たんぽぽの心の旅のアルバム

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2012年『エリザベート』‐ルキーニ役との出会いが、俳優としての世界を広げてくれた-高嶋政宏さん

2025年01月25日 08時55分51秒 | ミュージカル・舞台・映画

2012年『エリザベート』‐ルドルフは、自分の国をハプスブルクを、守りたいという高い志を持っていた人-平方元基さん

(2012年『オモシィ・マグ』創刊号より)

 

「-東宝版『エリザベート』初演から今年で12年、シングルキャストのルキーニ役として、すべての舞台に立って来られました。今回の公演中に出演回数1000回を超えられるそうですね。

 まさかこんなに続けられるとは思っていませんでした。それまで『王様と私』などには出演していたものの、近年作られたミュージカルは初めてでしたし。暗殺役という悪役的なキャラクターも初めて。しかも、ルキーニって、舞台袖での移動が多いんです。稽古でも同じ動きを繰り返して本番を迎えたわけですから、もう、喉はつらいし、脚は緊張と疲労でガクガクだし、大変でした。

 

-ルキーニといえば、観客とコミュニケーションを取る狂言回し的な役割が特徴的です。

 ものすごく近い位置でお客さんと絡むので、最初は客席に降りて行くのが怖かったですね。初演のころ、観に来た知り合いから「観客を敵に回している。みんなルキーニの狂言回しを観に来ているんだから、仲間のはずだ」と指摘されて、はっとしました。この物語はルキーニの裁判で、お客さんはいわば陪審員。被告であるルキーニ自らも、弁護士さながらに「こうなんですよ」と、緩急をつけて見せていく必要があるんです。能で言うところの”序波及”というか・・・。

 

-アクの強いチャーミングなキャラクターですが、どのように役作りや演技の工夫を?

 最初は、ルキーニはイタリア人だからイタリアのものしか飲まない・食べないようにしようと考えて、水はサンペレ、グリノ、昼はピザなどとやっていたら太ってしまい、途中でやめました。初演では歌い終わりを一人で長々とエコーさせてみたりもしたのですが、初めは笑ってもらえるものの、二度やるとすごい勢いでお客さんが引いて行くのがわかったりして。小手先ではなく、きちんと台本の意味を考えてやろうと考え直しましたね。ことさら変わったことをしなくても、本に描かれている通りに演じれば自ずとルキーニになると今は思っています。

 

-『エリザベート』の世界におけるルキーニの存在を、どのように捉えていますか?

 実は、最初に出演のお話をいただいたとき、渡されたウィーン版のビデオを冒頭の数分で見るのを止めて、「これは歌や踊りをずっとやってきた人の役だから」とお断りしたんです。ところが演出の小池修一郎さんに呼ばれて話をするうち、僕が当時好きでいろいろ調べていた天使や悪魔の話題で盛り上がり、いつの間にかやることに。たとえば三大天使のうちのルシフェルはミカエルを輝かせるため、闇の世界に落ちて堕天使になったとも言われています。つまり、闇があるから光が際立つ。これはトートとルキーニの関係にも重なるのではないでしょうか。トートは黄泉の帝王ですが、黄泉と闇は違う。闇はルキーニのほうなのではないかと感じます。

 

-悪魔と天使の表裏一体性が、作品世界に通じるとお感じになったわけですね。

 そうなんです。もちろんそれだけでは膨らまないので、出演が決まった後、史実も勉強するなど、多方面からアプローチしました。ルキーニは、母親が女工か何かで、父親はわからないのですが、実は貴族の落とし胤なんじゃないかとか、貧しい家庭に育ったためにアナーキストになったとか、秘密結社の一員だったとか、いろいろな説がある。その複雑な境遇や悲哀なども考慮に入れて演じています。さらに、雲の上の存在であるエリザベート皇后に一目会うため、死を覚悟して暗殺を企てたのだという、ジャン・コクトーの『双頭の鷲』のイメージも、役作りに取り入れました。今年に入ってからは、ハプスブルク家を終らせるという使命を、神から与えられた存在なのではないかとも考え始めています。

 

-『エリザベート』の世界には、神は表立っては登場しませんが・・・。

 あの世界の上にいて、すべてを取り仕切っているのだと思います。だからこそ、警備の網をかいくぐって、彼だけが暗殺を実行できた。興味深いことに、ルキーニの脳は、ジュネーヴ大学の研究所に長い間保存されていたんです(*現在は埋葬)。世の中に犯罪者はたくさんいるのに、なぜ彼の脳が・・・と考えると、ただの暗殺者ではないような気がしてきませんか?

 

-確かに、ちょっと奇妙な感じもします。

 そういうふうに、考えれば考えるほど不思議な役柄で、演じる側にとって関門だらけ。一つクリアすると別の課題が生じますから、慣れるということがありません。誰が演じてもそうなのではないでしょうか。歌・踊り・芝居の三要素が求められるので、踊りが得意な方が演じても歌と芝居が重くのしかかるでしょうし、歌が得意な方にとっては踊りと芝居が・・・という具合に、とめどないんですよね。

 

-前回公演の稽古では、面白いことが起きると率先して笑っていらっしゃるなど、ムードメーカー的存在になっておられるのも印象的でした。

 あの役はテンションが高くないと演じられないんです。家を出た時からハイテンションで、現場でもそれを保っていますね。小池さんからは「エリザベート暗殺に際しては、後ろに三島由紀夫さんの霊が浮かび上がるくらいの気持ちで演技をするように」と言われ、「俺は革命家だ、暗殺犯なんだ」と自分に言い聞かせるうち、段々精神も病んできて、本番中は「何でもできる!やってやる!!」という気分ですし、逆に終演後は、楽屋口から外に出たら石をぶつけられるんじゃないかと怯えた時期があったくらいなんですよ。

 

-改めて、この役との出会いは、高嶋さんにとってどんなものでしたか?

 ルキーニを演じる前は、まず青春もの、次に学校の先生や若い刑事役などをいただくことが多かったのですが、狂気の暗殺犯を演じたことで、キャスティングの内容が変わっていきました。俳優としての世界を広げてくれた役ですね。今回の公演では、歌唱などの技術面や体力面を進化させた上で情報を深め、より自由に遊べたらと思っています。」

 

2012年『オモシィ・マグ』創刊号の表紙は井上芳雄さんでした。帝国劇場で『エリザベート』『ルドルフ・ザ・ラスト・キス』と上演され、ルドルフトークも行われて盛り上がりました。


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