カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

炎の傷痕

2011-11-05 11:06:45 | ホラー書きによる一週間のお題
双子の姉が死んだ。
私の目の前でガソリンを被り、自分の身体に火を付けた。

小さい頃は見分けが付かない程にそっくりだった私たちだが、やがて徐々に、そして確実に全てが変わっていき、いつの間にか全くの別人になっていた。

陰気で引き籠もり勝ちの姉、社交的で快活な妹。
成績の悪い姉、校外模試でも上位者の妹。
運動が苦手な姉、短距離走エースの妹。
何が悪かったのかなど判らない。けれど姉は学校に行かなくなり、自分の部屋からも出てこなくなった。

父も母も、そして私も手をこまねいていたつもりはない。何とか姉を立ち直らせようと努力を惜しまず、そして恐らくは更に姉を追い詰めた。

元々は一つだったのだから、また一つに還ろう。
そう言って炎に包まれた姉がしがみついてきた手を私は躊躇なく振り払い、姉は一人で燃え尽きていった。

どうして、別々ではいけなかったのだろう。
一つだったものが二つに分かれたのは、それなりの意味があったのだろうに。
二つに分かれてそれぞれに育ちはじめた以上、その切断面が再び完全に重なり合うことなど決してないのに。

私の左腕には、炎にに包まれた姉が最期に掴んできた時の痕が残った。
その傷痕だけが、一緒に生まれて一緒に育った双子の姉がこの世界に遺した、ただ一つの刻印。


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