飛越(ひこし)トンネル登山口から山頂を目指して歩くわけですが、そのトンネルまでの林道で雪崩が起こって道をふさいでいたお話しは「その1」でしましたね。
その雪崩で電柱がボッキリ折れて道路上に横たわっていました。かろうじてその横をすり抜けることが出来ました。道路を管理する方々は毎年これを整備していくわけですよね?それもあちらこちらで。大変ですよねー、ありがとうございます。
さて歩き始めてすぐに倒木のお出迎えを受けたわけですが、『ここはどうだ?』とか『こんなのはどうする?』とかまるでアスレチックのようでした。重い荷物を担いでいる者としては『くそーマジで?』とか『えーっ、どうするのこれ』なんて言葉をついついつぶやいてしまいます。
一カ所腹の高さほどの倒木がありました。傾斜のついた登山道ですから、見上げる形になって上を越えるのはちょっと無理です。ではくぐるしかないな…。かかんでくぐり抜けようとすると、背中のザックが引っかかってしまう。リンボーダンスでくぐり抜けようとするものなら、ひっくり返ってバックドロップで失神間違いなし。仕方ないので腹ばいぎみに行きました。こりゃあ先が思いやられますね。
飛越トンネル登山口には当然僕の車だけしかなく、他の入山者は期待できない、つまりトレース(足跡)もなし。その前に付いていたであろうトレースも雨と融雪で消えていました。
しばらく喘ぎながら登っていくと、うっすらとスキーで登った跡が付いていました。さすがにもう滑るには難しい状況だと思いますが、最後に山頂付近のカールを滑るんだろうと思いながらその薄いトレースを追いました。
僕は歩きなので登山道であろう付近をあまり外さないように、かつ歩きやすそうな部分を縫うように進んでいきます。木の根本部分が蟻地獄のようにバックリと開くんですけど、落ちたら人間が見えなくなりそうな深さのところもあります。
スキーのトレースはいつしか担いでの登坂に変わり、足跡の形からスキーではなくスノーボードだと分かりました。2人組みのパーティーですね。
登りながら肩に食い込むザックの重みもさることながら、体力の無さに一抹の虚しさを覚えます。山に登り始めた頃はもう少し軽快だった気がします。つまり年齢的な衰えなのかな?って…。
ツラくてツラくて、雪の上にへたり込んでしまったり仰向けに寝ころんだりしながらもやっとの思いでたどり着いた避難小屋にはスノーボーダー2人組みが陣取っていました。
『こんにちはー、お疲れ様でーす』
お互いに挨拶を交わし、いろいろと今日の行程と明日以降の予定を報告し合い、情報収集します。
今日の宿は北ノ俣避難小屋です。(画像)
避難小屋というのは、ほとんどが管理人不在でまさに避難するための施設です。基本的には緊急時以外は使ってはいけないという事になっていますが、ここを利用しないとかなり厳しいという場合には登山者たちは計画に織り込むことがあります。
さまざまな大きさや形の避難小屋がありますが、ここ北ノ俣避難小屋は狭いです。快適に利用できる人数は5~6人っていうところでしょうか。そして小屋そのものが傾いていて老朽化が進んでいます。
僕はお昼頃から入山したので、この避難小屋に泊まることを考えていました。
当然鍵などはかかっていないので、誰でも入れます。利用者は掃除をしあとを濁さないように出ていきます。見ず知らずの者が隣同士になることもあります。気が合うこともあれば、その逆も有り得ます。もちろん誰もいないこともあります。
誰もいないと夜中怖いぐらいですが、気を使わなくていいという利点の方が大きいかもしれませんね。
僕『ご一緒させていただきまーす。どこから入られましたか?』
2人『飛越トンネルからですけど、雪崩の手前に車停めたら、工事の人がトンネルまで乗せてくれたんですよ』
僕『おー、それはラッキーでしたね。でも雨降ってましたよね』
2人『もうジャンジャン(笑) のっけから心が折れそうでした。いや~キツかった。ここまで6時間ですよ』
僕『僕もちょうど6時間です。やっぱりその位かかるんだぁ、もう死ぬかと思いましたよ(笑)』
2人『(爆笑)僕たちも死にそうでした。それから僕らに気を使わないで下さいね、早出されるならバリバリ音出して構いませんから』
僕『ありがとうございます(笑) 明日は4時頃出たいと思っています』
2人『僕らはのんびり5時頃って感じですかね。黒部五郎岳から鏡平に下山します』
こんな会話を交わし、僕は明日薬師岳の山頂にアタックするための装備を整えます。
要らないものはひとまとめにしてこの避難小屋にデポします。明日の行程も長いので、状況によっては太郎平小屋の冬季開放部分を使わせていただきます。
多くの山小屋は冬山での遭難を防ぐため、小屋閉めのあとも室内に入れるように鍵をかけずに開放しています。事前に管理者に電話で確認し、許可をとっておきました。
管理人さんは、登山届けの提出の義務と下山後に念のため電話を入れてくるように話してきました。その声は少し厳しく感じました。まだ危ない時期ということもあって、不安を感じたのでしょうね。
スノーボード2人組みうち1人は太郎平小屋で繁忙期に手伝っていると話していました。小屋のことを事前に教えてくれて、助かりました。この先に危険箇所がないか、雪の状況はどうかおおまかに把握することが出来ました。
スノーシューや3日目の昼食、着替えの一部をデポすることにしました。アイゼンとピッケルは必要かどうか太郎平小屋の彼に相談しましたが、使わないと思いますけど…と言葉を濁します。結局悩んだ末、保険として持つことにしました。
これが無ければ2kgは軽量化出来るんですけどね…。
2日目の夕方から翌朝にかけて気圧の谷が通過する予報で、風も強まりその後グッと気温が落ちるということです。
アイゼンは早朝の雪が固い時間帯に使うかもしれません。
考えが決まって、早々に横になることにしました。
その3に続きます。