■ストーリ
元エリート銀行員だった牧村伸郎は、上司へのたった一言で
キャリアを閉ざされ、自ら退社した。今はタクシー運転手。
公認会計士試験を受けるまでの腰掛のつもりだったが、
乗車業務に疲れて帰ってくる毎日では参考書にも埃がたまるばかり。
営業ノルマに追いかけられ、気づけば娘や息子と会話が
成立しなくなっている。ある日、たまたま客を降ろしたのが
学生時代に住んでいたアパートの近くだった。
あの時違う選択をしていたら。
■感想 ☆☆☆*
妄想も空想も得意分野である。
眠る前のひと時は必ず、「あちらの世界」に飛び立つほど。
そんな妄想好きな私でさえ、途中までは主人公の妄想の
迷走ぶりに少々困惑した。なにせ、半分まで読んだ時点で
主人公が積極的、自発的に行っている行動が妄想のみ。
妄想、というよりは「愚痴」に近い。
「オレの人生、もっと違うものだったのでは。」
「他の女性と結婚していたら、未来が変わっていたのでは。」
「こんなところで終わるやつじゃないはずなのに。」
延々と続く自分の現在の境遇への愚痴と慰めに
少々うんざりとしてき始めた頃、少しずつ少しずつ
主人公は変わってくる。
まず、妄想の内容が
「こんなはずじゃなかった。」
「オレは不運だ。オレのどこが間違いだったんだろう。」
という繰言めいたものから、少しずつ
「あのときは、こんな夢を持っていた。」
「あのときは、こんなことを真剣に議論していた。」
という自分の昔の理想の振り返りに変わる。
現在の自分への自己嫌悪と、過去の自分への自信回復。
似ているようだが、少し違う。前者はあくまでも「逃避」。
後者は、「自分自身の振り返り」。主人公は時間をかけて
自らの内面をみつめなおす。
次第に現在の自分の境遇に対する認識も変化を見せ始める。
「人生は運しだい。」「すべて偶然に左右される」
という悟りを開いていた主人公が次第に、
自分なりの努力をし始める。努力の結果が形となって現れると
更に前向きに考えることができるようになる。
劇的に大きな変化が訪れるわけではない。
主人公はリストラされたまま。家族との会話もぎこちないまま。
それなのに感じるこの爽快感はなんだろう。
こみあげてくる笑顔の原因はなんだろう。
とにかく幸せな気持ちになる。
それは主人公が現時点で自分が持っている幸せを
きちんと認識できるようになったからかもしれない。
今、傍にいる人の大切さに気づいていくれたからかもしれない。
自分に自信を持つ、ということは
自分の能力に誇りを持つだけではだめなんだと思う。
それだけでは、イレギュラーなことに襲われたとき
もろくも崩れ去っていく。
本当の自信は、自分の周囲の人たちへの尊敬の念や
愛情の上に成り立っている。
だから、主人公が自信を取り戻したとき、今、傍にいる
家族に対して温かい目を向けられるようになったのだろう。
そして、私はその父親の温かい目が何より嬉しかったのだ。
後ろ向きなのに前向きな気分を味わえる爽快な小説。
元エリート銀行員だった牧村伸郎は、上司へのたった一言で
キャリアを閉ざされ、自ら退社した。今はタクシー運転手。
公認会計士試験を受けるまでの腰掛のつもりだったが、
乗車業務に疲れて帰ってくる毎日では参考書にも埃がたまるばかり。
営業ノルマに追いかけられ、気づけば娘や息子と会話が
成立しなくなっている。ある日、たまたま客を降ろしたのが
学生時代に住んでいたアパートの近くだった。
あの時違う選択をしていたら。
■感想 ☆☆☆*
妄想も空想も得意分野である。
眠る前のひと時は必ず、「あちらの世界」に飛び立つほど。
そんな妄想好きな私でさえ、途中までは主人公の妄想の
迷走ぶりに少々困惑した。なにせ、半分まで読んだ時点で
主人公が積極的、自発的に行っている行動が妄想のみ。
妄想、というよりは「愚痴」に近い。
「オレの人生、もっと違うものだったのでは。」
「他の女性と結婚していたら、未来が変わっていたのでは。」
「こんなところで終わるやつじゃないはずなのに。」
延々と続く自分の現在の境遇への愚痴と慰めに
少々うんざりとしてき始めた頃、少しずつ少しずつ
主人公は変わってくる。
まず、妄想の内容が
「こんなはずじゃなかった。」
「オレは不運だ。オレのどこが間違いだったんだろう。」
という繰言めいたものから、少しずつ
「あのときは、こんな夢を持っていた。」
「あのときは、こんなことを真剣に議論していた。」
という自分の昔の理想の振り返りに変わる。
現在の自分への自己嫌悪と、過去の自分への自信回復。
似ているようだが、少し違う。前者はあくまでも「逃避」。
後者は、「自分自身の振り返り」。主人公は時間をかけて
自らの内面をみつめなおす。
次第に現在の自分の境遇に対する認識も変化を見せ始める。
「人生は運しだい。」「すべて偶然に左右される」
という悟りを開いていた主人公が次第に、
自分なりの努力をし始める。努力の結果が形となって現れると
更に前向きに考えることができるようになる。
劇的に大きな変化が訪れるわけではない。
主人公はリストラされたまま。家族との会話もぎこちないまま。
それなのに感じるこの爽快感はなんだろう。
こみあげてくる笑顔の原因はなんだろう。
とにかく幸せな気持ちになる。
それは主人公が現時点で自分が持っている幸せを
きちんと認識できるようになったからかもしれない。
今、傍にいる人の大切さに気づいていくれたからかもしれない。
自分に自信を持つ、ということは
自分の能力に誇りを持つだけではだめなんだと思う。
それだけでは、イレギュラーなことに襲われたとき
もろくも崩れ去っていく。
本当の自信は、自分の周囲の人たちへの尊敬の念や
愛情の上に成り立っている。
だから、主人公が自信を取り戻したとき、今、傍にいる
家族に対して温かい目を向けられるようになったのだろう。
そして、私はその父親の温かい目が何より嬉しかったのだ。
後ろ向きなのに前向きな気分を味わえる爽快な小説。