「ある雨の日、女の子は生まれてはじめて、たった一人でお留守番をすることになりました。
彼女は風船に「おかあさん どこまでいったか みてきて」と語りかけ、子猫と遊びながら「すぐっていったのにまだかしら」とつぶやくのです。
だれもいない部屋のなかで、おもちゃのピアノをたたき、雨だれの音に耳をすませます。庭のアヤメの花は雨に触れて不思議な色に光ります。
突然の電話の音に思わずカーテンの後ろにかくれてしまう彼女。
街の家いえには灯がともり、女の子の心に少しずつ不安が広がります。
「わたしの おねがい おまどに かいた」曇った窓ガラスにむかって指を走らせる彼女。するとー
「あっ おかあさん あのね あのね」。彼女はお母さんの胸にしっかりと抱きつくのです。
(この絵はその場面です。)お母さんの肩から顔をだしてこちらをみつめている女の子の小さな胸はいろいろな思いでいっぱいなのでしょう。バックの色はその思いと喜びをせいいっぱい語っているように思います。
母が初めて文もかいたこの絵本『あめのひのおるすばん』は、日常のなにげない一コマに目を向けながら小さな女の子の微妙な心の動きを、十数点の絵の静かな流れと詩のような短い言葉でしっとりと美しく描いた作品です。
絵本といえば物語にさしえのはいったものと考えられていた時代に、『あめのひのおるすばん』は絵本界に新風を吹きこんだ一冊でした。絵と言葉が一体となって、絵本でなければあらわせない世界がそこに生まれたのです。
私は母がこの作品を制作している時のことをよく覚えています。
「新しい絵本の時代が始まるのよ」と語りながら、せっかく塗った色を水で洗い、また色をつけたり、それまで使わなかったような太い筆をつかったりして、悪戦苦闘しながらも、表情は未知の世界に船出する人の輝きに満ちていました。それはこの絵の色の輝きにも匹敵するものでした。」