太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

食べ放題

2015-01-15 07:48:38 | 日記
美大に行っていたころ、

「人は一度にどのぐらいケーキを食べられるか」

ということに挑戦したことがあった。

みんなおしなべて生活はギリギリだったと思うが、お金を出しあって

鷹の台駅前の「ドリアン」というケーキショップでホールのケーキを買った。

誕生日以外に、まるごとのケーキを買うことなどなかったし、

しかもよりどりみどり、チーズケーキやアップルパイ、洋梨のケーキなんかを同時に買うのは気持ちがよかった。

全部で何人だったか。

7,8人といったところか。

誰かの狭いアパートの一部屋にぎゅうぎゅうに座って、買ってきたケーキを並べた。


「このために今日は何も食ってない」

Tが言った。

Tは画材にお金がかかるので、食費を切り詰めた結果、食パンの耳にサラダ油を浸して食べる、

という食生活をしているのだった。

「おれ、カレー食っちゃったよ」

Sは365日、お昼はカレーを食べる人で、夏も冬も青いTシャツを着ていた。


誰も彼も、甘いものには目がない人たちで、やる気まんまんだった。

ホールケーキを8等分したものを、5つか6つぐらいはぺろりといけると私も算段した。




「うまいうまい」

「食っても食ってもまだあるぞ」

「私、3個目いきまーす」

チーズケーキを食べ、アップルパイに行き、レアチーズに取り掛かったころ、いきなり胸に何かがつかえた。

甘さが、舌にこたえてくる。

まだ洋梨のケーキにも辿り着いていないというのに、なんということだ。


みんなの食べる速度が遅くなり、言葉が少なくなってきた。

「食べてるのに飲み込めないよぅー」

口の中でぱさぱさするので、アップルパイは半分ぐらい残っている。

壁に寄りかかって目をつぶり、瞑想状態に入るやつもいる。

私は4個目の洋梨を食べながら、あとに控えているイチゴのショートケーキを眺めていた。

生クリームをやっつけられるかどうか、自信がなかった。

上のイチゴならなんとかいけると思ったとき、一人がイチゴだけをかっさらった。

「おっ、なにやってんだよ!」

「だってすっぱいものが食べたかったんだよう」

「それはみんな同じだろ。そのショートケーキの責任はとって食えよな」

「そんなぁー・・」

なごやかに始まったケーキ食べ放題が、次第に険悪さを増してくる。



結局、すべてがなくなるということはなかった。

食べ散らかしたままのケーキを前に、みんな黙って放心状態。

私は4つでギブアップだ。

誰がいくつ食べたか、もうわからなくなっていたけど、

これはべつに競争ではないから、それでもよかった。


「意外と食べられないもんなんだね・・・」




どうでもいいことを、まじめにやることができた。

それは若さだったのか、なんだったのか。

山手線を夜中かけて歩き通すという企画もあった。

予定も立てずに電車で日光に行き、そこに小さいスキー場があったので

普段着でスキーを借りて滑った。

いくら田舎の小さいスキー場であっても、普段着で滑っているのは私たちぐらいのものだった。

それでもぜんぜん恥ずかしくもないし、楽しかった。

いやなこともあったけど、腹の底から笑って生きていた。



バカだったなぁー。


あのころには戻りたいとは思わないけれど、あのバカさ加減に嫉妬している。

今でも、どうでもいいことをまじめにやりたいと思う。

でもなぜだかそれをしない自分がいる。



丸のままのケーキを見ると、食べ放題のことを思い出す。

15年ほど前、東京に行った折に鷹の台駅に行ってみたことがあった。

駅はきれいになっていて、「ドリアン」のあった場所には、コンビニのようなものができていた。



30年余も昔の話である。





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