睡眠は、人生の3分の1を占めています。
そして、脳の働きにとって、とても重要な役割を果たしています。
もちろん、認知症との関連も重要です。今回は、睡眠と認知症の関係についてお話します。

☆記憶学習のためには、適切な「長さ」と「深さ」の睡眠が大切
睡眠には、日中に経験したこと、学んだことを、
情報として保存し、整理する役割があると言われています。
子どもの頃、睡眠時間がとても長いのは、
発達が盛んで、覚えることがたくさんあるので、
特に深い睡眠を適切な長さで取ることが必要だからです。
一方、老化に伴って、
睡眠時間は短くなり、深い睡眠を取りづらくなるので、
記憶学習にも影響があると言われています。
成人の睡眠時間は、個人差はありますが、
翌日の頭の働きが良好で、日中に眠気を感じない程度の睡眠時間が適切でしょう。
高齢者では、成人期に比べて、1時間少ない程度が適切と言われています。
睡眠時間が短くなる、つまり睡眠負債がたまってくると、
生活習慣病や脳卒中、がんなどのリスクだけでなく、
認知症のリスクも高くなります。
アメリカがん協会の大規模調査では、
睡眠時間が、4・5時間未満の人は、
7時間睡眠の人と比べて、15%以上死亡リスクが高かったと言います。
また、別の研究では、
睡眠時間が6時間以下の人は、認知症発症の有意なリスクであったとも言われています。
つまり、睡眠時間が極端に短いと、
(認知症になる前に)死亡してしまうリスクが高く、
睡眠時間が5~6時間の睡眠負債のある人は、認知症のリスクを抱えていると考えられます。
☆睡眠は「毎日の脳の掃除」と考え、睡眠障害を放置しない
脳には、「グリンパティックシステム」と呼ばれる仕組みがあり、
深い睡眠中に、脳の老廃物の除去を行っています。
アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドの除去も行われています。
人生100年間脳を使うと考えると、
毎日良好な深い睡眠によって、脳の中を掃除しないと、
老廃物だらけになってしまう、とイメージしてみてください。
睡眠障害は、認知症のリスクであるとも言われていますので、
眠れないことを放置するのはよくありません。
睡眠量を補う意味での昼寝については、
60分以内の人は認知症の発症の頻度が低かった、という報告もあります。
一方、睡眠時間が長すぎても、
脳出血のリスクや、筋力低下のリスクが上がってしまうと言われています。

☆睡眠中に大声を出したり歩いたりする「レム睡眠行動障害」
アルツハイマー型認知症の前段階である軽度認知機能障害(MCI)の人は、
睡眠の質が低下しますが、
自覚的に「よく眠れている」と答えることが多いと言われています。
睡眠の質の低下を自覚しにくくなるので、注意が必要です。
アルツハイマー型認知症の人では、睡眠が短く、浅くなります。
すると、不眠、断眠や昼寝の増加など、睡眠覚醒リズムの変化につながります。
結果、横になっている時間が増えて、体力が落ちたり、
昼夜が逆転して夜間に出掛けてしまったりと、問題行動につながることがあります。
睡眠は、夜だけの問題ではないと考えて、日中の活動を規則正しく行うことで、
生活のリズムを保つことが大切です。
レビー小体型認知症の人では、
「レム睡眠行動障害」(RBD)という症状が出てくることがあります。
レム睡眠中は、夢を見ていると言われていますが、
夢の内容にそって体が動いて歩きまわったり、大声を出したりするのが、
「レム睡眠行動障害」(RBD)です。
夜間に問題行動があると、ケガの恐れもあり、介護者の負担も大きくなります。
「レム睡眠行動障害」(RBD)は、レビー小体型認知症の大事な症状なので、
この症状が出ているようであれば、専門医の受診をお勧めします。
20代くらいから「レム睡眠行動障害」(RBD)の症状がある人もいますが、
すぐ認知症になるわけではないので、安心してください。

☆まとめ
(1)記憶学習にとって、睡眠はとても大事である
(2)適切な睡眠時間が、認知症リスクを下げる
(3)睡眠には脳の老廃物を除去する働きがある
(4)アルツハイマー型認知症では、日中の活動で生活リズムが乱れないようにする
(5)レム睡眠行動障害は、レビー小体型認知症の重要な症状の一つである
千葉悠平
精神科医 医学博士 精神保健指定医 日本精神神経学会専門医 指導医 日本認知症学会専門医 指導医
積愛会横浜舞岡病院 医師 YUAD 代表 認知症の早期診断、画像診断、バイオマーカーなど、
認知症について総合的に臨床・研究を行っている。・・ 》