子供はかまってくれない

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映画「牝猫たち」:リブートとは言え,観たかったのはこっちでした

2017年02月05日 11時54分56秒 | 映画(新作レヴュー)
日活が唯一制作した怪獣映画「大怪獣ガッパ」の主役であるガッパのソフビがあるとは驚いた。
終盤,デリヘルで働く母親に,個人で託児業をしている若者に預けられた子供が見上げた空に,若者からもらったガッパのソフトビニール人形のリアルな怪獣を観るシーンがある。
更に主役の女性3人が,そのうちのひとりの客となったお笑い芸人が出演する舞台を観に行った際に,ステージにMCとして白川和子が登場する。言うまでもなく日活ロマンポルノの記念すべき第1作「団地妻 昼下がりの情事」の主演女優だ。

リブートシリーズ第3作目である「牝猫たち」は,監督の白石和彌が田中登の「牝猫たちの夜」(1972)にオマージュを捧げた作品,とフライヤーに書かれている。同作に出演していた吉澤健が重要な役で登場していることに加え,上記のような日活の歴史を作ってきた先達に深く敬意を表するアティテュードが,「牝猫たち」の全編を貫いていることは確かだ。
これまでの2作が「リブート」=再起動するからには,21世紀を生きる女性の姿を今の視点から捉え直したいという思いと裏腹に,視点が男性側に偏っていたという印象を受けたのに比べると,本作はオリジナルシリーズにあった「所詮,男と女はあれしかないわな」という神代辰巳作品に代表される空気感を尊重し,その延長上で今の女性を活写してみる,という姿勢が明らかな点で,昭和の観客にとっては親和性が高い。

3人の女性はいずれも,流れ流れて風俗業界に入ってきたという出自を持ちながら,心の奥深くに男性を拒否する聖域を感じさせるような役どころを,清潔感を失わずに演じていて好感が持てる。
時にネットカフェ難民,幼児虐待等々の要素が前面に出過ぎることによって,現代社会の闇を抉るルポルタージュ的な側面が強調される点,更には絡みのシーンに扇情的なムードが欠如している点は多少残念ではあったが,それとても作品全体の価値を損なうことはなかった。

オリジナルシリーズではよく見かけたキャラクターである,小賢しいデリヘルの経営者役を嬉々として演じた音尾琢真の怪演,ネットの炎上動画や引きこもりといった現代的な要素のちりばめ方も含めて,これこそが本当の「リブート」と讃えたい。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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