彼女は常に爽やかな香りを纏っていたが、どんな香水を使っているのかについては内緒だと教えてくれなかった。だから悪いとは思ったがこっそり彼女の香水瓶の蓋を開けた途端、瓶の中から何かが飛び出していき、戻ってきた彼女は残念そうに、また集めないといけないわねと呟いた。
彼女は常に爽やかな香りを纏っていたが、どんな香水を使っているのかについては内緒だと教えてくれなかった。だから悪いとは思ったがこっそり彼女の香水瓶の蓋を開けた途端、瓶の中から何かが飛び出していき、戻ってきた彼女は残念そうに、また集めないといけないわねと呟いた。
義眼職人として最高の技術を持つ奴は、昔見た化け物の瞳の再現を試みているのだが足元にも及ばないものしか作れないと仕事以外でも義眼を作っては叩き壊していた。やがて奴は仕事場で骸と化しているのを発見されたが、眼窩には眼球の代わりに化け物じみた外観の義眼が嵌っていた。
外国製の古いメンソール吸入器に精油を垂らそうとショッピングモールの店内を見ていたら、片言の日本語でコレなんの香りですかと歯磨き粉を差し出された。何も考えずにミントだと答えたら相手がメンタ?と訊ね返してきたので今度はメンタと言い直したら物凄く感謝され握手で別れた。
引用ツイート
本来は禁制の品なのですがと彼が鞄から取り出したのは、くすんだ金色をした半透明の丸いオブジェだった。夜空に浮かぶ星を秘伝の技術で圧縮して光だけになったものを加工して作ったと言う。ちなみに光とはその星の生命そのもので、故にこれほどまでに美しく罪深い輝きを放つのだ。
「手相と言うとオリエンタルなイメージがあるんだが」
「意外かもしれんが嘗てジプシーと呼ばれた連中の占いは手相が主だったという説がある。まあ、連中の出自自体がエジプトではなくインドだしな」
「なるほど、それでお前はこのカードで占いが出来るのか?」
「いや全然」
彼は私の犯した罪を赦さずに去って行った。最後に残されたのは青いケースに収められた真珠貝の十字架。そしてその十字架で世界が終わるまで磔刑を受け続けるであろう神の子と呼ばれる哀れで偉大な救世主は、これが私の背負ったお前の罪であると絶え間なく囁きかけてくるのだ。
蚤の市で買った人形が泣くからどうにかしてくれと言われたので見に行ったら、睫の付いた眼とそれを支える僅かな骨格だけの姿をしていた。話を聞くと一度もまともな人形の姿にして貰えなかったのが悲しいらしく、とりあえずは物好きな人形職人を奴に紹介することで事態は解決した。
ものに宿る思いは必ずしも劇的ではなく、例えば生涯生まれ故郷の田舎町で平穏無事な日常を暮らした人間の遺品などに宿る思いは当然のように地味で平凡なものだったりする。見せ場がない訳ではないが、そこに至るまでの時間が長すぎて全部の話に付き合うのは不可能だと彼は言った。
引用ツイート
本来なら目の前を通り過ぎて行くだけだった世界の欠片を、彼女は夢中で拾い集めては標本にした。それは美しいものと醜いもの、難解なものと平易なもの、善なるものと邪なるものが並び立つ不思議な世界だったが、それを正しく読み解ける人間はこの地上に彼女以外は存在しなかった。
たかあきは雪国の地方都市に辿り着きました。名所は古い水族館、名物は果物だそうです。
隔絶された共同体というのは怖いもので、傍目からは寂れた観光地でしかないこの土地では余所者が触れてはいけない幾つもの禁忌が存在する。ちなみに触れてしまった余所者は土地の人間によって密かに水族館や果樹園に連行され、冬の雪解けが過ぎても行方不明のままだったりするから余計に怖い。
隔絶された共同体というのは怖いもので、傍目からは寂れた観光地でしかないこの土地では余所者が触れてはいけない幾つもの禁忌が存在する。ちなみに触れてしまった余所者は土地の人間によって密かに水族館や果樹園に連行され、冬の雪解けが過ぎても行方不明のままだったりするから余計に怖い。