のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

県庁の星 /2006年日本

2006年03月26日 22時31分04秒 | 映画鑑賞
■ストーリ
 県庁のエリート公務員・野村(織田裕二)は200億円をかけた
 プロジェクトを踏み台にキャリアの躍進を狙っている。
 プロジェクトに必要な「県と民間の交流」をクリアするため
 半年間の研修に借り出された野村は、三流スーパー「満天堂」に
 派遣されることに。パート従業員の二宮(柴崎コウ)が野村の
 教育係になるが、役所のスキルを押し通そうとする野村は、
 スーパーの現場に馴染めない。その頃、県庁では野村抜きで
 プロジェクトが動きはじめてしまう。

■感想 ☆☆☆☆
 思いっきり侮っていた作品。
 本当は他に見たい作品があったのだが、上映期間に間に合わず
 映画チケットの有効期限が月末までだったために選んだ作品。
 小説が良質のエンターテイメントだっただけに
 映画化に期待するのがこわかったのだ。
 だが、嬉しいくらい見事に期待は裏切られた。

 原作から設定をほんの少し変更し、恋愛要素も盛り込んではいるが
 そのほかの部分はほぼ原作どおり、原作のテイストは
 まったく失われておらず、テンポもよい。
 やや軽さは否めないものの、原作自体、軽くて楽しめる
 良質のエンターテイメントだったので、すべてが原作どおり
 いや、原作以上に笑ってすかっとして元気になれる作品に
 仕上がっている。読んでいるときから脚本しやすそうな作品だと
 感じてはいたが、ここまでしっくりとはまるとは思わなかった。

 終わり方も原作より現実的でシビアな落としどころにしており
 夢物語、ツクリモノにしていない。そこに更に好感を抱いた。

 民間との研修で何を学んできたかと問われる場面で
 県庁さんは答える。

 「素直に謝ること。
  素直に教わること。
  何かを成し遂げるためには、
  チームで助け合わなくてはいけないこと。
  これらを僕はスーパーで学んできました。」

 ちょっぴり苦味が混じってはいるものの
 すっきり爽快気分を味わえた二時間だった。

つきのふね / 森絵都

2006年03月26日 22時11分43秒 | 読書歴
■ストーリ
 あの日、あんなことをしなければ…。
 心ならずも親友を裏切ってしまった中学生さくら。
 進路や万引きグループとの確執に悩む孤独な日々で、
 唯一の心の拠り所だった智さんも、静かに精神を病んでいく。
 近所を騒がせる放火事件と級友の売春疑惑。先の見えない
 青春の闇の中を一筋の光を求めて疾走する少女を描いた作品。

■感想 ☆☆☆☆
 思春期の少年少女と、思春期からうまく脱出できないでいる
 青年が心の闇から一歩抜け出すまでを描いた作品。

 よく「今の子達と来たら。。。」と大人は言うけれど
 今も昔も本質的には若者の考えることや不安に思うことは
 変わってないと私は思っている。勿論、私が知っているのは
 私が抱えている不安だけであり、昔の若者のことも
 今の若者のこともよく分かっていない。じっくり話を
 したこともない。けれども、人間の抱える悩みなんて
 そんなに急激に変わらないのではないかと思うのだ。

 けれども、この本を読んで今の若者と昔の若者の
 抱える不安の大きさや質の違いを思った。
 「孤独」や「不安」に対する異常なまでの恐怖。
 誰かに傍にいて欲しい、という強い思い。

 親友の梨利を裏切ってしまったため、クラスで浮いた
 存在になってしまったさくらの孤独。
 さくらの味方になれず、グループを選んだ梨利の
 集団の中で感じている孤独。
 ひとりが怖くてたまらなくてたまに叫びだしそうになる
 一見おちゃらけ者の勝田の孤独。
 ばらばらになった人類をひとつの宇宙船に集めてようと
 孤軍奮闘する智の孤独。

 彼らはひとりで生きていくことを
 ひとりになることを、ひとりになるかもしれないことを
 不確かな未来を怖がり、足をすくませる。
 ひとりにはならないかもしれないのに。
 たとえ、独りになってもつながりは途切れないかもしれないのに。

 そして、将来孤独になるかもしれない不安のために
 今、傍にいる人に背を向け、彼らが見えなくなってしまう。
 傍にちゃんと友人が、自分のことを思ってくれている人がいるのに
 彼らから目をそらし、自分の殻に閉じこもり、バリケードを作り
 その怖さから必死で逃れようとする不器用な彼らたち。
 
 ラストに向かって畳み掛けるような展開がが続き
 最後の最後に起こる小さな奇跡に胸が熱くなる。
 起こる奇跡は小さくて不十分で、見る人によっては
 まったくもって奇跡には見えないだろう。
 それでも彼ら4人にとっては紛れもない奇跡。
 みんなにとっての奇跡ではなく、自分たちだけの特別な奇跡。
 そういう些細な奇跡を見つけ出すことができた
 彼らの結びつきを羨ましく思う。
 思春期のきらきら感を思う存分満喫できる作品である。

 ラスト、智が小さい頃に書いた手紙の問いかけが静かに心に響く。

 「ぼくわ小さいけどとうとういですか?
  ぼくわとうといものですか?」

なかよし小鳩組 / 荻原 浩

2006年03月26日 21時41分46秒 | 読書歴
■ストーリ
 倒産寸前の零細代理店・ユニバーサル広告社に大仕事が舞いこんだ。
 ところが、その中身はヤクザ小鳩組のイメージアップ戦略という
 とんでもない代物。担当するハメになったアル中でバツイチの
 コピーライター杉山のもとには、さらに別居中の娘まで
 転がりこんでくる。社の未来と父親としての意地を賭けて、
 杉山は走りだす。

■感想 ☆☆☆
 ここ最近、親父が熱い。
 単に私が手に取った本に親父世代が主人公のものが多いだけかもしれない。
 けれども「今、親父が来てるかも。」と思わされるような
 心熱くなる作品が多い。・・・気がする。

 親父世代の主人公には現実的な悩みが多い。
 夫婦仲はちょうど倦怠期にさしかかり
 (今作品の主人公、杉山は既に離婚済み)
 仕事も不況の影響で勝ち組と負け組の貧富の差は
 どんどん拡大するばかり(杉山の会社は倒産寸前)
 30を超え、健康の不安も大きくなってくる頃
 (杉山はアル中一歩手前)、と人によっては
 妙な焦りやがけっぷち気分を味わいがちな世代。
 偏見まみれだが、これが私の中での親父世代の定義である。

 だが、この定義にはもうひとつ大きな要素がある。
 親父世代はかっこ悪さを恐れない。
 どんなに見栄えが悪くても、心の余裕がなくても
 がむしゃらにがんばる。がんばれる。
 そういう熱さを持った世代が「親父世代」なのだと思う。

 私が最近、親父世代を題材にした小説を手に取るのは
 そして、読むたびに心を震わせ、胸を熱くするのは
 そういう他人の目を気にせずにもがけるかっこ悪さが
 新鮮でかっこよく見えるからだろう。

 杉山は仕事がすごくできるわけでも、
 並外れて正義感が強いわけでも
 ものすごく足が速いわけでもない。
 それでも、最後の最後にはがんばる。
 自分のなまった体に悪態をつきながら
 使えない同僚や社長にうんざりした顔を見せながら
 よっこらせと頑張る。そんな姿がとてつもなくいとおしい。