骨は人の老いと深く関わっています(写真:buritora/PIXTA)
骨は、人の老いと深く関わるもの――。
東京大学医学部老年病学教室の元教授で、90歳を迎えた今も
現役医師として働く折茂肇医師は、そう語ります。
骨が高血圧や動脈硬化など、さまざまな病気にも影響するといいますが、
それはなぜでしょうか。
折茂医師の新著『90歳現役医師が実践する ほったらかし快老術』より
一部抜粋・編集してお届けします。
■人は骨とともに老いる
私はこれまで、老年医学、とくに骨の研究に、長年身を捧げてきた。
その中で、「人間の体の老い」に興味を持ち、自らのライフワークを支える考えと出会った。
それが「人は、骨とともに老いる」ということである。
イギリスの著名な医学博士、ウイリアム・オスラー先生が残した
「人は、血管とともに老いる」という名言があるが、
私はそれになぞらえ、あえて「骨」とした。
血管と同様、いや、それ以上に、骨は人の老いと深く関わるものと考えたからだ。
我々の体内では、新陳代謝によって、古い骨が壊され、
新たな骨が、作られるという営みが常に繰り返されている。
日々新たに作り替えられることで、骨は強さを保っているのだ。
骨は、カルシウムを蓄えつつ、人の臓器を守り、健康な体とその活動を支えている。
人が成長するのに伴い、骨は長く、太く、丈夫になり、成人になったとき、最も成熟する。
「骨を構成するカルシウムなどが、骨にどのぐらい詰まっているか」を表す「骨密度」は、
20歳ごろに最も高くなる。
しかし、50歳を過ぎるころから、新陳代謝のバランスが崩れ、骨密度が低下していく。
骨密度が低下することで、骨がもろくなり、骨折しやすくなる病気が「骨粗鬆症」だ。
骨折しやすい場所は、年齢により異なるが、
一般的に手首(橈骨〈とうこつ〉)や背中(脊椎)、足の付け根(大腿骨)などに起こりやすい。
若いころと比べて、骨密度が70%以下になると、骨粗鬆症と診断される。
骨粗鬆症の原因は、加齢による骨の老化、女性ホルモンの欠乏、運動不足、カルシウム不足など、さまざまだ。
女性ホルモンと関わりが深いため、閉経後の女性に多くみられるが、男性にも起こる。
男性はとくに、80歳を超えてから、骨粗鬆症の症状が現れる人が多いという特徴がある。
■「たかが骨」「たかが骨折」ではない
骨粗鬆症は、古代エジプト時代からあったといわれるほど、
古くからある病気だが、注目されるようになったのは、近年になってからだ。
その理由の一つは、人間の寿命が長くなったことと想像できる。
昔の日本では、骨粗鬆症が問題になるほど、長生きする人は珍しかったのだろう。
骨粗鬆症による骨折が怖いところは、
一度骨折すると、次から次へと別の骨折を引き起こす「ドミノ骨折」が起こることだ。
それによって、歩きにくくなる、背中が大きく曲がって、内臓を圧迫する、寝たきりになるなど、
日常生活に大きな影響をおよぼすようになる。
骨が悪くなることは、骨だけでなく、その周辺の筋肉や関節など、
体を支えたり、動かしたりする運動器全体の健康に直結する。
さらに、骨粗鬆症になると、心筋梗塞や脳梗塞などといった、
心臓や血管の病気のリスクが高まるという報告もある。
「たかが骨。たかが骨折。生命に関わるものではない」などという考えは、大間違い。
骨こそが、健康長寿のカギを握る急所なのだ。
■骨が弱くなると、なぜ血管も衰えてしまうのか
さて、ここから私が主張したい「人は、骨とともに老いる」という考えについてだ。
骨と血管の関係を語る上で欠かせない、重要なキーワードが「カルシウム」だ。
私は骨の研究に際し、カルシウムの代謝について、専門的に研究を続けてきた。
カルシウムの99%は、骨と歯に、蓄積されている。
骨と歯に存在する以外の1%は、血液の中にある。
カルシウムには、骨や歯を作り、丈夫にすることのほかに、
筋肉を収縮させる、心臓の正常な鼓動を保つ、血液を固めて出血を予防する、
