カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

[ 贈る / 珊瑚 / 形成(イェツィラー) ] より・血赤珊瑚

2015-05-28 18:55:04 | 三題ランダムキーワード
 戦乱に追われて故郷から一人で逃げて来たと言う彼女は、両親の形見である赤い珊瑚の枝以外は何一つ持って来られなかったと泣いた。
 その境遇に同情した僕は伝手を辿って珊瑚の買い手を見つけてやり、彼女は記念にしたいと珊瑚をほんの一欠片だけ残して売った。それでは身に付けられるようにした方が良いだろうと、僕は知り合いの職人に頼んで残った欠片を磨き、指輪に加工して彼女に渡した。

 綺麗……と呟きながら指輪を見詰める彼女の表情が歪み切った笑顔でさえなかったら、僕はきっと彼女を自分の家に迎え入れていただろう。そして恐らく酷い結果を招いたはずだ。
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