昨年の今頃は誰も鶴竜が横綱になるとは思わなかった。日本人横綱待望のあまり、稀勢の里に期待が集まり、土俵入りは前師匠故隆の里を引き継ぎ不知火型だ等と取りざたされた。異変?が起きたのは稀勢の里の横綱がかかった初場所だ。日本人横綱へのプレッシャーに圧倒された稀勢の里の陰に隠れていた鶴竜がいつの間にか優勝候補に競り上がり、本割りでは白鵬に勝ち、優勝決定戦にまで持ち込み、破れはしたが準優勝となった。
横綱のかかった春場所でも、鶴竜の強さにマスコミも評論家も半信半疑だったが、両横綱を破り、見事逆転優勝を遂げ、71代横綱が誕生した。鶴竜のこれまでの歩みはまさに地道にコツコツと稽古を重ね、欠点を克服してきた地味な努力の結果だ。初土俵から幕下へ上がるまで3年かかり、大関になるまで10年を超え、28歳で横綱になった。歴代4位の遅咲き横綱と言われている。最も身近な師匠の井筒親方の言「コツコツ休まないで努力してきた。稽古は嘘をつかなかったというこじゃないか」が全てを語っている。
マスコミ報道も地味な扱いで、何となく素っ気ない。しかし、故隆の里は糖尿病と闘いながらの遅咲き横綱だったが、力の強い横綱という印象が強かった。鶴竜はモンゴルの二人の横綱とは違う「自然体の横綱」と期待されている。押しわざ、引きわざ併せ持つという意味だと解するが、興味の尽きないところだ。また、土俵入りは雲竜型が予想され、久しぶりに不知火、雲龍の2つの土俵入りが見られることも嬉しい。
期待を集めた稀勢の里に対する報道が陰を潜めたというのも有為転変かもしれないが、これまで何回も指摘された脇が甘い、腰が高いを地道な努力で克服すれば道は開けるのではないか。