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映画「探偵はBARにいる」:「相棒」シリーズのスタッフが作ったご当地ムービーの出来は如何に?

2011年09月17日 23時16分59秒 | 映画(新作レヴュー)
2年前の秋,「マルティン・ベック」シリーズと呼ばれるスウェーデンの傑作警察小説と同名の「笑う警官」という日本映画が公開された。北海道警察内部の腐敗を抉った佐々木譲の原作を,角川春樹のメガホンで映画化した作品だったが,仮に原作の改悪,演出と編集の不在,ベタな音楽にミス・キャストといった数え切れないほどのネガティブな要素に目を瞑ったとしても,舞台となっている札幌の風景がどこにも出て来ないという驚愕の事実によって,アゴを外された道民は多かったはずだ。
映画の内容以前の制作姿勢に関する問題を映画評で取り上げるのはどうかとも思うのだが,今大泉洋の主演で話題になっている「探偵はBARにいる」は,少なくともその点でのぬかりはない。歓楽街「すすきの」を中心に選ばれたロケ・スポットは,札幌市民が場所当てだけを目的に劇場へ足を運んだとしても,それなりに楽しめる出来映えになっていると言えるだろう。

札幌在住のミステリー作家東直巳の原作は未読だが,「探偵」というレトロな響きを持つ職業を,携帯電話を持たない主人公と,謎の大学在籍研究者のコンビで描くという試みも,かなりの程度で成功している。二人の掛け合いは決してテンポ良く進むわけではないのに,いつも眠たそうにしている松田龍平扮する,ひょっとすると現実にこんな助教もいるかもしれないと思わせるような雰囲気を持つ相棒が,コメディ・リリーフとして機能しているという印象だ。その分,突如としてハード・ボイルドの要素を強めるドラマのクライマックスに違和感が生じてしまうのだが,コンビとしてのチームワーク自体は決して悪くない。

本作はそんな主人公コンビが八面六臂の活躍をする活劇なのだが,果たしてミステリーとしての出来はどうかといえば,残念ながら「相当に酷い出来」と言わざるを得ない。
巨悪対非力な主人公,というプロット自体を批判するつもりはないが,とにかくテンポが悪すぎる。TV界のスタッフが作った本編だからという言い訳は,「ソーシャル・ネットワーク」のアーロン・ソーキンが脚本を書いている「ザ・ホワイト・ハウス」や,同作にも関わっているジョン・ウェルズ制作の「ER」を既に見てしまっている日本の観客には,もはや通用しない。両作ならば,おそらく前半の15分くらいで描いてしまうようなプロットを,薄く延ばしに延ばして,2時間5分という長い尺を費やして描くというのは,観客をなめていると取られても致し方ないだろう。

脇役では田口トモロヲと松重豊の二人が持ち味を発揮して,多少なりとも画面に奥行きを与えているが,西田敏行に関する書き込みと描写はお粗末の一言。「鈴木先生」の脚本家と同一人物とは思えない仕事をしてしまった古沢良太の責任は重い。
制作サイドはシリーズ化を狙っているらしいが,残念ながら行く手は,松田龍平が駆る愛車のエンジンの具合よりも覚束ない。札幌市民としても,何とも「あずましくない」思いだ。
★★
(★★★★★が最高)


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