太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

ラテン弁護士 その2

2015-01-22 21:48:59 | 人生で出会った人々
別居したまま、離婚話はいっこうに進まなかった。

あるとき、私は着替えなど荷物を取りに自宅に行った。

すると、洗面所のタオルが入っている棚の上に、広げた紙が乗っている。

それは相手が書いた「遺書」だった。


動転した私は、ある友人に電話をかけた。

電話をもつ手が震えた。

友人は私の話を聞くと冷静に言った。

「その紙を元にあったところに戻しな。それで何も見なかったことにして帰りな」

「だってもしも本当に死んだら?」

「あのね、遺書ってのは死んだあとで引きだしの奥のほうからひっそりと出てくるもんだよ。

そうやって広げて置いておくのは、遺書にみせかけて遺書なんかじゃない。脅しだよ」

「でも、もしも・・・」

「死ぬ、死ぬ、て言って死んだ人なんかいないよ。離婚なんかでいちいち死んでいたら

日本中死人だらけじゃん。」

「そりゃそうだけど・・・」

「仮に、万が一そういうことになったとしても、それはアンタのせいじゃない。」

「ひえー、やっぱり可能性はあるってことじゃん」

「もしそうなっても、アンタのせいじゃないって、私が思わせてあげる」



私はその紙を元の場所に戻し、何もさわらずに家をあとにした。

別の友人とランチをすることになっていたので、待ち合わせの場所に行った。

先の友人との電話で、少し勇気が出たものの、とても食欲なんかなかった。

帰り道、とりあえず話しておこうとラテン弁護士事務所に電話をした。

弁護士は出張で九州にいたのだが、そこまで追いかけて電話をかけた。




「そうですかー、そんなもんがありましたかー!うひゃひゃ」


電話を耳から離したいぐらいのデカイ声が響く。

「で、私はどうしたら・・・」

「や、何も見なかったことにして、それでいいんじゃないですかぁ」

「もしも本気だったら・・」

「離婚の案件はいーっぱいやってますけどね、死ぬ死ぬ、と言う人はいますけど、

死んだ人はいませんよ」

どこかで聞いたようなせりふだ。


「だけど万が一、ってことが・・・」


するとラテン弁護士は、さらに声を張り上げて言った。


「上等上等。死んでもらえばいいじゃないですかぁー。あははーーー!!」


そして少し間をあけて

「でもそれはあなたのせいじゃないですから。法律的にも、人間的にも」




私一人だと呼吸が浅くなって、悪いほうへ悪いほうへと際限なく考えが転がってゆく。

ラテン弁護士は、そんなパンパンになった私のガスを抜いてゆく。


そのあとも、何度か事務所で会い、電話もしたいときにした。

2回目からは料金を払ったけれど、ほんのわずかしか受け取らず、

いくら電話をしても、その料金はいっさい取らないのだった。



結局弁護士をたてるようなことにはならなかったけれど、

あのラテン弁護士にどれだけ救われたかしれない。

それをいうなら、現場から電話した友人にも、

ラテン弁護士を強引に紹介してくれた友人にも。


さらには、突然現れた「新しい人」がいなかったら、情にほだされて

私は離婚をすることができなかったのではないかと思う。



出会うべきときに、出会うべき人に出会う。


それは紛れもない真実。


なんと多くの人の助けがあって、今の自分があるだろう。










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