた82分を楽しめるはずだ。

身内をターゲットにして金儲けを企む悪人が物語の鍵を握る,という点では,コーエン兄弟の傑作「ファーゴ」に実に良く似ている。悪人同士が仲違いし,結局犯罪は成功しない,という展開もまた,似ていると言えなくもない。
だが,妊娠中の警察署長であるフランセス・マクドーマンドが颯爽と物語に決着を付けた本家と違い,こちらは登場人物が全員アホという点が,決定的に異なる。
父親を殺そうと企む犯人はもとより,そのターゲットとなる主人公二人も,殺し屋も,みんなあまりにも隙だらけのため,物語が転がっていく先を推理すること自体が馬鹿らしくなる脚本は勿論だが,それぞれが意図せずに犯罪とその阻止の両方が失敗する方向へ動いてしまう様を,俯瞰ではなく,地べた目線で捉えた演出が冴えている。

ジェシー・アイゼンバーグは,トレードマークとなった超高速台詞回しが「ソーシャル・ネットワーク」の時とはまたひと味違う,下町あんちゃん的下世話さを醸し出していて実に巧い。こんなに地味な容貌ではあるが,ひょっとすると,トム・ハンクスやリチャード・ドレイファスらが長年かかって築いたポジションに,一気に到達するかもしれないと思わせる。
そんな彼とコンビを組むアジズ・アンサリをスクリーンで観るのは初めてだったが,近年ハリウッド進出が著しいインド系俳優の中にあって,コメディ・センスは抜群だった。例えるなら,ジム・ジャームッシュの「ダウン・バイ・ロー」で,ロベルト・ベニーニを初めて観た時の新鮮さに似ている。彼もまた大化けする可能性は大だろう。

劇中幾つか言及されるアクション映画の選択も含めて,もう少し思い切ってマニアックに舵を切っても良かったのではないかという未練が多少は残るが,このフットワークの軽さは貴重だ。世評は「ゾンビランド」の時とは打って変わって酷評ばかりのようだが,横転した車の中に逆さまで座ってカメラ目線で滑ってくる二人の姿が,「ブルース・ブラザース」のベルーシ&エイクロイドを想起させた瞬間を含めて,断固として支持したい。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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