カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

浄眼隊長

2016-07-18 00:28:51 | 色々小説お題ったー(単語)
「制服」「伊達眼鏡」「不意打ち」がテーマ

 たまにダンジョンに手強いモンスターが発生すると、中央から兵が派遣されてくる。青い制服を身に纏った討伐隊の隊長は変わった形のゴーグルを掛けていて、噂ではそれで隠れたモンスターの姿を見定めると言われていた。しかし実際、隊長はゴーグルを外した眼で穏形のモンスターを見据えていたと、案内役として討伐隊に同行した父が後に教えてくれた。
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場面その5

2016-07-17 22:37:49 | 松高の、三羽烏が往く道は
 其疾如風、其徐如林、侵掠如火、不動如山。
(其の疾きこと風の如く、其の静かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざる事山の如く)

 これは信州松本にも深い所縁のある、甲斐の虎と称された武田信玄が旗印として使用していたという孫子の兵法書である軍争篇の一節だが、かつて柔道を志していた頃の優吾は更にこの後に続く言葉、つまり、

 難知如陰、動如雷震
(知り難きこと陰の如く、動くこと雷震の如し)

 を含めた姿で称され、近在の柔道者に恐れられた負け知らずの存在だった。橋本も実は公式、練習、更に野試合を含めて、ただの一度も優吾に勝てたことはない。
 何しろ柔道の才能だけでは無く体格にも恵まれ、それでいて決して奢らず地道な練習を欠かさない、更に対戦相手を侮らず見くびらず、ただ揺るぎない巌のように対峙して機会を得れば疾風のように迫り、更に燎原の火を思わせる勢いで攻め立て、仕上げに雷撃のような決め技を放ってくる何とも図りがたい化け物。
 それでも橋本は決して諦めずに優吾に向かっていき、優吾もそんな橋本とやがて僅かだが言葉を交わし合うようになり、いつしか二人の間には、友情と言うには余りに堅苦しい関係が何となく築かれていくことになった。橋本にとって優吾はいずれ並び立ち、やがては越えるべき目標であり、それ故に日々研鑽を重ねていたのだ。
 だが優吾が中学三年になる少し前、彼の母親が亡くなって間もない冬の頃。優吾は突然道場に通うのを辞め、学校の柔道部も退部し、当然のように試合にも一切出場しなくなる。周囲の動揺と慰留は相当なものだったが優吾の決心は揺るがず、何故柔道の道を断念したかについても自身からは一切説明しようとしなかった。
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東の傀儡師と西の人形師

2016-07-15 00:13:16 | 色々小説お題ったー(単語)
「怒らないで」「前髪」「映画」がテーマ

 繰演術は対象の傀儡が増えるほど困難になる。そんな訳で術の粗が目立たないように影絵の人形劇で修行の成果を発表することにしたのだが、蝋燭の炎が幕に燃え移り観客の前髪を焦がすに至って師匠から稽古場を叩き出された。半端な繰演術しか使えない俺がどうやって生きてきたかは、いずれ又の機会に語ろう。
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擬態

2016-07-14 00:28:14 | 色々小説お題ったー(単語)
「耳」「扇風機」「笑顔」がテーマ

 チョンチョンというのは基本的に巨大な耳を羽根代わりにして飛ぶ人間の首という、なかなかにグロテスクな形状をした吸血モンスターだが、その地方に棲息するチョンチョンは何故か羽根付きヒョウタンにつぶらな目を描いたような愛らしい姿をしているので、油断して近付いた挙げ句に血を吸われる阿呆が後を絶たない。
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蒼い蝶

2016-07-13 18:57:40 | 色々小説お題ったー(単語)
「青」「蝶々」「ひとりぼっち」がテーマ

 メイフワタリ蝶は日光の下では普通の白い蝶なのだが、何故か深夜に群れを成して飛ぶときは蒼白く輝いて見える。そしてそんな蝶柱とでも呼ぶべき姿が家の扉前に現れるのは遠く離れた地で息を引き取った家族の誰かが最期に戻って来た姿だと言われていて、残された家族は、せめて長旅を送ってきた魂の渇きを癒してやろうと水を備えるのだ。
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友達に会いに

2016-07-12 00:17:08 | 色々小説お題ったー(単語)
「黄」「日傘」「ひとりぼっち」がテーマ

 モンスターがいない観光用ダンジョンの片隅で、何故か黄色いスライムを見付けた。両親がダンジョンの管理人で周囲に同い年の子供がいなかった私はその子と仲良くなったが、ある日、日傘を差して外に連れ出していたときに父に見付かり、その子はダンジョンの奥底に捨てられた。だから私は探索者になって、今のその子を捜している。
 黄色いスライムなんて見たことも無いと、何度も言われ続けながら。
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隣を歩くのは嘘という名前の相棒

