カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

ひび割れた硬貨

2011-11-08 21:12:42 | ホラー書きによる一週間のお題
そろそろ貸したお金を返してくれとヤツは言ったが、たかが小銭だろうがとオレは相手にしなかった。

そうしたら、たかが小銭でも毎日ジュース一本分のお金を二週間も渡していたんだから大金だとか、ヤツが生意気に口答えしてきたので、オレは切れることにした。そのまま持っていた小銭入れの中身を地面にぶちまけ、さあ拾えと促す。

ヤツは少しの間ためらっていたが、やがて膝を付いて小銭を拾いはじめる。そしてオレが借りただけの金額を拾い終えると立ち上がろうとした。
直後にオレはヤツの身体に蹴りを入れて転ばし、それがお前から借りた小銭と同じものだと証拠があるのか?印でも付いているのかと難癖を付けてやった。正しいかどうかなんて関係ない、生意気に口答えなんかして、オレの機嫌を悪くさせたヤツが悪いのだ。

普段から頭の鈍いヤツも、これでオレが金を返す気がないのに気付いたのか珍しく反抗的な目付きになる。だからオレは更にヤツを蹴った、蹴りまくった。ヤツは悲鳴を上げて転がるように走り出し、道路の向こう側に逃れようと車道に飛び出して。
そこに大型のダンプカーが突っ込んできた。

運が悪かったな、そんなことを考えながら自分の小銭を拾い集めたオレは、奇妙なことに気付いた。拾った小銭全てに、触れただけでそうと判る傷が付いていたのだ。何だか気味が悪かったので、オレは家に帰る途中のコンビニで買い物をして、あるだけの小銭を全部使ってしまうことにする。これでこの話はおしまいになる、おしまいになるはずだった。

傷の付いた硬貨はそれから何度も、何度も、傷を深めながらオレの元に戻ってくる。この前はとうとう傷の断面で指を切った。幾人もの手を巡って鋭利な部分など存在しない筈の硬貨の傷で、何針も縫うほどに深い傷を。

観念したオレは、傷の付いた硬貨と再会する度にヤツの墓前に硬貨を返しに行くようになった。そして、何年もかけて全ての硬貨を奴に返したとき、まともな形で残っているオレの手の指は、たった三本だけになっていた。
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