(乳幼児精神保健学会誌Vol.7 2014年より)
「今の日本の状況は子どもの未来にとって、とても危機的な要素がたくさんありすぎると思っています。
例えば、ネット社会の中でスマホなどが普及して様々な機器に触れる子どもたちが、それを手にしていないと心が不安になってくる。やめようと思ってもやめられない。言うならば依存症、一種のAddictionという状態に陥っている子どもたちが、中学生と高校生あわせて全国で52万人ぐらいいるわけです。大変な時代だと思います。それから、調査によると9割は、なんらかのいじめを受けているという報告がごく最近出されています。しかも家庭内におけるDVや虐待といったようなことが、しばしば報じられています。この数年で、虐待を受けて亡くなった子どもたちがもう3ケタを数えているんです。この国は豊かになったはずなのにいったいどうなっているんだろうか。こういう根本を問われるような状況ではないかと思います。
私は東京杉並区の武蔵野時代からの木がわりとたくさん残されているところで山小屋風の家を借りています。とても環境が良いところでタヌキが住んでいます。そのタヌキはつがいで、毎年春に6匹子どもを生むんです。リスのような小さい体がチョロチョロしはじめるのが、早い年は4月でした。今年は、なぜか遅くて6月の初めでした。観察しえいると家族の絆っていうのかな、お父さんもお母さんも子育てにものすごく熱心なんです。野生の動物の場合、親は一生懸命ダニ取りをする。舐めるようにして、子どもの体をきれいにするんです。子どもはだんだん大きくなると今度はお父さんお母さんのダニ取りをします。そして兄弟が毎日一緒にもつれあうようにして育っていく。それをお母さんが、大きな木の根っこの定位置から座って見守っているんですね。そしてカラスが襲ってくると猛然と防御する。子どもを守るため、お父さんは必死に走ってカラスを追い払う。そういう日常を見ていると動物も人間も子どもを産んで育てることが、いかに大きくて大切なことかつくづく感じます。」