2016-07-11 00:09:45 | 色々小説お題ったー(単語)
「嘘」「金髪」「トランス」がテーマ

 俺の相棒は普段はどうと言うことのない焦げ茶の髪をした冴えない男なのだが、訳あって己自身に掛けているらしい変異魔法を解くと見事な金髪を持つ美女に変わる。一体どういう理由で姿を変えているのか、真の姿はどうなっているのかなど謎は多いが、その辺に触れると絶対にややこしい事になるので黙っている。
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場面その4

2016-07-10 23:31:07 | 松高の、三羽烏が往く道は
 その日、優吾は授業が終わるとすぐに寮の自室に戻って袴をはいた和装に着替えると、学帽も被らぬ下駄履きで校門を出た。見上げると空は未だ明るく澄み、山の端に一掴みほどの雲が浮いている以外は地上に降り注ぐ陽光を遮るものはない。そのまま、町には向かわず校門前の通りを左に折れ、すぐ側にある松本商業学校を目指すと、橋本は約束通り、校門からやや離れた場所で優吾を待っていた。
「待たせたか?」
「……いや」
 口数少なく問い掛ける優吾に、やはり口数少なく橋本が答える。そのまま二人は連れ立って歩き出すと、すぐ側を流れる川縁の道を東に向かって遡るように進んでいった。
 やがて人家はまばらになり、傍らに苗が植えられたばかりの田んぼが延々と続く道から人の姿が絶えた辺りで、無言のまま河原に降りる優吾に、やはり無言のまま続く橋本。そのまま川縁に座り込んだ二人は、絶え間なく音を立てて流れ去って行く水の流れに目を向けたまま微動だにせずに長い時間を過ごすばかりだったが、こうしていても埒が明かないと判断した優吾は、二人の間に横たわる屍のような沈黙を思い切って自分の方から踏み越えた。
「この前の騒動は、お前らしくなかった」
「ああ、俺もそう思う」
 優吾の言葉に対して素直に頷いてから、橋本は、やや途切れがちにではあったが話し出す。
「あの女学生は、俺の妹の先輩だ」
 だが、俺が職人見習いの友人に頼んで妹の為に作って貰った特別誂えの櫛を差し出すほど、仲が良い相手ではないと思う。そんな風に続いた橋本の言葉に対して流石に眉をひそめる優吾。
「あまり、こういうことは言いたくないのだが、証拠はあるのか?」
「妹が櫛を無くしたと泣いて俺に謝った次の日、あの女が同じ意匠の櫛を髪に飾っていた。だから俺も頭に血が上った」
「それは難しいな」
 呟いてから黙り込む優吾。やがて今度の沈黙を破ったのは橋本だった。
「俺のことは良い、それより知りたいのはお前についてだ優吾」
 一体、どのような理由で柔道の世界から身を引いた。そんな橋本の問い掛けに優吾は無言のまま俯く。
「この前俺を投げ飛ばしたお前の技に衰えは感じなかった。それなのに何故だ」
 更に続く橋本の言葉に、優吾は無言で立ち上がると周囲を見回してから呟く。
「ここでは足場が悪い、余所に移るぞ」
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研究の成果

2016-07-08 21:01:41 | 色々小説お題ったー(単語)
「メモ」「血清」「蜂蜜」がテーマ

 兄の部屋を掃除している時、勉強机の上にあったメモ書きを何気なく読んだら傍らの薬瓶から精霊が湧いた。何でも蜂蜜の小瓶と引き替えに兄と契約したらしい。それなら何が出来るのかと聞いたら癒やしの魔法が使えるというのでやらせてみたら、痛いの痛いの飛んでいけーと撫でられて終わった。兄は本当に魔道士資格を取れるのだろうかと、いきなり不安になった。
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もう帰らないあの人

2016-07-07 20:42:39 | 色々小説お題ったー(単語)
「書き置き」「空」「自己防衛」がテーマ

 君へのプレゼントにする宝物を掘り出してくるよ。五年前にそんな書き置きを残して彼はダンジョンに潜り、未だに私の元に帰って来ない。だから私は暇さえあれば空ばかり見るようになった。あの人を飲み込んだ暗い穴蔵ではなく、何処かにあの人が隠れていそうな空を、ずっと、ずっと。
 ある日知らない街から届けられた、彼の文字で『許して欲しい』と書かれた手紙を見なかったことにしながら。
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