子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「転々」:小ネタが連々,微かな痛みが綿々と

2007年12月01日 20時59分09秒 | 映画(新作レヴュー)
連続して試みられたスクリーンへの挑戦も,健闘空しく結局は週末深夜枠に戻っていくのかと思えた三木聡監督,起死回生の一撃は「感動」という意外な副産物を生み出して,おそらくは私を含む「時効警察」ファン全てを驚かせることに成功した。

東京の西から真ん中へ。ロードムーヴィーと呼ぶには,余りにもちんまりとしたスケールが,思いのほか小ネタが誘う微苦笑と良い相性を見せて,見事な物語を形作っている。
三木聡のトレードマークとも言えるその小ネタだが,これまではどんなに連発されようとも,あくまでもスタンド・アローンのネタの連続,という扱いだった。それが本作では,各々が物語と微妙な繋がりを持つことで,話が進行するに連れて主人公二人を取り巻く空間の温度と湿度が変わっていくのを,的確にアシストする役割を担っている。勿論,殆どがオチのないネタなので,劇的な効果とはほど遠く,岩松了の頭が「崖の臭い」を発する,というネタに代表されるように,だからどうした程度の役割なのだが,それが映像のリズムや役者の「ぼちぼち」的熱演度に寄り添って実に心地よい。

役者陣では,その岩松に,ふせえり,松重豊,更に主演のオダギリジョーといった三木組の常連に対して,犯罪を起こしてしまった借金取りの,何故かアットホームな一匹狼風情を,脱力と天然と技術の中間辺りで巧みに演じきった三浦友和が光る。勿論,ワンカットだけ出演する三日月君も。

広田レオナのゴミ屋敷やジミヘンもどきの爆音野郎,更に鷲尾真知子の食堂で出てくる奇妙な食べ物など,妙に後を引くエピソードと東京ローカルの風景の懐かしさに,ムーンライダースの曲はピタリと合う。やはり「フィルムと劇場」という出口を模索していた三木聡の狙いは間違ってはいなかったのだ。
ただ「家族の再生」や「痛み」などという,想定外のアウトカムを通過した後のハードルが,一段階上がることも間違いない。次が勝負だ。


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