夜、窓をあけていても風が動かない日は、天井扇をつける。
ゆっくりとまわる扇が作る風は、うちわで扇ぐ柔らかい風に似ている。
ぼんやりと天井扇を眺めていると、バリ島を思い出す。
7,8年も前になるが、夫とバリ島に行った。
私は初めてで、夫は数回訪れたことがあった。
バリ島好きな友人から、ホテルの部屋にはプライベートのプールがついているだのといった話を聞いていたので
そういうファンシーなリゾート地なのかと思っていた。
しかし、行ってみれば、狭い道路を4人乗りの50ccバイクや車がけっこうなスピードで行きかい、
道端にしゃがんでいる男達が、じろじろと通行人を眺めていて、物売りがやたらと声をかけてくる。
私達は、そのクタという喧騒の町を離れ、ウブドという山あいの町に移った。
そこで夫が記憶を頼りに行った宿は、緑豊かな敷地にバンガロー式に建物が建っていた。
薄暗い部屋には、大きな天井扇がゆったりとまわっており、窓の外の田んぼと椰子の木の風景は、まるで切り取った一幅の絵のようだ。
広いバルコニーに、座り心地のよさそうなテーブルとソファがある。
ぬるいが、一応湯が出るシャワーがあり、朝食はボーイさんが運んできてくれて、バルコニーで食べる。
プールもいらない、しゃれた設備もいらない、買い物にも興味ない私は、こっちのほうがずっといい。
これで1泊500円。むろん、二人で。
至るところにアートがあって、のんびりとしたウブドが私は好きになった。
夫の友人グッディが、家に招いてくれるといってトラックを借りて迎えに来てくれた。
「すぐそこだよ」
と言って走り出したトラックは、キンタマー二山(ほんとにそういう名前なんだってば)を1時間かけて越えた。
一間だけの石造りの家で、4歳の娘と奥さんと親戚達が私達を迎えてくれた。
食事はタイルの床の上で。キッチンは庭。
そこで食べた「サテ」という串にさした豚肉の美味しかったこと。
みんなで笑い転げて、ひんやりしたタイルに寝転がって空を眺めた。
彼らの精一杯の心のこもったもてなしが、ほんとうに嬉しかった。
夫が以前バリ島を訪れた時、ひとりで路線バスに乗ったのだそうだ。
バスといっても、どこかで廃車寸前になった車をそのまま使っているだけで、ドアがないのは当たり前。
信号待ちをしていると窓の外から物売りが来たので、夫は肉団子を買った。
バスの中には、生きたままの鶏や豚を連れた客らがいて、肉団子を食べている夫に声をかけてきた。
「このバスに旅行者が乗るなんて滅多にないこったよ」
「アンタ、そんなもん食べて大丈夫かね。よそから来た人はお腹を壊したりするっていうけどさ」
さいわいお腹は壊さなかったが、夫はいつもそうやって、すぐに地元の生活に溶け込んでしまう。
バリ島の人たちは、朝夕に神と悪魔にお供えをする。
食べ物に美しい花などをあしらったものを、家の入り口にそっと置く。
陰があって、陽がある。
どちらも同じだけ大切。
神も悪魔も、おなじもの。
夫は1ヶ月ほど滞在して、仕事を真剣に探したのだという。
「仕事があったら、ここに住んでもいいと思った。まだ日本に行くなんて思わなかった頃だからね」
私は常々、日本の何が夫を虜にするのだろうかと思っていたが、
バリ島に来て、私は何となくだけれどわかったような気がした。
寝室の、ゆっくりまわる天井扇を眺めながら、バリ島を思い出す。
不思議な「陰」の土地。
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ゆっくりとまわる扇が作る風は、うちわで扇ぐ柔らかい風に似ている。
ぼんやりと天井扇を眺めていると、バリ島を思い出す。
7,8年も前になるが、夫とバリ島に行った。
私は初めてで、夫は数回訪れたことがあった。
バリ島好きな友人から、ホテルの部屋にはプライベートのプールがついているだのといった話を聞いていたので
そういうファンシーなリゾート地なのかと思っていた。
しかし、行ってみれば、狭い道路を4人乗りの50ccバイクや車がけっこうなスピードで行きかい、
道端にしゃがんでいる男達が、じろじろと通行人を眺めていて、物売りがやたらと声をかけてくる。
私達は、そのクタという喧騒の町を離れ、ウブドという山あいの町に移った。
そこで夫が記憶を頼りに行った宿は、緑豊かな敷地にバンガロー式に建物が建っていた。
薄暗い部屋には、大きな天井扇がゆったりとまわっており、窓の外の田んぼと椰子の木の風景は、まるで切り取った一幅の絵のようだ。
広いバルコニーに、座り心地のよさそうなテーブルとソファがある。
ぬるいが、一応湯が出るシャワーがあり、朝食はボーイさんが運んできてくれて、バルコニーで食べる。
プールもいらない、しゃれた設備もいらない、買い物にも興味ない私は、こっちのほうがずっといい。
これで1泊500円。むろん、二人で。
至るところにアートがあって、のんびりとしたウブドが私は好きになった。
夫の友人グッディが、家に招いてくれるといってトラックを借りて迎えに来てくれた。
「すぐそこだよ」
と言って走り出したトラックは、キンタマー二山(ほんとにそういう名前なんだってば)を1時間かけて越えた。
一間だけの石造りの家で、4歳の娘と奥さんと親戚達が私達を迎えてくれた。
食事はタイルの床の上で。キッチンは庭。
そこで食べた「サテ」という串にさした豚肉の美味しかったこと。
みんなで笑い転げて、ひんやりしたタイルに寝転がって空を眺めた。
彼らの精一杯の心のこもったもてなしが、ほんとうに嬉しかった。
夫が以前バリ島を訪れた時、ひとりで路線バスに乗ったのだそうだ。
バスといっても、どこかで廃車寸前になった車をそのまま使っているだけで、ドアがないのは当たり前。
信号待ちをしていると窓の外から物売りが来たので、夫は肉団子を買った。
バスの中には、生きたままの鶏や豚を連れた客らがいて、肉団子を食べている夫に声をかけてきた。
「このバスに旅行者が乗るなんて滅多にないこったよ」
「アンタ、そんなもん食べて大丈夫かね。よそから来た人はお腹を壊したりするっていうけどさ」
さいわいお腹は壊さなかったが、夫はいつもそうやって、すぐに地元の生活に溶け込んでしまう。
バリ島の人たちは、朝夕に神と悪魔にお供えをする。
食べ物に美しい花などをあしらったものを、家の入り口にそっと置く。
陰があって、陽がある。
どちらも同じだけ大切。
神も悪魔も、おなじもの。
夫は1ヶ月ほど滞在して、仕事を真剣に探したのだという。
「仕事があったら、ここに住んでもいいと思った。まだ日本に行くなんて思わなかった頃だからね」
私は常々、日本の何が夫を虜にするのだろうかと思っていたが、
バリ島に来て、私は何となくだけれどわかったような気がした。
寝室の、ゆっくりまわる天井扇を眺めながら、バリ島を思い出す。
不思議な「陰」の土地。
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