カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

店の名は琥珀亭・宴の後に

2017-04-15 17:45:26 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【転がる蝉の死骸】というテーマで創作してください。

 夏の終わりになると、あれ程賑やかだった筈の蝉は残らず力尽きたように鳴くのを止め、その力尽きた骸を地面に晒す。子供の頃、楽師が蝉たちは幸せだったのかなと父親に尋ねると、彼の父は何故か寂しげに笑いながら、どうだろう、でも蝉たちが出来ることは他に無かったと思うよと答えてくれた。
 今なら、楽師もその言葉の意味が分かる気がする。
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店の名は琥珀亭・冬に咲く花

2017-04-13 22:54:10 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【山茶花の蕾】というテーマで創作してください。

 故郷に咲いていた赤い花とよく似た花の蕾が開き、寒い季節を彩るかのように咲き誇り、やがて全ての花びらを散らしてしまった後も、楽師は港町を離れずにいた。己の立場を考えれば街に迷惑がかかる前にこの土地を離れなければいけないと判ってはいても琥珀亭の店長やその娘だけでなく、彼の楽才を認め祭の楽師に任命してきた監督や先生とも離れ難かった。だから、せめて祭が終わるまで、そして祭が終わったらと固めた筈の決心が無様に揺らいでいく。
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店の名は琥珀亭・天まで届け

2017-04-12 23:50:21 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【想いは飽和せず】というテーマで創作してください。

 祭の時期が近くなると活動的になるのは、監督だけではなく先生も同じだ。特に歌い手である中年女性の奇麗な歌声をキープする為に懸命となり、普段から低い腰を更に低くしながらも熱心に指導に当たるのが常だった。先生が言うには歌声というのは祈りと同じで、天に届く程に純粋で汚れのない存在であるべきなのだとか。
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店の名は琥珀亭・流れる砂

2017-04-11 23:52:14 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【水底】というテーマで創作してください。

 港街の外れにある砂浜は暖かくなると子供達にとってお気に入りの遊び場となる。砂を掘ったり積んだり、小さな潮溜まりを作って生き物を眺めて遊ぶ子供達が一番不思議がるのは、波の満ち引きに足を浸す自分の体が、まるで指一本動かさぬまま移動しているかのような感覚に囚われる、魔法のような一瞬だった。
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店の名は琥珀亭・清貧と言う名の貧乏

2017-04-10 23:44:45 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【財布の中身】というテーマで創作してください。

 結局のところ自分の父と家族は正しかったのだろうと、貧乏神官はたまに思うことがある。自分はともかく、自分の大事な人にひもじい思いをさせたくはないと思うのはごく自然な感情だ。だが、自分はそのひもじさですら越えた場所で成立する信仰を手に入れ、それに殉じると自ら決めた。決めた筈だったと思う。琥珀亭の料理を目の前にすると途端にその自信が揺らぐのは、きっと修行不足の故だろうそうに違いないと。
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店の名は琥珀亭・貧乏神官の友達

2017-04-08 10:27:42 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【紙飛行機】というテーマで創作してください。

 昔の話だが学舎に変わった友達がいてねと、貧乏神官は話し始める。その友達はいつか人が空を自由に飛べる日が来ると信じていて、神官に近付いてきたのも彼が空を飛ぶ天使に助けられたという噂を聞いてだった。神殿の教義からすると異端とも言える、下手をすれば審問会にかけられかねない危険な思考は、友達が幼い頃に育った小さな島から遠く離れた本土を見ながら思い続けてきたものらしい。
 だが、結局友達は学業半ばで家業を継ぐ為に故郷に帰ることになり、最後の日に神官の前で紙を折って作った不思議なものを宙に向かって投げ、それは確かに短い間だが鳥のように空を舞った。
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店の名は琥珀亭・逆説の相似

2017-04-06 21:47:09 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【想いは飽和せず】というテーマで創作してください。

 どうして出会うべき最良の時期に出会えなかったのか、どうしてあの人の傍らには既に大事な他人が居るのかとごねる妹の言葉に、兄であるギルドの有力者は無言で頭を抱える。そう言うものだと道理を説けば間違いなく妹は更に逆上するだけだろう。しかしあの初老で小柄で無愛想で、若い頃ですら大して美男子だったとも思えない店長の一体何処が面食いだったはずの妹の琴線に触れたのかと考えて思い当たるのは、若い頃から伊達者で鳴らし、外面以外は最悪の人間だった二人の父親に全く似ていない事だった。
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店の名は琥珀亭・遠い日の傷痕

2017-04-05 23:55:26 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【獣の咆哮】というテーマで創作してください。

 昔の話だが、店長は夜に眠りながら泣き続ける事が何度もあった。まだ小さかった頃の娘はそんな店長の姿に気付く度に手を握り、店長も無意識のうちに握り返していたが、ある日の夜に凄まじい咆哮を上げた店長に娘が殆ど躊躇いなくしがみつき、店長が娘の体を強く抱きしめ返した日以来、夜に泣く事はなくなった。
 あの日自分を抱きしめた店長の腕は一体誰の元に届いたのだろうと、娘は今でもたまに考える。
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店の名は琥珀亭・痴情のもつれですらない

2017-04-04 22:11:01 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【接続不要】というテーマで創作してください。

 何故かいきなり店に押しかけて来て、「店長はもっと幸せになれるはずなのに、どうしてもっと周囲を見ないの!」などと説教じみた事を言い出した商人ギルドの実力者ご自慢の妹の話を、彼女を箒で追い払おうとする娘を何とか宥めながら一通り聞いた後に「結局、お前の話は俺を好きだという自分のことばかりだな」と店長が答えると妹は泣いて帰っていき、数時間後に兄が怒鳴り込んできた。
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店の名は琥珀亭・あるラブロマンス

2017-04-03 19:49:38 | ワンフレーズで創作お題
たかあきで【白線死亡ゲーム】というテーマで創作してください。

 父親に勘当されたギルド長は、本来なら生涯、故郷である港町に戻る気は無かったらしい。しかし風の噂で若くして先代ギルド長に就任した幼馴染みが血の繋がらない娘を残して亡くなったと聞いて飛んで帰り、父親に土下座して謝罪すると何とかギルド内で下積みから働くことを許可された。やがて実績を重ねた彼は幼馴染みを失って寄る辺ない身寄りとなっていた娘に求婚し、祖父母も両親も兄弟も皆死んでしまったと泣くばかりの娘に僕は死なないと断言して、めでたく結婚まで漕ぎつけることが出来た。
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