原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

“いじめる側”の心理分析こそを実行するべき

2016年02月21日 | 時事論評
 昨夜、私は午後7時30分より放映された NHK特集ドラマ 「海底の君へ」 を見た。


 冒頭から話題を変え私事で恐縮だが、先週は私の現在の義務として背中に重くのしかかっている各種の業(なりわい)に翻弄される一週間だった。

 義母介護の一端である病院への付き添い、義母所有財産管理1年間の総括とも言える青色申告実施、介護施設ケアマネジャー氏との今後の介護計画の話合い。  それから亭主の税務申告にも付き合った。(と言うよりも私主体に申告作業を実施した。)


 特に記憶に新しい昨日の義母入居介護施設のケアマネ氏との話し合いに関し、少し愚痴をこぼさせていただこう。

 日頃の義母の介護ケアを全面的に高齢者有料介護施設にお世話になっている家族の身としては、その立場上、ケアマネ氏を筆頭に施設のスタッフの皆様に深々と頭を下げるのも仕事の一つだ。
 丁重な姿勢でそれを実行しつつ、それでも義母が抱えている実態に関しての家族側の本音も施設へ伝えねばならない。 
 私としては常に施設スタッフの皆様を尊重しているつもりでいても、相手にとっては私の発言を“顧客からの非難・苦情”と捉えるところもある事を承知している。 特に義母の要介護度が上がってしまった暁に於いては、この懸念が的中しスタッフの反感を呼び起こしてしまうのかとの予感があったのだが、昨日それがまさに的中してしまったようだ。

 実際問題、私としても義母と接する事自体に日頃大いなるストレスを感じている。
 そんな自己感情を押し殺して、あくまでも施設のスタッフの皆様を尊重しつつ会話しているつもりなのに、相手は顧客の私に責められているのか?!と感じている様子だ…  返ってくる回答とは、「施設内での対応にも限度があります。常に義母様を尊重しています。 義母様は実に良き方で我々の提供するサービスに満足されている様子です。」等々自己弁護発言ばかりだ…。
 これでは話し合いにならない。
 と言うよりも、まるで私が施設のスタッフを“いじめ”ているかの構図が我が脳裏に浮かんだ段階で、「いつも本当にありがとうございます。」と回答し、話し合いを終了するしか方策が取れなかったものだ。

 ただ施設スタッフ皆様の日々の激務を思えば、その我が対応で正解だったと自分を慰めつつ、家族と共に短時間の酒宴の後自宅へ帰った。


 そしてニュースを見ようとNHKテレビをつけたら、夜7時のニュース報道の後、ドラマが始まった。

 そのドラマの視聴を最初から目論んでいた訳ではないのだが、主演の藤原竜也氏(この方、イケメン童顔長身で結構私の好みだ!)が、ドラマ冒頭より物凄い演技をしている!!

 どうやら、「いじめ問題」を題材にしたドラマの様子だ。
 それにしても、藤原氏の“いじめられ役”の演技の程も素晴らしいければ、彼女役である“いじめられ役高校生”の姉役女優氏の演技力も捨て難い。 
 元教育者である原左都子としては、もちろん言いたい事は山々なる思いを抱えつつ、このドラマを最後まで視聴した。


 ここで、上記NHKドラマに関する原左都子の感想を述べよう。

 「いじめ問題」を取り上げたドラマとしては秀作であろうと“一応”評価する。
 ただ、同時に“引っかかる箇所”が多数存在するのだ。

 その一つが、“いじめられっ子”とは家庭環境に問題があると総括したげな点だ。
 このドラマに於いては、主役藤原氏が演じる「しげちゃん」も助演の成海氏の弟も、いじめられたその理由が家庭環境に恵まれていない状況下で育っている設定となっているのだ。  例えば、しげちゃんの親は離婚している様子だし、成海氏の弟家も親が子供を日本に置いて夫婦共々海外出張しているとの設定だ。
 「しげちゃん」家はともかく、成海氏演じる家庭に於いて、何故未だ未成年の弟を若き姉に任せて両親が二人で海外出張したかの説明責任を、このドラマは果たせていない。

 もっと気になるのは、主役である「しげちゃん」をいじめた側の描写の仕方だ。
 ドラマによればいじめの張本人である同級生は、現在30歳そこそこの若さにして“弁護士”にまで登り詰め、その世界で「学校内いじめ問題」にも対応しつつ“いじめた側”の弁護に当たっているとの想定だ。 私自身もほんの一時弁護士を目指そうと考えた事がある故にある程度理解しているが、司法試験合格までの厳しい試練と年月を思い、この努力家(?)の私ですら現実を直視して断念した程だ。
 その弁護士氏と「しげちゃん」が再開するとのドラマ上の設定だが、これも私に言わせてもらうと“あり得ない”。
 たとえいじめ問題が発生した時が中学生だったと言えども、過去にいじめの相手を海に投げ落とした加害者とは、必ずや少年院にて一時保護されていることであろう。 そんな少年が、いくら家族関係に恵まれていたとて30代の若さで「弁護士」として活躍しているとは到底考えられない話だ。

 まあそれでも、「しげちゃん」がいじめにより海底に投げ込まれた中学生時代から一発奮起して、30代にしての中学同窓会会場にて自分が自宅で爆弾を作り殺人計画を実行出来た事に、おそらく視聴者は安堵応援したことだろう。
  (ただこの映像が「しげちゃん」による“自爆テロ”だったことを思い起こすと、「しげちゃん」の命こそを守りたい我が思いとは逆行する場面だったといえよう。)

 もちろん犯罪は司法で裁かれるべきだが、過去のいじめに翻弄され抜いた「しげちゃん」がテレビ内でそれくらいの“復讐”を実行することを私も望んでいた!
 (私とて娘が学校で受けたいじめの数々に対して、親として私なりの手段でどれ程闘って来たことか!) 


 このNHKドラマは、“いじめられ側”の復讐心にターゲットを当て視聴者の同情を誘ったとの意味合いに於いて、成功したのだろう。

 ところが教育側面から発言すると、大いなる落ち度があるのだ。

 それは“いじめ側”には一切の焦点を当てず、いい加減な描写をしている点に於いてだ。
 上述しているように、まず、たとえ中学生との未熟な時期の出来事だったとはいえ、いじめ相手を海に投げ込む程の凶悪犯罪に及ぶ異常心理の持ち主が、将来を嘱望される職に就ける訳もないとの視点に立って欲しい。


 その上でNHKに今後期待するのは、“いじめられる側”の家庭環境がどうのこうのよりも、“いじめる側の病的心理”こそを究極にレポートして欲しいとの事である。

 若干の不具合を持ってこの世に誕生せざるを得なかった我が娘も、義務教育課程に於いて学校内で様々ないじめに遭遇して来た。
 それに母として自分がやりたい事を犠牲にし、娘の将来に向ける成長のためサリバンとして全力で闘ってきた歴史がある私にとっては、我が娘が過去に受けた“いじめ”映像記憶は今尚鮮明、かつ切実だ。