子供はかまってくれない

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映画「女神の見えざる手」:トイレで手を洗わない女の逆転劇

2017年11月05日 18時30分08秒 | 映画(新作レヴュー)
日本にもいるのかどうかは知らないが,アメリカの議会においては常に法案成立を左右する存在といわれるロビイスト。そんな危うくも,やり甲斐MAXの職業を,地味なのか派手なのか,美人なのかそうでないのか良く分からないが,出演作にほとんど駄作がない(「ツリー・オブ・ライフ」だけは微妙…)という一点にかけては右に出るものなしのジェシカ・チャスティンが演じるとこうなるだろう,という意味では期待通り。
ただキャリア志向の女性にとっては,最高のテキストでもあると同時に,主人公のエリザベスが常にトイレで隠れて飲む錠剤レヴェルの劇薬となる可能性も高い作品だ。

法案成立のための議員工作をビジネスとして割り切る一方で,一人の働く女性としての信念も併せ持つヒロインのエリザベス・スローンをチャンスティンは,強靱な意志力を持ちつつクールかつエレガントに闘う女として,見事に立体化してみせる。目的完遂までのプロセスを描き,そのための策略をめぐらし,着々と王手に近付きながら,思わぬアクシデントに躓く。何処かで聞いた台詞ではないが「すべては想定内」というポーズを見せながら,常にコースアウトと隣り合わせの最短コースをフルスロットルで走り抜ける彼女が発する危険なフェロモンは,社会的な成功を求める女性にとっての危険な媚薬と言えるだろう。

監督は「恋におちたシェイクスピア」で大きな成功を収めた後は,どちらかというと手堅くセンター返しを狙う作品が続いたという印象のあるジョン・マッデン。薬とエスコートサービスに依存しながら自らの目的に向かって突き進む危険なヒロインを描く筆致は,珍しくエッジが効いている。ラストの逆転劇において,観客がゴキブリに向かって「頑張れ!もう少しだ!行け!」と声援を送るように仕向けた演出は,一流のロビイスト並みとさえ言えよう。
脇を固める俳優陣もそれぞれ充実した演技を見せるが,いつまでたっても学生顔のアリソン・ピールがぴったりの役柄で輝くかと思えば,ラストのどんでん返しの爽快感も敵役の重量感あってこそと思わせるジョン・リスゴーの座りの良さもさすがの一言。「フィクサー」でオスカーを戴冠したティルダ・スウィントンの演技も素晴らしかったが,それに勝るとも劣らない本作のチャスティンの演技を支えた見事なアンサンブルにも拍手を送りたい。
快進撃が続くチャスティン,もはや敵はケイト・ブランシェットくらいかも,と思わせるスマッシュヒットだ。
★★★★
(★★★★★が最高)


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