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映画「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」:変身しないマーク・ラファロの底力

2021年12月26日 10時31分54秒 | 映画(新作レヴュー)
世間的にはMARVELの当たり役「ハルク」が何よりの名刺となってきたマーク・ラファロだが,「フォックスキャッチャー」や「スポットライト 世紀のスクープ」など,実際に起こった事件に題材を得た社会派の作品によって,演技巧者としての評価を高めてきたという印象が強い。同様に実際の事件を映画化した「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」で彼が演じる弁護士ロブを「正義派一直線」文科省推薦の単純な2次元的ヒーローに留めなかった功績は,ラファロの懐の深さに拠るところが大きい。

世界中で料理をする人々に愛された「テフロン加工」が,製造過程で謎の物質「PFOA」を廃棄し,その影響で工場の従業員や工場の周辺に住む人,家畜などに甚大な影響を与えていたことをひとりの弁護士が突き止め,デュポン社という大企業に対して集団訴訟を提起し,勝利するまでを描いた物語。こう書いてしまうと,これまでも数多作られてきた実録告発ものの1本で,特に目新しさは感じられないかもしれない。実際,本作も物語自体は単線直行便的なフレーム通りに進み,派手なツイストは用意されておらず,地味な印象は免れない。

けれども126分という尺のどこにも弛みや緩みはなく,劇的な展開はないにも拘わらず,観客は最後まで画面から目を離すことができない。その最大の要因はやはりプロデューサーも兼ねたラファロが発する熱量だろう。出世の階段を順調に上り詰めていく途中で出会った案件が,ひょっとすると躓きの元となるかもしれないリスクを内包していることを知りつつ,良心に従って現実に正対していく男の内心を描き出す卓越した演技は,何故本国の公開から2年もの間お蔵入りしていたのか,疑問に思うほど見事だ。
脇を固めるアン・ハサウェイとティム・ロビンスが,どちらも理想と現実の間で揺れ動くキャラクターを立体的に作り上げたことも大きい。そんな演技陣を輝かせるためには「エデンより彼方に」や「キャロル」で見せた鮮やかな色遣いを抑えて,モノトーンの色調と端正な構図が最適と考え,堅実な画面作りに徹したトッド・ヘインズの眼力も確かなものだった。

ラファロが「フォックスキャッチャー」で演じたレスリング・コーチが雇われていたのがこの「デュポン社」だったという奇縁が,感慨をより深くする。山本薩夫が生きていたら喝采を送ったに間違いない。年末の大きな収穫だ。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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