知られざる世界といっても遠い異国のことではない。先日のベビーシッターに預けていた子供が亡くなった事件は今更ながら驚かされたニュースだ。生活保護を受けてた親子3人の母子家庭、生活が苦しく、夜のホステス商売で、子供を預けざるを得なかったという。約5年前に開設されたベビーシッター大手サイトの運営会社(東京)によると、登録者は約1万6千人。サイト内の掲示板に日時や場所、報酬、連絡先などを書き込み、条件の合う相手にサイトを通じて連絡する。掲示板にメールアドレスなどを書き込む人もいて、未登録者が直接連絡を取ることも可能という。料金交渉などは当事者同士、トラブルも自己責任で解決してもらうシステムでひたすら低料金で預かってもらうようだ。我が子を見ず知らずの人に料金を交渉して預かってもらうという世界が日本にあったとは、核家族化した近所づきあいのない孤立した世界で若い母親が格闘している。老人の孤独死と似たような状況だ。
ところで内閣府は22日、社会意識に関する世論調査結果を公表した。日本で良い方向に向かっている分野(複数回答)として「景気」を選んだ人は過去最高の22%に達した。昨年調査の11%から倍増した。社会全体の満足度では「満足」と「やや満足」を合わせた回答が53.4%から60.8%となり、過去最高だった。内閣府では経済政策「アベノミクス」の効果で経済に対する国民の認識が改善したと分析している。
社会全体の満足度が過去最高の6割になっているという調査結果はあまりにも「知られざる世界」とかけ離れている。今の日本には2つの世界が同時に存在している。フランス紀行で書いたが、フランスでは子供が2人もいれば母子家庭でも経済的に困らない。オランダで、若くして夫に先だたれても双子の子供を音楽学校へ通いながらゆっくりと育てている日本人を知ってる。
少子高齢化対策と政府は叫ぶが、その結果が今度の事件だ。母親のモラルの問題ではない。日本の政治には何かが欠けているのだ。