イライラを鎮め気持ちを落ち着かせるなど、さまざまな役割がある。
カルシウムの最も重要な働きは、
人間の体に存在する約40兆個もの細胞に、情報を伝達することだ。
血液中のカルシウムは、副甲状腺から分泌されるホルモンの働きによって
常に一定の濃度に保たれていて、体内のさまざまな機能を
正常に維持する役割を果たしているのだ。
例えば、筋肉が正しく収縮したり、心臓が規則正しく拍動したりするためには、
血液中のカルシウムの濃度が、一定に保たれることが必要だ。
血液中のカルシウムが不足すると、細胞に正しく情報が伝わらなくなり、
筋肉が痙攣を起こしたり、脈が乱れたりすることもある。
血液中のカルシウムが足りなくなると、心臓が止まるのを避けるために、
骨からカルシウムが、血液中に溶け出し、不足分を補うシステムができている。
人間の体は、実に理にかなった働きをするものだ。
■カルシウム不足が及ぼす悪影響
血液中のカルシウム不足が慢性化すると、カルシウムの濃度を回復しよう
と副甲状腺ホルモンの分泌が増え、骨から過剰にカルシウムが溶け出すことになる。
そうすると、骨のカルシウムが奪われ、骨粗鬆症になりやすくなる。
一方で、骨から過剰に溶け出したカルシウムは、
心臓や腎臓、肝臓、脳などのあらゆる細胞の中で増加する。
例えば、血管の壁にある平滑筋にカルシウムが過剰に貼りついてしまうと、
血管が収縮して狭くなる。
そこに無理やり血液を通そうと、心臓が強い圧力を加えて、血液を送るため、
高血圧になる。
また、血管にカルシウムが、たくさんたまることで、血管が狭くなり、
心臓や脳に血液を送る血管が、動脈硬化を起こすこともある。
骨粗鬆症が心筋梗塞のリスクを高めるといわれるのは、そういう理由だ。
骨が弱くなるから、血管が老いるということではなく、
骨が弱くなるのも、血管が老いるのも、どちらも「カルシウム不足」が原因で起こる。
つまり、カルシウム不足が、骨にも血管にも、
ひいては全身にも悪い影響をおよぼすということなのだ。
「人は骨とともに老いる」ということをおわかりいただけたであろうか。
骨はカルシウムの貯蔵庫であり、その蓄えが減っていくと、
骨粗鬆症はもとより、溶け出したカルシウムにより高血圧、動脈硬化、糖尿病など
さまざまな病気にかかりやすくなる。
骨の老化が、全身の老化のバロメーターになるといって差し支えないだろう。・・》
注)記事の原文に、あえて改行など多くした。
今回、東京大学医学部老年病学教室の元教授で、90歳を迎えた今も
現役医師として働く折茂肇医師より、
《・・骨こそが「健康長寿のカギを握る急所」の理由・・》、
何かと無知な80歳の私でも、多岐に及び、具体的に解説して下さり、
多々教示されたりした・・。
骨は《・・新たな骨が、作られるという営みが常に繰り返されている。
日々新たに作り替えられることで、骨は強さを保っているのだ。
骨は、カルシウムを蓄えつつ、人の臓器を守り、健康な体とその活動を支えている・・》
こうような基本的なことを私は学んだりした。
そして《・・カルシウムの99%は、骨と歯に、蓄積されている。
骨と歯に存在する以外の1%は、血液の中にある。
カルシウムには、骨や歯を作り、丈夫にすることのほかに、
筋肉を収縮させる、心臓の正常な鼓動を保つ、血液を固めて出血を予防する、
イライラを鎮め気持ちを落ち着かせるなど、さまざまな役割がある。
カルシウムの最も重要な働きは、
人間の体に存在する約40兆個もの細胞に、情報を伝達することだ。
血液中のカルシウムは、副甲状腺から分泌されるホルモンの働きによって
常に一定の濃度に保たれていて、体内のさまざまな機能を
正常に維持する役割を果たしているのだ。 ・・》
こうした人の身体に大切なことを初めて学び、
まさに《・・骨こそが「健康長寿のカギを握る急所」の理由・・》、
恥ずかしながら、80歳になって私は初めて学び、
本日の最大の収穫だ、と微苦笑したりしている。