太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

「再見」の話

2018-08-01 19:17:01 | 日記
大昔に働いていた地方テレビ局の近くに、「再見」という名前のラーメン屋があった。

その店を知らない人はいないといっていいほど知られた店だったが、

美味しくてというよりは、怖い店で有名だった。


「再見」に行った話は、翌日には局内に知れ渡り、まだ行ったことがない者の興味をかきたて

行った者の恐怖を呼び戻した。

彼らは、どんなに怖かったかは滔々と語るくせに、味はどうだったかになると

示し合わせたように首をひねるのだった。


どうせ大げさなんでしょ、と話半分に聞いていた私が、いよいよ行くことになった。

同期の女子と男子と私の3人だったと思う。

間口2間ほどの店の引き戸を開けると、テーブル席はなく、奥に向かってLの字のカウンターがあり、

サラリーマン風の男性が3人、既に席についていた。

60代ぐらいの男性がラーメンを茹でていて、奥さんとおぼしき女性が何か作業をしていたが

私達が入ると、二人同時に一瞬私達を睨めつけ、すぐに視線を元に戻した。

いらっしゃいでもなけりゃなんでもない。

私達はすっかり緊張して、おずおずとあいた席に座った。

メニューの種類は、それほどなかったと思う。

壁に書いてあるメニューを、ひそひそ声で相談しながら決めていると、

サラリーマン風の男性が

「おばちゃん、ビール」

と言った、その時である。


「ビールが、なにッ!」

おばさんが、まったく笑わない顔できっぱりはっきり、それも思いがけず大声で言い放った。


気の毒なサラリーマン風の男性は、すくみあがり、


「を、クダサイ・・・・」

と、ようよう言い足した。

おばさんは黙ってビールの栓を抜き、ダンッと男性の前に置いた。

私達もすっかりすくみあがり、早いところメニューを決めようと焦るのだが、

緊張しているので集中できない。

もたもたしていたら、何を言われるかわからない。

何を頼んだのか、もう覚えていないのだけれど、とにかくメニューを決めた。

今度はそれを頼むタイミングがつかめない。

カウンターの下でこっそりジャンケンし、同僚が注文することになった。

下手なタイミングで注文して、睨まれたり無視されたらダメージが大きい。

おばさんの作業がひと段落する頃合を見計らうのだが、あまり黙っていても何か言われそうだ。

サラリーマン風の男性を見ると、心なしかうつむき加減にしんみりとビールをちびちびやっている。

やっとのことで同僚が

「し、塩ふたつと味噌ひとつください」(頼んだメニューを覚えてないので、まあこんな感じ)

と言ったその声は、みごとに裏返っていた。


でも、おばさんはこちらを見るでもなく、まったく反応がない。

聞こえなかったかと思い、同僚が再び同じことを言った。


「1度言えばわかるッ!」


ひぃーーーーーッ!!!



「わたし、もう帰りたいよぅ・・」

同僚が蚊の泣くような声でささやいた。

「今帰ったら何言われるかわかんないよ、我慢しな」

「おれ、ちびったかもー」

ラーメンが出てきて、私達はできるだけ急いでそれを食べ始めた。

とにかく早く食べて、一刻も早くここを出たい。

私達が一心不乱にラーメンを食べている時、新しい客が数人入ってきた。

声高にしゃべりながら椅子に座り、メニューを見るでもなくしゃべり続けていると突然、


ダンッ


という音がした。

おじさんが包丁をまな板の上に置いた音だった。

それを機に、私達のペースは早送りぐらいに速くなり、一気に食べ終えてお勘定をし、

逃げるように店をあとにした。

翌日、局で私達はこの武勇伝を話しまくることになるのだが、

「で、味は?」

と聞かれたら、やっぱり誰もまったく覚えておらず、首をかしげるしかないのだった。




30年も昔のことで、行列ができるナントカとか、怖くて有名な大将がいる店など

まだテレビに取り上げられる前だったと思う。

ラーメン屋「再見」の話はこれでおしまい。

数年後、「再見」は突然店を閉めて、消えてしまった。

今思えば、「さようなら」という意味の名前からして、変わってたよなあと思うのである。















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なるほど中国語

2018-08-01 07:56:43 | 日記
職場で、私が担当しているレジスターのクレジットカード機械が壊れた。

忙しい最中でそのレジスターを閉めるわけにもいかず、

キャッシュオンリーということを断りつつ、仕事をしていた。

英語圏の人には言えばわかるが、中国人の場合は英語がまったく通じない。

それで、中国人のツアーガイドを見つけてきて、キャッシュオンリーを中国語で紙に書いてもらった。



只 収 現 金


なるほど!!

読み方はわからんけど、意味はわかる。

英語の文法の並び方で、「のみ おさめる 現金」というわけか。

中国語で使う漢字は、日本では旧漢字だったり、まったく読めない字もあるが

漢字のもつ意味は似ているようで、読める字の組み合わせだと、意味を想像することができる。

たとえば私が唯一知っている中国語の単語の書き方。


再見

ツァイツェン(さようなら)

「再び 見る」=また 会いましょう ということなのだろう。


こうしてみると、中国語もなかなか興味深い。

なぜ私が  再見  を知っていたかというと、ちょっと怖いワケがある。

その話はまた次回。





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