東京と言えば蕎麦。
名店が数々あると昔から聞き及んでいてですね…
その蕎麦の名店の中の、ひとつでいいから一度は行きたいなと、昔から常々思ってた訳です。そんなお店の暖簾を潜るのが憧れでした。
でも、今回の東京滞在中にはスケジュール的に無理かなと諦めてたら…
あった。
泊まってるホテルのすぐ近くに。
思わぬ誤算とはこのことで。
朝にホテルの近くを散歩してたら、老舗「室町砂場」が目の前に。
急遽少し予定を変更して、こちらでお昼を食べることに。
「天もり」で有名なお蕎麦屋さんです。まずはこれを食べなきゃ始まりません。
温かな汁にかき揚げが入っていて、これに冷たい蕎麦を浸して戴く。
この佇まいからして蕎麦好きにはたまらないかと。
当然のようにビールもいただいてたのですが、このつけ汁だけでアテになります。
それにしても、何故に蕎麦屋さんの天麩羅はお酒にピッタリなのか。天麩羅屋さんとは違い、まさしく「アテ」。
この天もり。しっかり揚げられたかき揚げの、まだ汁に浸かってない部分はカリカリとしていて、海鮮の旨みが香ばしさと共にほとばしる。
一方の、汁に浸された部分はしっとりとしていて、噛むと蕎麦つゆをたっぶり含んだかき揚げからは、ジュワッと蕎麦つゆの風味とその旨みが一気に溢れる。後から拡がる、揚げ油の香りは食欲を煽る。
あ、アレです。
「どん◯衛」の天そばの、後乗せかき揚げ。あれのとんでもなく凄いやつ。
蕎麦マニアの方からは怒られそうな例えですが(笑)。
念のため、僕は「ど◯兵衛」もあのお値段であの味わいというのは、とんでもなく素晴らしいとおもってますよ。本当に。
閑話休題。
ビールがすすみます。止まらんのです。
そして徐ろに、それを突き崩した所へ蕎麦を浸して啜れば、あらゆる旨さが蕎麦の香りと渾然一体となって口に雪崩れ込む。
…うっとり。
もちろん、蕎麦屋さんならではのつまみもあります。
メニューには「わさび蒲鉾」と。いわゆる板わさですね。お通しが茹でた空豆というのも渋い。
これでゆっくりお酒をいただいてから、天もりを楽しんだわけです。
ただ。
江戸の蕎麦文化のひとつなのか、蕎麦の盛りはかなり少なめ。
「あくまで小腹を満たすのが蕎麦なので、蕎麦でお腹いっぱいにしてはいけない。少しお酒をいただいて、サッと蕎麦を手繰るのが粋。従って東京の蕎麦は盛りが少ない」
と、いう話も聞いたことがあったのですが、本当にザルの上にうっすらと盛られた感じ。北海道の盛り蕎麦の半分くらいで、これが江戸っ子の蕎麦なのかとしみじみ。
えーと。
…まぁ、それはそれとして。
(^_^;)
江戸っ子ではないのでいつも通り、蕎麦で腹をとことん満たそうかなと。
しかも、こちらのお店、「もり」と「ざる」で蕎麦自体違うのです。
なので、当然追加。
「別製大ざる」です。確かに違う。こちらの方が噛み応えがありました。蕎麦の風味や歯応え、喉越しを楽しむならこちらの方がいいかも。
これぞ江戸の蕎麦、といった堂々たる風格。
で。
こうなると温かな蕎麦も食べたい。
花巻を追加。
蕎麦つゆの風味と溶け合いながら立ち昇る、海苔の香りがたまらない。
最初は別盛りの葱は入れずに。この香りを十分堪能しつつ、半分くらい食べたところで葱を。鮮烈な葱の自己主張を楽しみながら、汁も残さず完食。
花番さんもこのころには「よく食べるな~」という表情でしたが(笑)、今までいただいてきた蕎麦はまさに一期一会。またこちらのお店に来ることができるかどうかはわからないので、後悔しないように全力でいただきました。
それにしても、花番さんの雰囲気も素敵でした。
「いらっしゃいまし」とお客を迎えるのが伝統なんですね。それだけでワクワクしてしまいました。
接客も、例えば最初の天もりとわさび蒲鉾は、ビールと共に同時にオーダーしたのですが、まずわさび蒲鉾を出してくださり、花番さんは僕がビールを飲みつつ、おつまみを食べ進めていくスピードをさりげなく察しつつ、絶妙なタイミングで改めて天もりのオーダーを通してたんですね。
で、その結果見事に、僕がおつまみを食べ終わった瞬間に、出来上がったばかりの天もりが目の前に。
ジャストミートなタイミング。素敵。
これは今となっては、中々他のお店では体験できないおもてなし。この「察し」をしてくださるお店、僕はとてもありがたく感じます。
これもまた、長く続く江戸の蕎麦文化を継承するお店の横綱相撲、ってやつですね。