■ストーリ
失恋して泣き疲れて眠ったあたしが目覚めたら、そこはチグリスの畔
目の前にはターバンの青年が。月の砂漠、王宮の陰謀……。
アラビアンナイトの世界に飛び込んだ少女の愛と冒険の物語。
■感想 ☆☆☆*
「樹上のゆりかご」の主人公ひろみが中学生の頃に
遭遇した冒険を描いた作品。「樹上のゆりかご」を読んで
「この作品は「これは王国のかぎ」という作品の続編なんだそう。」
などと書いた私だが、読み出して数ページで気がついた。
・・・・この作品、読んだことがある。
自分の記憶力にまたもや愕然とする。
しかし、前作を読んでこの作品を思い出さなかったのも無理はない。
それぐらい、本当にまったく異なるテイストの作品。
この作品を読んで、「樹上のゆりかご」を読むと
主人公のひろみがこの冒険を通して、どれだけ大人になったか
この魔法の世界での出来事から現実世界に戻って
どう折り合いをつけたか、が分かる。
その流れが自然、かつ現実的で子供だましではないところに
共感を覚えた。
主人公ひろみは失恋のショックでアラビアンナイトの世界に
たどりつき、魔人として色々な人と係わり合い、
彼らの人生を助ける。もっとも魔人とは言え、中学生。
彼らのちょっとした一言に傷つき、分かりやすい策略に
簡単にひっかかってしまう。その冒険を通して
少しずつ、少しずつ現実世界での「失恋」や「自分」を
見つめなおすひろみ。彼女は徐々に、辛いと感じていたのが
「失恋」ではなく、その「失恋」を抱え込み、
平気なふりをしている「優等生のひろみ」を作り上げている
自分自身だったのだと気づく。
自分自身の人生で自分を思うように解放できないでいる
ひろみは、自分の思うように生き、人生を楽しもうとする
ハールーンに惹かれ、純粋にひたむきに自分の信じる道を
歩もうとするラシードに今までの自分を振り返る。
「これは王国のかぎ」
王国は自分。かぎも自分。自分の人生は自分のもの。
二人と過ごした時間によって、この解答にたどりついた
ひろみは現実世界に戻ってくる。
ほんの少し切なくて苦い王国との別れに胸がしめつけられ、
そして爽快な気分で本を閉じることができる。