永田和宏選
ロシアの兵ウクライナの兵前線の兵の誰にも母がいること 観音寺市 篠原俊則
クラスター爆弾は残虐とふさりながら残虐ならざる戦争やある 奈良市 阪上元
一首目、常連の篠原さんの反戦歌です。二首目も、ウクライナ戦争の短歌。ウクライナ侵攻が報道され始めて反戦の短歌が増えてきました。私たちは、声をあげなければいけないし、短歌をこうして詠まなければいけないと思います。
馬場あき子選
手始めに線量測る畑仕事十二年目の福島の春 須賀川市 近内志津子
一杯の紅茶とパンに涙する捕虜となりたるロシアの兵士 観音寺市 篠原俊則
一首目、何年経っても放射線量が問題となる福島を忘れてはならないのです。それでも頑張る姿に、頭が下がります。この歌は、佐佐木幸綱さんと高野公彦さんも選んでいます。経済とか持続可能とかいうけれど、人類が昔からずっと続けられるのは、こうした農業や水産業、林業なのではないかと思います。会社なんて、いつ倒産するかわからないけれど、食べるものを作り続ける産業こそ、持続可能なものなのです。その営みを壊した原発事故の罪は、重いですよ。二首目、篠原さんの別の歌。状況は変わり、いまはロシア兵の民間人への残虐さが目立ってきています。怖ろしいことです。
佐佐木幸綱選
若い子にナンパされたと笑ふ妻マスクが隠す五十八歳 戸田市 蜂巣幸彦
これは、すごいですねえ。コロナ禍だからこういうことになったのでしょう。素晴らしいです、笑っちゃうけど。
高野公彦選
ひなまつり、被爆惨禍のウクライナ 続けて映すテレビニュースは 沖縄県 和田静子
私も、気になっていました。戦争のニュースのあとに、真逆のニュースを流すのって、見るほうはちょっと違和感を感じるのです。これは平和だから感じることなのかな。でも、無神経すぎると思いますよね。ただ、私たちができることは、ずっと関心を持つことです。そして、ずっと、戦争反対の声をあげることです。こんなことになって、逆にプーチンの支持率が上がったなんて、一体どういう神経しているのでしょうか、ロシアの人たちって。真実が伝えられていないからでしょうか。
ソ連兵の残虐さは、日本人が満州で体験しました。引き上げ船が着く舞鶴港では、婦人特別相談所だったかな、そういうところで、性被害を受けた女性たちが麻酔もなしに中絶手術をしたんですよ。戦後、アメリカ兵との間に子どもが生まれましたが、ソ連兵との間のこどもがいないのは、そのためなんですよ。アメリカ兵との婚姻または交際は、もちろん合意の上のことですけれど。戦争には略奪や殺人、強姦が今もあると思います。だからこそ、戦争を起こしてはいけないのです。武器も兵も核兵器もない、平和な世界をどうして実現できないのでしょうか。